第1380話、市街地想定と、攻撃目標選び
結局のところ、兵器を作っているところを叩けってことだ。
それはつまるところ、基本中の基本で、民間人のいる市街地ではなく、軍事工場を狙うということである。こういう考えは俺のような現代人や、人類を守る社会である機械文明テラ・フィデリティアの思考であり、この世界の武人思考だと『関係ない。燃やせ』となる。
いや、俺のいた世界でも、割と現代でもあるか。国際社会的には、民間人を巻き込むのはよろしくないと声は上がれど、容赦なく蹂躙している奴らもいるものだ。
大帝国解放軍をシーパング同盟に取り込んでいなかったら、同盟各国は、敵がいるなら都市、集落も焼き尽くせと平然を命じそうではある。都市や集落は、襲え、燃やせ、略奪が、割と普通なのだから修羅の世界である。
……それでなくても、大帝国に恨みを持っている人間は多い。
さて、シェイプシフター諜報員が集めてきた真・大帝国国内の情報を諜報部がまとめ、ディアマンテと精査し、攻撃目標を選定していく。
「――それで、目星はついたのかい?」
黒猫姿のベルさんが聞いてきた。
ただいまヴェリラルド王国南方侯爵領――つまり俺の領地内の演習場にいる。荒野だけどね。広いから、演習に使っている。
「まあ、いくつかな。大破壊兵器や環境破壊兵器……。一発の被害がデカい兵器を作る拠点は真っ先に叩くべきだ」
進軍したシーパング同盟軍部隊が、たった一発で壊滅なんて、洒落にならないからな。
「ただ、強力であればあるほど、敵さんもガードが固くなるからな。秘密拠点なんかで作られているなんてものもあるのだろう」
「そっちは厄介そうだ」
ベルさんは笑った。他人事だと思ってお気楽なもんだ、この大魔王様は。
「で、その候補とやらは?」
「とりあえず三つな。ひとつは、真・帝都に近いところにある魔法軍特殊開発団の地下研究所」
「魔法軍特殊開発団といえば――」
「魔器やら何やら、ヤバいものを作らせたら大帝国一の組織だな。魔法文明やアンバンサー技術などを積極的に活用している部署だ」
「そうじゃねえだろ? お前さんらをこの世界に召喚した、因縁深いとこだろ?」
そうなのだ。俺や、リーレ、橿原ら異世界人をこの世界に召喚した設備があって、研究していた連中だ。ベルさんも油断があったとはいえ、借りがある。
「そこを叩く時は、必ずオレ様を呼べよ」
魔法軍特殊開発団を絶対始末するマンになっているベルさんである。
「そうするよ。兵器開発に関しては、やはりここが一番ヤバい。面倒なのは、ここがほぼ真・帝都にあるってことか」
「防御が厚いって言うんだろ。……あれ? 帝都の近くじゃなかったか?」
「あの帝都、作りが特殊だからさ。施設の半分は帝都の地下に食い込んでいる」
「近くとは?」
ニシシ、とベルさんは笑った。
「行くとしたら、やっぱ奇襲か?」
「だろうな。再編されたシャドウ・フリートで敵中枢へ向かい、帝都防衛隊とドンパチやりながら、施設を破壊する」
「もういっそ、真・帝都も占領しちまって、新しい皇帝を始末したらどうだ?」
「宰相な。フィーネ・グリージスは大皇帝の後継者に指名されたが、肩書は宰相のままだ」
「皇帝にはならなかったのかい?」
「何でだろうな。とにかく、彼女は宰相で通している」
個人の趣味という奴なんだろうか。隠し子ではあるが、皇帝は柄ではないとでも思っているのかもしれない。
同じく隠し子だったシェードも、皇帝の座はいらないと、当の大皇帝の誘いを断っていたっていうし。
「それはともかくとして、普通の相手だったなら、一点突破で帝都を落としてチェックメイトって手も考えたんだが、ディアマンテら機械コアの計算によると、フィーネ・グリージスを討っても、戦争は終わらないと出た」
