第1328話、タワー、倒壊
戦艦『キングエマン』は、アンバンサー大要塞のディフェンスシールドに艦首から突入した。
「結界水晶は透過。シールド、装甲で阻止!」
旗艦艦長がモニターを確認する。司令官席のエマン王は、じっと正面を見据える。艦橋でオペレーターたちのやりとりが飛ぶ中、『キングエマン』は異星人の防御バリアを通過した。
アンバンサー大要塞の頂上部は、キングエマン級戦艦ですら小さく見えるほど広い。そびえる光学兵器タワーもまた巨大だ。
無数の要塞砲が、ヴェリラルト王国旗艦に光弾の雨をぶつけてきた。5連ガトリング風速射砲が、艦体を襲うが頑強なブァイナ装甲を前に全て弾かれる。
「目標、正面敵、タワー!」
「撃てぇっ!」
『キングエマン』の45.7センチプラズマカノンが、光学兵器の塔へと飛ぶ。青色のプラズマ弾の集束はしかし、塔の手前で弾かれる!
オペレーターが報告する。
「敵タワーに防御装備! 大要塞を覆うディフェンスシールドが、タワーにも施されている模様です」
「攻撃が効かぬか……!」
「艦長」
エマン王は真っ直ぐ塔を睨んだ。
「ディフェンスシールドの突破方法はわかっているな? 突撃せよ!」
物理で倒す。エマン王の指示、本気の目を見て取り、艦長は頷いた。
「承知しました!」
『キングエマン』は、光学兵器の塔へ直進した。敵は狂ったように迎撃してきたが、重防御戦艦には通用しない。光の雨の中を、『キングエマン』は突き進む。王の道を阻むことはできないとなかりに。
「衝突警報!」
体当たりを前に艦長が叫び、艦内に警報が鳴り響く。乗組員たちは対ショック姿勢を取り、その瞬間に備える。衝撃で投げ飛ばされて、壁や物に叩きつけられれば大怪我、当たり所が悪ければ命を落とす可能性もあった。
光学兵器が再び光を放った。最後の悪足掻き。一点に集束した光が『キングエマン』に突き刺さる。
だが、貫けなかった。
王の不屈の闘志に後押しされ、『キングエマン』は塔に艦首から突っ込んだ。ディフェンスシールドを貫き、メキメキと音を立てて塔に艦体が食い込む。半分ほど突入したところで、ようやく塔が倒れた。
だがそれに巻き込まれて、『キングエマン』が下敷きとなる……。
・ ・ ・
「親父殿!」
ジャルジーは思わず叫んでいた。
ヴェリラルト王国艦隊、第二群旗艦『デューク・ジャルジー』から、一番艦である『キングエマン』が塔に突撃し、その後、倒壊しに巻き込まれるのが見えた。
厄介な艦隊攻撃兵器を破壊したのは間違いない。だが『キングエマン』は艦隊の大半が崩れた塔の残骸に埋もれ、停止していた。
「通信士! 旗艦を呼び出せ! 親父殿は無事なのか!?」
超装甲のブァイナ金属の艦体である。埋もれてはいるが、潰れてはいないはずだ。そうであって欲しい。旗艦のエンジン光が消えて、完全に止まっているように見える『キングエマン』の姿に、ジャルジーは胸を締め付けられた。
「敵艦、急速接近!」
「ええい、邪魔をするなっ! 撃ち落とせ!」
こちらの都合などお構いなしにアンバンサー戦艦が向かってくる。
『デューク・ジャルジー』他、戦艦『大和』『武蔵』が、45.7センチプラズマカノンで反撃すれば、『キングエマン』の護衛役だった戦艦『リットリオ』『ウォースパイト』他も迎撃に加わった。
・ ・ ・
艦内に損傷警報が鳴り響く。
光学兵器タワーの倒壊による衝撃は思いの外強く、そこで『キングエマン』の艦体は大要塞の頂上部分に打ち付けられる格好となった。
司令官席でコンソールを支えに衝撃に耐えたエマン王が顔を上げれば、艦橋内は喧騒に包まれていた。
何人かがシートから投げされて、艦長もまた頭を打ったらしく、出血している。
「艦長」
「陛下! ご無事ですか!?」
「私はいい。状況は?」
「外装に問題はありませんが、二回の衝撃で内部機構にいくつか損傷が見られます」
艦長は答えた。
「安全装置が働いて、機関が緊急停止中。電路が随所で寸断されており、現在、人力による復旧作業にかかっております」
「動けんというわけか」
エマン王は背筋を伸ばした。
「通信を。……皆もヤキモキしておるだろう」
「恐れながら陛下。通信用マストが破損したようで、通信不能であります。おそらく残骸に埋もれた際に――」
「個人携帯用の通信機でもよい。誰か味方の見える位置へやって、現状を知らせてやれ。……ジャルジーが早まったことをしなければよいが」
「承知しました!」
「衛生兵。誰か、艦長の手当をしてやれ」
エマン王は待機している王室救護員に命じる。
「とりあえず、動けないことにはどうにもならんな……」
じっくり腰を据えて、時を待つ。こういう時に王が動揺しては、部下たちも不安がる。
目的のタワーは倒したから、これ以上、シーパング同盟艦隊が、一方的にやられる事態は回避されるだろう。
後は、ディフェンスシールドが解除されれば、外にいる艦隊も動きやすくなるはずだ。
――それか、それよりも先に、内部に乗り込んだ上陸部隊が、要塞を吹き飛ばす可能性もあるか。
その時、『キングエマン』が動けなかったなら、大要塞もろとも――
「……いや、案外、要塞は吹き飛んでもこの艦の装甲なら、耐えられるかもしれんな」
さて、動けるようになるのが先か、大要塞の最期が先か。
エマン王は司令官席に座り、目を閉じた。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック1巻から5巻、発売中!




