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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1382話、見え隠れする狂気


 フリカス兵器工廠とグルアグ研究所を狙ったシャドウ・フリートの襲撃は、ほぼ完了した。


 だが真・大帝国もやられっぱなしということもなく、増援部隊を送り込んできた。

 シェイプシフター索敵士の報告では、戦艦5隻、空母2隻、巡洋艦8隻、駆逐艦22隻だそうだ。


「側面を突いたつもりだろうが、そうは問屋が卸さない。第五十三巡洋艦戦隊、先制攻撃!」


 シャドウ・フリートに所属する球磨級重雷装巡洋艦『五十鈴』『名取』『鬼怒』が、多数の対艦ミサイルを発射。やってきたばかりの大帝国艦隊に先制パンチをぶつける。

 結界水晶対策ミサイルのため、連中が結界水晶で防御していても、貫通。本体にダメージを与えるという算段だ。


 目論見通り、複数の敵艦が被弾し、炎を上げる。戦艦1隻――標準型のサヴィル級戦艦が飛行能力を失ったか墜落していく。クルーザーや駆逐艦にも爆沈したものが見えた。


「まあ、あんなもんか」


 ベルさんがコメントした。いくら重雷装巡洋艦でも、無傷の艦艇全部を一度には沈められないさ。


「ここからが本番だ。全砲門、敵戦艦に指向。各個に撃ち方始め!」


 結界水晶防御の心配は不要。敵も発砲を始めたからだ。プラズマカノンは結界水晶防御の膜を貫通できない。敵が使えるということはこちらも使える。

 45.7センチ三連装プラズマカノンが、素早く旋回。左舷側の敵戦艦に狙いを定めると発砲した。


 敵サヴィル級に伸びた青い光は、その装甲板を撃ち抜き、一撃でその船体を大破させる。こっちの主砲が、敵の装甲の許容する威力を上回っているからこそだ。


 2隻の重巡洋艦『ヴァンジャンスⅡ』と『フィエリテ』は無数の主砲で、敵クルーザーの進撃を阻めば、『アンバル』『グラナテ』が15.2センチプラズマカノンを撃ちながら、必殺の巡洋艦殺しである30.5センチ砲を発射する。

 数の不利などないような、火力による圧倒。真・大帝国の増援艦隊は、たちまちその戦力を喪失する。

 しかし残存艦は逃げない。明らかに不利、いや絶望的なのになおも果敢に向かってくる。


「見たかい、ベルさん。これが今の真・大帝国ってやつだ」


 狂信者と、それに妄信的に従う青エルフ兵によって統制された艦は、文字通り最後の1隻となっても戦いをやめない。


「どんな状況でも、彼らに降伏はない」


 果たして、作られた青エルフたちに戦意を喪失するなんてあるのだろうか。

 シャドウ・フリートの砲撃に爆発、墜落していく真・大帝国艦艇。その隙間を縫うように、駆逐艦が数隻向かってくる。


「スティグメ帝国と戦っていた時の彼らを見ている。いよいよとなったら、艦ごと体当たりしてくる」


 前に出たアンバル改級クルーザーへ向かっていく敵駆逐艦。だがそこへ何もない空間からミサイルが飛び出し、迫る敵艦を絡め取った。


 爆発、轟沈する敵駆逐艦をよそに、オーシャン級ステルスフリゲートが透明化を解除し、空間に飛び出した。

 アポリト文明時代のフリゲートを改造したオーシャン級は、潜水艦のように潜んでミサイル攻撃を仕掛けるのだ。

 戦艦『バルムンク』の艦橋から、その様子を見ていたベルさんは振り返った。


「これで全部、始末したか?」

「ラスィア」


 俺が呼びかけると、オペレーター席のダークエルフ・オペレーターが答えた。


「敵艦隊、全滅。味方艦は『フィエリテ』『アンバル』に被弾。ですが損害は軽微とのこと」

「当たったのかい!」

「むしろ、あれだけ戦って、軽微な被害で済んでいることを褒めなよ」


 俺は苦笑した。一発轟沈しないようにシールドや装甲は強化してあるんだけどね。これくらいに収まってくれないとむしろ困る。


「地上は?」

「施設は完全に破壊。グルアグ研究所の地下施設にも打撃を与えたと思われますが、詳細は調査をしないとわからないですね」

「あいにくと、長居している余裕もないんだ」


 一の増援は撃滅したが、第二、第三の増援も来る恐れがある。転移だけでなく、この工廠の近隣部隊とかな。


「予定どおり、レールガンを撃ち込んで、辺り一面掘り返しておこう。砲術長、レールガン、スタンバイ」

『了解』


 この『バルムンク』最強装備であるレールガン。シード・リアクターの無尽蔵な魔力を投入して砲弾を超加速させて打ち出す。一撃でクレーターができる威力は、地下施設ごと破壊できる。


 灰色の超戦艦は、煙を吐き続けるフリカス兵器工廠の廃墟から背を向け距離を取り、再度反転。艦首をグルアグ研究所のある地下に向ける。うーん、斜め! レールガンが正面固定されているから、下を撃つと自然と斜めるんだよね。


『艦首固定。レールガン、発射準備完了!』

「発射」


 感情を込めることなく、淡々と。『バルムンク』から放たれたレールガンは、『グングニル』のマギアブラスターで溶かし、露出させた地下に砲弾を撃ち込んだ。



  ・  ・  ・



 真・大帝国の帝都グラン・ディグラートル。宰相のフィーネ・グリージス・ディグラートルは、フリカス兵器工廠とグルアグ研究所が、シーパング同盟もしくは大帝国解放軍によって壊滅したと報告を受けた。


「ふーん、そう」

「宰相!」


 場にいたカグン国防大臣が眉をひそめた。


「シーパング同盟と戦う切り札となる魔器の製造工場と、その研究施設をやられたのですぞ! 事は重大ですぞ」

「カグン国防大臣、あなたに言われなくてもわかっているよ」


 フィーネ・グリージスは、羽筆の先をいじった。


「だが軍は防衛に最善を尽くしたのだろう? それ以上できることもないのに、私にどういう反応を期待するのだ? 私に悔しがれとでも?」

「そ、それは……」


 ばつの悪い顔になるカグン大臣。年齢が一回りも下である宰相に、形無しである。


「さすがシーパング。さすがはジン・アミウールだということだ。的確に嫌なところを突いてくるじゃないか。まあ、わかっていても阻止できないのではしょうがない」

「わかっていた……ですと?」

「おいおいカグン国防大臣。当然だろう?」


 フィーネ・グリージスは目を細めた。


「彼の行動パターンからすれば、我々の痛いところから突いてくるのは自明であっただろう? ……まさか、彼が攻撃してくるだろうことを予想していなかったなんて言わないよな?」


 すっと、底冷えするような空気が執務室に流れた。


「まさか、軍もフリカスとグルアグの襲撃を予想してなかったなんて言わないでくれよ? おいおい、しっかりしてくれよ」

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