「ほう……。普通、国王なり総大将が討たれれば、戦争って終わるもんじゃないかね」
「真・大帝国の場合は、そう簡単じゃないのさ」
俺は双眼鏡を覗き込む。
演習場に、アーマード・ソルジャー――ソードマン・スケルトンが現れた。ステルス機能を持たせたソードマンの最新バージョンが、標的であるゴーレムに対して近接戦闘を仕掛けている。
これからは市街戦も増えると思われるから、近接戦闘訓練を重視しているのだ。
「終わらない理由のひとつが、今の大帝国を動かしている連中が皇帝親衛隊の後継者と、それに従う青エルフ兵だってことだ」
真・大皇帝であるクルフが退場したが、戦争を辞めたか? 答えはノー。大皇帝の理想実現のためなら、命を捨てる連中が狂信的に、盲目的に従っている。
盲目的といえば青エルフ兵もそう。あれらは彼らを作り出した創造主に絶対の忠誠を誓い、親衛隊が戦うなら同じく戦い続ける。
「親衛隊は理想のために自国の民ですら殺せる。そして青エルフ兵は、大帝国の土地や民に何の愛着もないから、親衛隊の命令に対して何の躊躇いの感情がない」
だから大帝国にとっては母国防衛戦争でも、青エルフたちには無関心だ。国が占領されまくって、もう勝ち目がないからと士気を失い、厭戦気分が起こる、なんてことは絶対にない。
「自分から武器を捨てない。降伏しない。親衛隊上官が死守を命じれば、死ぬまで戦う」
「フィーネ・グリージスを始末したところで、各地の守備隊は降伏しない、か」
ベルさんは天を仰いだ。
「アンバンサーの機械や、テラ・フィデリティアの置き土産じゃねえんだ。自分たちで考えればいいものを」
「青エルフは、従うように作られているから、しょうがないよ」
独立心はない。そう作られたのだ。このエルフの姿をした生き物は、実質はロボットみたいなものだ。親衛隊連中も、手駒以上には思っていない。哀れな人形たちだ。
「もう、滅ぼすしかねえんじゃね?」
「その答えが一番怖いんだよ」
向かってくる以上は仕方がない。戦わなければ、こっちが殺される。自分自身、家族、身近な人たち。それらが殺されないように戦うしかないのだ。
ほんと、講和とか話し合いがつく相手ならよかったんだけどな。世の中、話ができない奴、わからない奴、わかろうとしない奴が多すぎる。
「おやおや……」
ベルさんが目を細めた。障害物の多い演習場を巧みに動くソードマン・スケルトン。その姿がステルス・シェードで消える。そして次の瞬間、標的の背後で別のソードマン・スケルトンが透明化を解いて出現。近接用ブレードで、標的ゴーレムのコアを一刺しした。
「お見事。……でも何で、攻撃の前に姿を現した? 消えたまま攻撃すればいいものを」
「さあ、何でだろうな?」
訓練担当教官の指示か、あるいはパイロットが、騎士道精神を発揮して、攻撃の時は正々堂々なんちゃら、とか……。
「知れば納得なんだけど、知らないと人間の行動って時々不可思議だよな」
「青エルフ兵なら、きっとこんなことはないぜ」
うちのシェイプシフター兵もな。ベルさんは言った。
「この演習ってあれだよな。都市や集落に立てこもる敵魔人機対策ってやつ」
「言わなかったっけ?」
町や村の中に陣地を作って備えている真・大帝国の防衛部隊。それを相手に正面から力押しすれば、彼我とも被害が大きくなる。だから特殊部隊流の、こっそり近づいてガツンとやる奇襲戦術を訓練して、少しでも被害少なく制圧しようってやっているのだ。
それでなくても、陸軍戦力じゃ真・大帝国側が数で圧倒的に勝るのだから。まともにやっていられない。
「で、あと選定した残る二カ所はどこだ?」
ベルさんは聞いた。
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