第1361話、一つの戦いが終わって
宇宙より大挙飛来したアンバンサー艦隊は、駆けつけたテラ・フィデリティア艦隊の防戦により、全滅した。
惑星に降下してきた敵艦隊も、俺たちシーパング同盟艦隊によって最後の1隻まで撃沈された。
俺は、第5艦隊の旗艦である『ディアマンテ』にいる旗艦コアに確認を取る。
「軌道上のテラ・フィデリティア艦隊とは交信はできたか?」
『はい、閣下。こちらの予想どおり、あれはコア制御の無人艦隊でした。ただの一人も、人類の搭乗員はいないとのことです』
「そうか……」
機械文明の時代のことを知っているか、あるいはその子孫が宇宙で生存していたかも、と思ったが、淡い期待だったようだ。
「今後はどうするべきか。……あちらの艦隊コアは何か言っているか?」
『人類から与えられた使命は、星の守護。異星人からの防衛です』
ディアマンテは言った。
『新たな指示がくるまで、宇宙にて侵入者に備えるとのことです』
うん、まあ、それが無難かもしれないな。地上に降りたら降りたで、今の人類が黙っていないだろうし。星の海で、その任を全うしてもらう分には、俺たちに害はない。
『ただ、閣下の話をしましたら、貴方をテラ・フィデリティアの後継者と認め、如何なる命令にも答えると言っていました』
ディアマンテの言葉に、俺は首を捻る。
「どうしてそうなるんだ?」
『当時を知る旗艦コアである私が、閣下をテラ・フィデリティアの後継と認めたからでしょう。現在の人類を見ても、おそらく一番テラ・フィデリティアについて理解し、それに考えが近い人間ですから』
なるほど。俺はこの世でもっとも機械文明人に近い人間なんだとさ。
「了解した。とりあえずは、アンバンサーがまたやってきた時のために、守護者さんたちには、この星を宇宙から守ってもらう。地上のことは、俺たち地上にいる者で何とかしよう」
『承知いたしました、閣下』
ディアマンテとの交信を終える。
地上のことは、か……。こっちはこっちで色々あるんだよな。
俺は思わず溜めていた息を吐いた。戦艦『バルムンク』の艦橋の外、夕焼けに染まる空を眺める。
戦闘を終えて、シーパング同盟艦隊は、補給と修理作業の真っ只中にある。数機、全体では数十機の戦闘機が、空中警戒のために飛行している。
アンバンサー大要塞。内部からの自爆、リアクター暴走の連鎖により、円柱部分は内側から割れて、四方に残骸が散っている。広い範囲ではないのは、寸前までディフェンスシールドがあって、飛散範囲を抑えた結果だろう。
崩れてはいるものの、物が大き過ぎるだけに、大要塞遺跡として、おそらくここに放置され続けるんだろうな。
少なくとも、通常の方法での撤去は不可能だろう。
まあ、それはそれとして、これからのことだ。俺は考えを巡らせる。
ディグラートル大皇帝は、あの戦いで死んだ。いやまあ、クルフの奴は死なないんだけど、少なくとも今回の戦争にはもう関わらないと言っていた。
それを信じていいのかはわからないが、奴の残した大帝国との始末をつけないといけない。
クルフは今回の大要塞を巡る戦いで、その艦隊戦力のほとんどを投入したみたいだけど、本国にも戦力は残っているし、今の大帝国――真・大帝国ってのは、熱狂的なディグラートル信者。親衛隊がその中心だ。
大皇帝が戦死しましたって、潔く降伏するとも思えない。もちろん、投降は呼びかけるが、大帝国解放軍や、シーパング同盟に参加している各国がどう考えるかまでは俺の一存では決められない。
プロヴィアのエレクシアは、俺が言えば何でもそのようにしてくれそうだけど、連合国の他の国はどう考えるか?
かつての連合国の中心だったウーラムゴリサなどは、政府中枢が死んでほぼ無政府状態。シーパング同盟に参加した連合の国も、国の復興が優先になるだろうか。
真・大帝国にあまり時間を与えたくないし、解放軍と、シーパング本国軍を中心に、同盟軍から参加を確認して……ってことになるのかな。
終わってもないのに、戦後のことを考えるにもなんだけど、俺のシーパングはともかく、それ以外の国は大帝国打倒ないし降伏後に、領土だったり賠償金だったりを相当ふっかけることになるだろう。
大帝国解放軍が間に入ることで、多少は緩和されるだろうが、それでもディグラートル大帝国が、様々な国、人種、亜人や獣人その他に与えた損害は、天文学的な数字になりかねない。……ま、シーパング同盟に参加した国、人々以外には請求すらさせないけどな。
実際に戦い、命を落とした人々に冥福を祈る。戦いもせず、他人任せや事なかれ主義を通した人々にはご遠慮願う。
スティグメ吸血鬼帝国は滅びた――らしいけど、なにぶんディグラートルの仕事だったわけで、本当にそうなのかこちらでも確認しないといけない。
人の情報を鵜呑みにして、第二、第三の吸血鬼帝国が出てきても困る。そして今回、投降してきたグレーニャ・ハルたち吸血鬼軍残党についても、俺個人としては保護の方向に持っていきたい。
投降してきた、という時点で、少なくとも話し合いができる者たちということなのは、万人が認めるところではある。ま、吸血鬼憎しの感情で、問答無用を叫ぶ人間も出てくるだろうけど。どこまで明かして、あるいは機密にして、守っていくか。……個人的に知り合いってこともあるけど。
吸血鬼帝国との戦いの時は、敢えて考えないようにしていたけど、やっぱり殺し過ぎたよな俺も、クルフも……。
さて、戦後を考える前に、目先の真・大帝国にトドメを刺すのが先だ。
俺は、改めて艦隊編成表を呼び出して眺める。
作戦前は625隻を数えたシーパング同盟艦隊だが終わってみれば、およそ260隻前後まで減っていた。
途中、プネヴマ艦隊が参加し、50隻以上が加わったと聞いたが、400隻以上の艦艇が失われたことになる。
残った艦艇も半分以上が、中・大破で、即時戦闘は不可能というほどの損害だ。260隻近くが、すぐに戦闘できるかというかといえばそんなこともなく、被害は甚大だ。
艦艇だけでこれだが、航空機はもちろん、魔人機やAS、上陸部隊の兵士たちにも多くの死傷者が出ている。むしろ、こっちのほうが大きなダメージかもしれない。
シェイプシフター兵で補充はつくが、人間のほうは、そうはいかないのだ。
俺は改めて各艦隊の生存した艦艇リストを睨む。それだけでも結構な量だけど、これが撃沈艦のリストだったら、もっと長い長いリストになるんだよな……。
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