第1322話、炎と天災、そして水
炎の鬼神機セア・ピュールEのプロクス・トゥリアを、アドウェルサは阻止した。
パイロットであるレウは、セア・ゲーが、外から見て爆発するような損傷ではないことに安堵する。
セラスと名を変え、兄弟姉妹たちのことを忘れてしまったアリシャ。血の繋がりはない。だがそれでも、レウにとっては、妹のひとりだ。
――僕は、これ以上妹や弟を死なせない!
結界水晶防御を展開しつつ、アドウェルサは、セア・ピュールEに向かった。右手には超甲ブレード。牽制にクリエイトミサイル、発射!
『狡っこい!』
セア・ピュールE――ペトラCは後退しながら、頭部ツインテール・ガンでミサイルを迎撃する。
そこへ迫るアドウェルサ。
『舐めんな!』
ピュールEのスカートユニットから、遠隔誘導兵器のフレイムカッターが射出され、目の前の人型メカに斬りかかる。
だが、結界水晶防御が、それらのカッターを押し潰して破壊する。
『せこっ!』
防御障壁を全力展開で、結界水晶と衝突。反動で吹っ飛ばされるセア・ピュールE。大きさだけでも2倍ほども差がある。しかしさらに追撃するスーパーロボット、アドウェルサ。
『図体がでかいからってぇ!』
振るわれる超甲ブレードを、ピュールEは回避、そしてすれ違い、アドウェルサの後方へ回り込む。
『当たらなければ――』
プロクス・トゥリアを展開。
『意味がないっ!』
至近からの灼熱炎放射。直撃するアドウェルサ。攻撃のために結界水晶防御を解いたのを見計らった刹那の逆襲。しかし――
「効かなければ、意味もない!」
ブァイナ装甲で覆われたアドウェルサに、その攻撃は効かない。
レウは再度、超甲ブレードで斬りかかり、セア・ピュールEのプロクス・トゥリアを切断した。
『クソがよっ!』
口汚く罵り、ペトラCのピュールEはさらに下がる。いや、離脱する。相手が悪いと判断したのだ。
周囲はシーパング同盟、スティグメ帝国、アンバンサーが入り乱れている。この中に紛れ込み、態勢を立て直す。
レウは、炎の鬼神機を追尾しなかった。今は損傷したセア・ゲーに乗るアリシャ――セラスのことが心配だ。
確認してレウは目を剥く。セア・ゲーの前に青い機体があって、氷の膜を展開している。
セア・ヒュドール改――水のSランク魔神機にして、セア・ゲーと同じ女神機。
『姉さんはやらせない』
ヒュドール改に乗るは、レウやアリシャの妹のひとり、アレティだ。彼女の魔神機は、風の鬼神機セア・エーアールEと対峙していた。
『セア・ゲーに、セア・ヒュドールかよ……!』
エーアールEのコクピットで、エルCは唇を舐める。
『大地に水ってか。これでペトラの火がありゃ、四大女神機、勢揃いってか?』
そのペトラCのピュールEは、離脱してしまったのだが。
『まあ、ここで離脱しちまったら、次にまた遭遇するとも限らないんよなぁ。……じゃあ、やっぱここで仕留めておくしかないじゃん』
鉄血親衛隊の部下たちの魔人機である、リダラ・リュコスが集まってきた。
『いいぜ、やろうぜぇ!』
セア・エーアールEは、両手のクローを展開し、風の如く斬り込んだ。
・ ・ ・
外は激戦が続いている。俺は、都市型大型戦艦『パラディソス』の司令塔を出て、タイラントSに乗った。
DCロッドをセット、機体チェック。異常なし。
『さて、どうする、主よ』
ディーシーが聞いてくる。
「外も気になるが、アンバンサー大要塞の制圧が先だ。そのために皆一丸となって戦っている」
シーパング同盟艦隊は、よく持ちこたえているが、如何せん、アンバンサー大要塞から艦艇や航空機が生成されているため、元を叩かないといつまで経っても終わらない。
「スティグメやクルフも、要塞に取りついた。こっちも急がないとな」
俺は操縦桿を握る。タイラントのそばでは、護衛のASS-1シェイプシフターがそれぞれ動き出す。
「ディーシー、戦術リンク。上陸部隊はどうなっている?」
『シーパング、ファントムアンガー陸戦隊が先行している。入り口の敵は排除したが、中は広大なフロアになっていて、敵の大群と交戦中だ』
「やはり、そうそう簡単には進めないか」
モニターの一部に戦況が表示される。円柱に突っ込んだ『パラディソス』は1キロほど内部を突き破ったが、その先は空洞になっていて、どうも都市のようになっているらしい。
そこに大量のアンバンサー兵器が湧いていて、こちらの上陸部隊と交戦中。歩兵やパワードスーツを載せた上陸艇は、中央へ突入を試みたものの、要塞内部にもかかわらず躊躇ない対空射撃に襲われ、進撃できず、半数が撃墜され、残りはその手前で降下。載せてきた歩兵、パワードスーツ部隊を展開して、徒歩での進撃を行っているとのことだった。
「嫌だねぇ、これじゃアリとかハチの巣の中に突っ込んだ気分だ」
俺はタイラントSを移動させ、『パラディソス』艦内を改造して作ったストロー・ロードへと出た。おお、フューリアス級やアキリース級を改装した強襲揚陸艦が、中で停船しているのが見えた。
すでに上陸部隊を発進させた揚陸艦は、損傷や補給に帰還する機を待ち、また敵がストロー・ロードに侵入してきた時に備えて、対空砲の準備をしている。
俺とシェイプシフター隊は、ストロー・ロードの中央を飛んで、アンバンサー大要塞を目指す。
さすが都市型大型戦艦。内装を思いっきり弄って、一本道をこしらえたけど、外のドンパチを感じさせないほど、スムーズに通れる。
おっと、後ろから高速で飛んでくる機体をキャッチ。こいつは――
『ジン、タクシーはいるかい?』
「よう、マッド」
マッドハンターだ。
ガンファルコン付き、量産型タイラントことバーバリアンⅡが猛烈な勢いで追いついてきた。……そういや、ガンファルコンを彼に預けたままで、すっかり乗り回されてしまったな。
『乗っていくか?』
「おう」
俺はタイラントSを、ガンファルコン――バーバリアンⅡ・ヘビーアタッカーの上に着地させた。
『突入するぞ!』
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