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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1337話、追い詰められるスティグメ


 個人的な意見を言えば、俺はクルフとスティグメ、両皇帝が潰し合ってくれるのを見ていたかったのだが、そうは問屋が卸さない。


 三つ巴である。


 何とかして、俺のタイラントSとクルフのジェイルーを戦わせたいスティグメのセア・ウラノスが、ちょこまかして小賢しい。どっちかの陰に入ろうとするのは、ほんと小癪だと思う。


 こういうところで俺とクルフのヘイトを買ったのだろう。セア・ウラノスは、ジェイルーとタイラントSに追い回されることになる。


 というか、逃げ出したのが悪い。


 どうやらアンバンサー大要塞の屋上という舞台が気に入らなかったらしい。


 付き合いきれないとばかりにスラスターを噴かして、下へと逃げたセア・ウラノスを、俺とクルフは追いかける。


 振り返り、魔法弾を撃ってくるセア・ウラノス。しかし、ジェイルーの防御障壁を貫けない。仮に貫いたとしても、ブァイナ装甲には効かない。


『往生際が悪い!』


 クルフが咆える。高速で突っ切るセア・ウラノス。そのスピードは余裕で、クルフのスーパーロボットを引き離す。


 しかし、クルフは短距離転移を用いて、距離を一気に詰めて鋼牙ブレードを叩き込む。瞬間移動で突然現れてなんて、ビックリもいいところだが、スティグメは機敏に反応して回避する。


 いきなり目の前のギロチンの刃が落ちてきても躱せるとか、さすが吸血鬼。人間とは違うというところか。


『逃げるか!』

『付き合ってられないのよ!』


 セア・ウラノスは加速して、流星のように飛び去ろうとする。


 だが、どこに行こうというのかね? ここは大要塞のディフェンスシールドの中。中のシールド発生装置をどうにかしないと、外には出られない。


 大要塞に侵入する際に使った母艦に帰るか、ストローロードこと、侵入口になった『パラディソス』を経由しないと、中には入らないぞ。


『ふむ……埒が明かないな』


 同感だぜクルフ。そろそろ、あの皇帝を仕留めてくれてもいいんだぞ?


『ジン・アミウール。あの吸血鬼の始末は任せた』

「は?」


 声に出た。言うや否や、ジェイルーが転移して消えた。セア・ウラノスが転移を警戒してランダムパターンで飛行するが、大帝国のスーパーロボットは影も形もない。


『消えた……?』

「あ、あの野郎!」


 短距離転移使って、要塞内に戻りやがったな! あいつは俺と同じく転移魔法が使える。要塞内のあの広々空間を脳裏に思い浮かべれば、転移移動が可能だ。


 やってくれるじゃないの。じゃあ、俺もスティグメなんか放っておいて、転移で中に――


『主、ストローロードだ』


 わお、スティグメが大要塞の周りを、壁に沿って飛ぶもんだから、シーパング同盟側の要塞侵入口にぶつかったのだ。


『あれで中に入れる……?』


 スティグメが、自身の総旗艦が侵入口として使われていることに気づいたようだった。


 一直線にストローロードへと、セア・ウラノスは加速する。


「ふざけやがって!」


 クルフの思惑通り、俺があいつを始末しないといけなくなっちまったじゃないか! 放っておいたら、シーパング同盟の上陸部隊と揚陸艦部隊が、スティグメにやられちまう。


「Tドライブ……!」


 転移で、セア・ウラノスの真後ろに出現。ブァイナブレードで一撃。しかしウラノスは避ける。


『当たらないわよ!』


 さっきからクルフが同じ手で仕掛けていたもんな。ジェイルーじゃなくて、タイラントSに変わっただけで、やっていることは一緒だ。


「おいおい、逃げるなよ。相手は俺だけだぞ?」

『あなたにも構っている暇はないのよ!』


 セア・ウラノスが振り向き様に、腕に仕込まれた魔法弾発射機を向ける。そこから放たれたのは――


「散弾か!」


 とっさに回避。距離が近かったから、思いっきり避けてしまった。いくら多重の防御装備があっても、反射で避けてしまう。絶対貫通しない、なんて思い上がれない慎重過ぎる俺。


 その隙に、スティグメはストローロードへと突っ込む。その中ほどに開口部が形成されているので、そこから入れば、ディフェンスシールドの外側にも、要塞内にも入れるって寸法だ。


 ただし戦闘機や魔人機サイズまで。艦艇は、ストローロードの中を通る大要塞内部とシールドの外を繋ぐ直通のみとなります。


 シーパング同盟の魔人機レアヴロードが、接近するセア・ウラノスに気づき、迎撃に動いた。


 マギアライフルを撃ちながら向かうレアヴロードだが、ウラノスは圧倒的加速で肉薄し、腕部から魔法の刃を展開。すれ違いざまに切り捨てた。


 さらに片方の腕を突き出すと拡散魔法弾を発射。レアヴロード小隊が、障壁を抜かれてあっさり三機、爆散した。


 さすが皇帝陛下、いい機体に乗っているだけあって腕もいい。一般兵の乗る魔人機では、束になっても敵わないか。


 俺は転移移動で、セア・ウラノスに肉薄するが、皇帝機も高速移動と切り返しを多様してこちらの攻撃を掻い潜る。


「マジで人間じゃないな、あの動き!」


 あんな激しい挙動をすれば、中の人間は加速に耐えられない。重力補整機でも載せていたとしても、あれはヤバい。


 とうとう、セア・ウラノスは、開口部からストローロードに侵入した。もちろん、行き先は大要塞だ。


 俺のタイラントSも追いかける。セア・ウラノスが通過する前から、すでに何隻かの強襲揚陸艦が損傷しているのが見えた。どうやら中でドンパチやった奴がいたようだ。


 と、揚陸艦部隊の甲板にいたソードマンが、通過するセア・ウラノスを狙う。だが白き皇帝鬼神機は、あっという間に駆け抜けてしまうので、かすりもしなかった。


 仕方ない。


「ディーシー、ストローロードの出口封鎖! スティグメを中に入れんな!」

『塞ぐのか!?』

「一時的にな! 急げ!」

『了解。ダンジョン干渉。出口をダンジョン壁で閉鎖』


 DCロッドがストローロードに干渉。要塞内に開いた出口へ直進するセア・ウラノスだが、その針路に突然壁が現れて、ウラノスは急制動をかけた。


「逃がすかよ!」


 衝突で逆噴射をかけたセア・ウラノスに、俺のタイラントSは肉薄した。ブァイナブレード展開。ここで決めてやる!

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