第1314話、サインを見逃すな
これからどうすればいいか? 人は時に迷うものだ。
そう持ちかけられた時、『それはお前の人生なのだから、お前が決めろ』というのは簡単だ。
実際にそうなのだから、自分で決めるべきなんだが、持ちかけられた時点で、その人がどう考えているのか察する必要がある。
俺の立場、レオスの立場、それを考えた上で、彼が『俺はどうしたらいいのか?』という問い。俺のことを団長と呼んだ。
つまり彼の中に、そっちへ行ってもいいですか、という確認なのだ。
大帝国に所属はしていても、彼の故郷も家族も関係はない。一応、義理があったのか、クルフとの付き合いだったのかもしれない。
だが、彼は大帝国にいて、それでいいのか、と葛藤していたのだろう。レオスはあれで熱血っぽいところがあり、正義感もある。
クルフの、周りのことなどどうでもよい。邪魔となれば手段を選ばず、容赦なく、敵を排除する――その過激な手段が、レオスの肌に合わないのは、少し考えればわかる。
だが、彼は律儀だ。義理、あるいは拾ってもらった恩だったのかもしれない。大帝国の戦士としてここまでやってきたが、それも限界だったのかもしれない。
だから、俺は言うのだ。
「おう、俺のところに来い」
短いとはいえ、俺はレオス、お前らアポリト十二騎士の団長もやった。部下が上司を頼ってきたのだ、応えないないでどうするんだよ。
「お前の身柄は俺が預かる。どうするべきかは、これが片付いたら考えよう。今は、アンバンサーをどうにかするのが先だ。でないと、力無き民が虐殺される」
『了解、団長』
うん、よいお返事。まんざら知らない仲じゃない。身の振り方についても、アンバンサーとの決着の後で。だが取りあえず、レオスのためにやっておくべきは。
「ディーシー、レオスとドゥエル・ファウストの改造機の識別コードを友軍登録を頼む」
シーパング同盟のシップコアやコピーコアが、敵と認識して攻撃を促しても困る。せっかく仲間になったのに、後ろから撃たれるのは見たくない。
『了解した。コード書き換えと更新……『バルムンク』を経由して、全システムに更新情報を送信する』
ディーシーがテキパキと進めてくれる。
「動力区画には、シャドウバンガードとエルフガードがいたな? パイロットにも知らせておかないとな――」
何せ動力区画で、レオスの魔神機を直接見ているかもしれない。一度敵表示で見ていたのに、突然友軍表示になれば、バグったのかと疑ってしまうだろう。
『お話は聞きました、ジン様』
エルダーエルフのニムの声が割り込んだ。エルフガードを率いる彼女であり、おそらく動力区画で直にレオスと遭遇している。
『レオス・テルモン様、ご無沙汰しております。ジン様のもとで従者をしていたエルフのニムです』
などと、自己紹介をし始めた。彼女、レオスと面識があったっけか。ちょっと覚えがないが、俺の知らないところで会っていたかもしれない。
とりあえず、そちらは問題なさそうなので、アンバンサー退治に注力しよう。『パラディソス』の司令塔で、艦を制御しつつ、確認作業を進めていく。
「ディアマンテ、聞こえるか?」
俺は通信端末から呼びかけた。
シーパング同盟艦隊の一角を形成するファントムアンガー艦隊の臨時旗艦として、巡洋戦艦改め、戦艦に改装された『ディアマンテ』が参戦している。
「艦を押さえた。これからアンバンサーの大要塞へこの艦をぶつける!」
・ ・ ・
「大要塞には、ディフェンスシールドが展開されているため、通常兵器による攻撃が有効ではありません」
テラ・フィデリティア航空軍の旗艦コアであるディアマンテは、自らの戦艦である『ディアマンテ』の司令艦橋から、ジンに告げた。
「これを突破するのは非常に困難ですが、ブァイナ装甲を使用している艦艇、兵器については、データ上、突破が可能です」
『データ上?』
「私たちの時代には、ブァイナ金属は存在していませんでしたから」
ディアマンテがそう言った時、艦が揺れた。
ファントムアンガー艦隊も、同盟艦隊の一角として戦闘を継続中だ。大帝国やスティグメ帝国の機体はほぼ現れなくなったが、依然としてアンバンサー艦艇や航空機が、攻撃を仕掛けていた。
改装されグレードアップした40.6センチプラズマカノンが火を噴き、艦隊に食い込もうとしたアンバンサー・クルーザーを轟沈させる。
こちらが戦艦主砲を使っても、カブトガニのような見た目の敵クルーザーは、倒せはすれど頑強で沈みにくい印象を与える。
それでなくても、第五艦隊ことファントムアンガーは、大帝国戦初期から戦ってきた旧型も少なくなく、異星人の艦艇相手に劣勢だった。
『「マローダー」、爆沈!』
ファントムアンガーを初期から支える軽空母がやられた。元は、レシプロエンジンを使っていた大帝国の輸送艦をベースに改装した空母だ。いくら防御シールドを装備しようと、ひとたびシールドが抜かれれば、一発轟沈してしまう脆さがあった。
『――この『パラディソス』の仕様書によれば、装甲はブァイナ金属製……大要塞のディフェンスシールドは通過できるってことでいいんだな? ……理論上は』
通信機を通してジンが言った。また近くでウォーデン級フリゲートが爆散したが、ディアマンテは構わず答えた。
「ブァイナ装甲は、魔力を投入することでその強度も高まる性質があります。いざとなれば、装甲に魔力をブーストさせれば、確実に突破できるかと」
『オーケー、ディフェンスシールドにぶつかってやられるなければいい。だが、パラディソスミサイルをぶつけて、大要塞を破壊はできるか?』
「全長2300メートルの超大型戦艦をミサイルに見立てて突撃させるのですから、運がよければ完全破壊……最低でも半壊はさせられると予想されます」
『一発で終わらせたいのが理想なんだけどな』
「最悪の想定はしておくべきかと」
ディアマンテが言えば、通信機の向こうでジンが笑ったようだった。
『最低でも、ディフェンスシールドの発生装置を壊してくれることを祈ろう』
シールドさえ壊せれば、通常攻撃も効くようになる。必要なら陸戦部隊を乗り込ませて、大要塞の制圧、直接破壊が可能だ。
――そうなると、もしもの場合、陸戦部隊に出番があるかもしれない。
ディアマンテは、そう思考した。
ファントムアンガー艦隊と、第六艦隊こと青の艦隊は、それぞれ6隻ずつの強襲揚陸艦が所属している。シーパング本国艦隊にも揚陸艦はあるが、これらも準備を進めておく方がよいだろう。
またも爆発の衝撃が艦を襲った。ディアマンテは、艦隊各艦コアに指令を出す。
「揚陸艦を死守! 敵に攻撃させるな!」
シーパング同盟艦隊は、着々とアンバンサー大要塞に接近しつつあった。
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