第1321話、風と大地、そして炎
「対空防御!」
戦艦『オニクス』の艦長ルンガー大佐が命じる中、改ディアマンテ級戦艦の対空砲が激しく火を噴く。
グンと迫るのは、スティグメ帝国の誇る鬼神機。セア・エーアールEとセア・ピュールE。
「洒落臭ぇよ!」
エルCは、風の鬼神機を加速させる。敵空中戦艦の放つ光線や魔法系の攻撃は、防御障壁が無効化する。つまり無駄なのだ。
そこへ敵艦がミサイルを打ち上げてくる。対戦闘機・魔人機用の迎撃弾だ。
「うぜぇ!」
これまで通りなら、障壁で無視していた。だがシーパング同盟のミサイルは、防御障壁を貫通してくるものが混じっていると、報告を受けている。
下手に障壁にぶつけて落とそうとしたら、抜けてきて直撃した――なんて、大間抜けなやられ方はできない。
「いちいちあたしに避けさせるなっての!」
『エル! 左よ!』
ペトラCの警告。同時に殺意を感じて、回避運動。風の鬼神機セア・エーアールEは上昇回避。高速実体弾が足下を抜けた。
この乱戦で狙ってくる――エルCが、それを捉えた。そして目を剥く。
「はあ!? あれはセア・ゲーじゃないか!?」
アポリトの魔神機。女神型にて大地の魔神機セア・ゲーが、両肩のキャノンを撃ちながら、向かってきた。
「何で、あんな骨董品が出てくんだよ! それにそいつは姉貴の機体だぞ!」
エルCは激昂した。
彼女は、コピーだ。グレーニャ・エルの生態データをベースに吸血鬼化し、改造も受けた強化クローンである。
同じく吸血鬼でありながら、オリジナルであるグレーニャ・ハルと違い、本来なら旧アポリトの魔神機を見たところで大した問題はなかった。
だが盲目的に姉であるハルを信奉するよう作られたエルCにとって、旧アポリトの機体とはいえ、セア・ゲーはその姉が乗っていた魔神機だったのだ。
「クソが!」
風のごとく距離を詰め、セア・ゲーに攻撃する。――強化されているエーアールEにそんな旧式が勝てるわけねえんだよ!
高速肉薄からの蹴りが炸裂する。しかしセア・ゲーのパイロットも反応し、腕でガードする。
これにはペトラCが怒鳴った。
『何をやってるの、エル!?』
「だって、姉貴の機体だぞ! 破壊できねぇよ!」
エーアールEのクローで引き裂くこともできた。にもかかわらず、反射で蹴りを繰り出してしまったのは、敬愛する姉の乗っていた機体を壊したくなかったから。
・ ・ ・
セア・エーアールEの蹴りは、セア・ゲーを後退させる程度の威力にしかならなかった。
大地の魔神機を操っていたのは、セラス――アリシャだった。元はアポリト文明の兵器として育てられていた改造された子供たちの一人――今はその記憶のほとんどを失った彼女だが、拾ってくれたシェード将軍のために戦場にいた。
「将軍をやらせない!」
セア・ゲーは空間に巨岩を作り出し、それを飛ばした。しかしセア・エーアールEはヒラリと回避する。
それならばと放った岩を空中で破砕し、散弾のごとくばらまくが、防御障壁に阻まれる。
「――空中の敵には相性が悪い……!」
セラスは呻く。地上にいる敵ならば、広範囲に渡る攻撃でまとめて撃破できるものを。
「それでも!」
セア・ゲーは突進する。肩に装備されているレールガンを発射。こちらは弾頭が防御障壁を貫通する。
「みっともなくても!」
絶対に守って見せる。それが、何もわからない自分を拾い、セラスという名前をくれたシェードへの恩返しだ。
『だーかーらー!』
セア・エーアールEのパイロットが外部スピーカーを使った。女の声を、セア・ゲーは拾う。
『そいつは、姉貴の機体なんだってぇー!』
『だったら、どきな、エル! 私がやってやるよ!』
もう1機――炎の女神機を改造したと思われる鬼神機・セア・ピュールE。ツインテールじみたパーツを側頭部につけた女の子っぽさが強い細身の機体。だが斧がついた大砲――プロクス・トゥリアの砲口が、セア・ゲーに向けられる。
――回避……駄目!
セラスは瞬時に気づく。自分が回避すれば、敵の砲の流れ弾が、改ディアマンテ級戦艦『オニクス』に直撃する!
鬼神機であるセア・ピュールEの最大武器は、結界水晶防御でもないと防げないが、今は迫る敵艦への反撃のため、結界防御は使われていない。
――死ぬ? シェード将軍が……!
冷たいものが背筋を走った。数秒の間に全てが決してしまう。
守らねば。
たとえ、ここで命を落とすことになっても。
セア・ピュールEのプロクス・トゥリアが紅蓮の炎を吐き出した。一撃で全長300メートル近い大型空母すら撃沈した恐るべきその破壊力。
セア・ゲーはその装甲と、障壁防御の出力、そしてセラス自身の魔力を注ぎ込み、敵の一撃を受け止めた。
途端に機体が熱を帯びる。防御に全フリしても、鬼神機の破壊力が勝る。高温を浴びせられ、セア・ゲーの装甲が溶ける。
――ここまで、か……。
さようなら、将軍。直後に来る自らの死を受け入れつつ、せめてシェード将軍だけは助かってほしいと願う。
『大丈夫か、アリシャ!』
声が割り込んだ。誰?――セラスのセア・ゲーの前を、何かが覆った。
見るからに重装甲のシルエットの機体だった。全高も魔神機の2倍にもなる巨体。通常の機体とはまるで違う。
機体照合により、すぐにそれが表示される。シーパング同盟スーパーロボット『アドウェルサ』。
魔導放射砲、もしくは魔力消失弾を敵軍の中心で使用する強襲機。ステルスの他、ブァイナ装甲、結界水晶防御と恐るべき防御を誇る。
『妹を、やらせるかーっ!』
アドウェルサのパイロット――アポリトの魔法人形たちの長男、レウは叫んだ。
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