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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1352/1899

第1343話、降伏


 アンバンサー大要塞の内部。スティグメ皇帝を失った吸血鬼帝国に、如何ほどの戦力が残されているだろうか?


 大帝国が徹底的な吸血鬼駆除を行った結果、この世界に残っている吸血鬼がどれくらいいるのか? もはや天然記念物レベルではなかそうか?


 野心満々で、まったく知らない相手であるならば、そのまま絶滅させていただろうけど、あいにくと知り合いとなると話が変わってくる。


 ハルは、俺にとっては教え子でもあるが、一応、部下であるグレーニャ・エルのお姉さんってわけで……。


 何より話が通じる相手というのが大きい。いくら身内でも、問答無用で向かってくるような相手なら、俺だって情けなどかけない。


 ……正直ね、もう終わりにしよう。それでなくても、多くの人が死に過ぎた。


 俺のタイラントSと、ハルのセア・アネモスの間で張りつめる空気。グレーニャ・エルも、レオスもその行く末を――ハルの答えをじっと待っている。


 そういや、ここにいるメンバーが全員顔を合わせるのって、アポリト本島にいた頃以来だったんじゃないかな……?


『……了解したわ。帝国皇帝は死去。不老の皇帝に後継はいない。帝国は崩壊したとみなし、私は、あなたに投降する』


 ハルは決断した。


『姉貴……』


 ホッとしたようなグレーニャ・エルの声。そしてレオスは言う。


『俺は吸血鬼が嫌いだ。お前は知らない相手ではないが、もし人々に牙を剥くなら――』

『ええ、遠慮なく殺して頂戴』


 ハルは言うと、セア・アネモスの右腕を掲げた。


『残存親衛隊機、集合』


 シーパング同盟の上陸部隊と戦っていた鉄血親衛隊のリダラ・リュコスが、パタリと戦闘をやめて、こっちへ飛んできた。その数……8機。


「ディーシー、一応、投降した機体にもシールドを増加してカバー。今まで戦っていたシーパング機が、集まったのを幸いとばかりに撃っても困る」


 仲間を殺されて逆上している者もいるだろう。だが、ひとたび投降してきた者は撃ってはいけない。戦争にもルールはある。すっきりした気持ちを抱えて、戦争を終われる兵隊なんぞいないんだ。敵も味方も、誰も彼も。


「ディーシー、全領域通信。全部の味方と戦場にいる奴全員に聞かせてやる」

『了解。中継器と繋げた。いいぞ』


 ありがとう、ディーシー。


「シーパング同盟ならびにスティグメ帝国残存兵力。その他もろとも聞こえる者全員へ。俺はシーパング同盟、ジン・アミウール」


 一瞬、トキトモって本名使いそうになっちまったぜ。


「スティグメ帝国皇帝は戦闘の末、戦死した。スティグメ帝国は崩壊した。繰り返す、皇帝は戦死、帝国は崩壊した!」



  ・  ・  ・



 スティグメ皇帝は死んだ。そして吸血鬼帝国は崩壊――この報は、シーパング同盟の上陸部隊はもちろん、大要塞の外で異星人兵器と戦う同盟艦隊の艦艇クルー、パイロットたちに届いた。


 ヴェリラルド王国艦隊、戦艦『クラウ・ソラス』にいたアーリィーにも、ジンの声は届いた。


「スティグメ帝国は滅びた!」


 吸血鬼帝国の世界征服の野望は、ついに、完全に潰えたのだ。通信にも喜びの声が聞こえてきたが、あいにくと、すぐにそれどころではなくなった。


 何故なら、アンバンサー兵器との戦いは、まだ続いていたからだ。


『――生存する吸血鬼兵に告ぐ、投降せよ。抵抗する場合は、命の保証はしない。そしてシーパング同盟全将兵に伝達する。投降するスティグメ帝国兵に対して攻撃を禁止する!』


 ジンの通信に、アーリィーは、旗艦コアのアダマースと顔を見合わせた。


「吸血鬼兵とは戦うなってこと……?」

「戦時法の適用でしょう。停戦です。捕虜に対して、不当な暴力、虐殺は禁止されています』


 でもそれは、テラ・フィデリティアのルールだよね――アーリィーはその言葉を飲み込んだ。


 ジンと共にいて、機械文明でのテラ・フィデリティア航空軍が、現代の軍隊とは別の戦場ルールで動いていたことを知っている。機械文明時代は、やたら民間人の保護を強調していたし、さらに敵とはいえ虐殺行為を忌避していた。


 アーリィーとて、無用な人死にや虐殺は嫌である。だが、この時代の人間の、特に王族や貴族、騎士たちの価値観は違う。


 これは揉めるのではないか――アーリィーは反発を予感したが――


『こちら、シーパング同盟、女王ヴァリサである』


 シーパング同盟本国艦隊を率いるシーパングの女王の通信が入った。


『同盟全将兵に告げる。シーパングは、投降者に対する如何なる虐待も殺人も認めない! 吸血鬼兵が投降してきたならば、捕虜として収容せよ』


 同盟軍、最高指導者の一人である女王が命令を発した。その意味は大きい。これには他の同盟国も、少なくともこの場では従うしかなくなるだろう。後で問題になるとしても。


『同盟艦隊、アンバンサーとの交戦を継続せよ!』


 女王は付け加えた。アーリィーも思い直す。


 ――うん、まずボクたちが心配しなければいけないのは、吸血鬼じゃなくて、異星人のほうだ。


 外に限れば、もうシーパング同盟とアンバンサーの衝突になっている。


「第四群残存艦ならびに航空隊へ! 敵アンバンサーとの戦いに集中!」


 アーリィーも命令を発する。正直に言えば、この戦場はもう吸血鬼はどうでもよかった。アンバンサーを早くどうにかしないと、こっちがやられてしまうかもしれないのだ。



  ・  ・  ・



「もうちょっと、早く言ってくんねえかなぁ……」


 魔鎧機ヴルカーンを操るリーレは、通信機から聞こえた吸血鬼との停戦に、口を尖らせる。


 彼女と戦っていたリダラ・リュコスは全滅した。ついさっき、最後の1機の胴体をぶち抜き燃やして撃墜したところだった。


「……おぉ、いてぇ。右腕が逝ったか?」


 激戦だった。ヴルカーンも右腕とサブアームが破損した。ダメージがパイロットにもきているのだが、リーレは不死身なので、多少痛いだけで済んでいる。


「でも、これで終わりじゃないんだよな……」


 シーパングのストームダガー戦闘機が、アンバンサー戦闘機を追い回している。かと思えば、逆にシーパングのイール攻撃機がアンバンサー戦闘機に追いかけられていたり。未だ戦場は混沌の中にある。


「……アイツは、どっちだ?」


 リーレは視界の端から端へと移動する赤い魔神機、いや鬼神機を捉える。炎の鬼神機セア・ピュールE。


 アイツはどこへ行く――?

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