第1311話、ごきげんよう、大皇帝
吸血鬼帝国の総旗艦『パラディソス』の司令塔に俺はいた。
この都市型と呼ばれる超大型戦艦の内部では、今だ戦闘が続いている。吸血鬼たちの皇帝であるスティグメが逃げたことを知らず、大帝国兵、もしくはシーパング同盟のシェイプシフター兵と交戦している。
さて、機関の制圧について問題もあるが、この司令塔にいてできることをしよう。
「どうだ?」
『呼びかけています』
通信端末に取り付いているシェイプシフター兵が答えた。
司令塔内にあるモニターでは、『パラディソス』艦内と外の映像を映し出している。吸血鬼たちのモニターって、何かファンタジーがかってるよな。機械文明とはまた違う趣である。
『閣下、繋がりました!』
「モニターに」
シェイプシフター兵に合図すると、司令塔のモニターの一角、映像が切り替わる。豪華な内装の室内、その中央の玉座に、ディグラートル大皇帝の姿があった。
「やあ、大皇帝陛下。ご機嫌麗しゅう……」
『ジン・アミウール』
少々意外だったのか、クルフ・ディグラートルは小さく首を傾けた。そりゃそうだ。あちらさんにとっては、スティグメ帝国の旗艦からの交信である。現れるのはスティグメ皇帝だって思ったのだろう。
最期の言葉くらい聞いてやるぐらいの気持ちで、通信を繋いだら……残念、俺でした。
「色々聞きたいことがあるだろうが、何から話そうか」
『そこの玉座に座っていた吸血鬼がどうなったか聞いても?』
玉座と聞いて、一瞬俺は振り返った。赤と黒の、いかにも悪魔チックな凝ったデザインの椅子だ。
「悪趣味な椅子だな。俺の趣味じゃないな。……この椅子の持ち主は俺が来る前に逃げたよ」
数千年ぶりにあのイケメン野郎の顔を拝みたかったんだがね。……まあ、数千年ぶりなのはスティグメの方で、俺にとってはまだ一年も経っていないが。
『相変わらず、逃げ足だけは早いな』
ディグラートルは言った。な、笑っちまうだろ?
「こちらの観測機が、アンバンサー大要塞の西側に現れた、新たなスティグメ帝国の艦隊を捉えた。奴らも、大要塞を目指している。スティグメはおそらくそこだ」
『それをわざわざ教える理由を聞いてもいいかな、ジン・アミウール?』
「あいつの居場所を知りたいんじゃないかと思ってね」
俺は、近くのコンソールに腰を下ろした。
「俺のこれからの予定を知らせておく。スティグメの置き土産であるこいつを、アンバンサーの大要塞にぶつける。……だから、邪魔をするな」
モニターの向こうで、ざわついた。皇帝旗艦の司令塔内だろう。彼の部下が俺の物言いに不敬だと思ったのだろうな。
しかし、当の大皇帝は鷹揚だった。
『なるほど、さっさとこの艦から手を引けというか』
「この艦が欲しいのか?」
『いらん』
ディグラートルは一蹴した。まあ、そうだろうな。吸血鬼のお船には興味はなしか。
「なら、こいつを異星人の要塞にぶつけても問題ないな」
『貴様は、その後どうするつもりだ?』
「その後とは?」
『この吸血鬼の戦艦を、異星人の要塞にぶつけた後だ』
「そのまま、大要塞は破壊するよ」
俺はきっぱりと告げた。
「あいつらの技術は、人類にとって有害だからね」
『……』
大皇帝は押し黙る。自分はどう動くべきか、考えを巡らせているのだろう。
スティグメ皇帝は? アンバンサー大要塞は? シーパング同盟は?――彼は、考えている。
俺がアンバンサー大要塞を破壊するつもりと言ったところで、即同意しなかったところからして、クルフはあわよくば異星人の技術を獲得、もしくは大要塞を手中に収めようと思っているのだろう。
潰す一択なら、一時休戦を切り出してでも、アンバンサーの撃滅を優先したかもしれない。さらに、異星人技術をスティグメ帝国から守る、という話になっていた可能性もある。
『残念だが、ジン・アミウール。異星人の技術は有用だ』
モニターの向こうのディグラートルは、俺を睨んだ。
『むざむざ失うのは惜しい』
「そんなものがなくても、世界を征服するのは容易いだろう」
俺も睨み返す。
「人間には過ぎた代物だ」
『そうかな? 私はいまだ、この世界を統一していない。現状に満足はしていない』
「異星人の技術を手に入れれば、俺に勝てると? それを聞いて、はいそうですか、と俺が言うと思うか?」
『言わぬだろう。だがすでに貴様は、アレの破壊を決めていた。最初から私と相容れなかったのだ。説得しようとは思っていない』
「だろうな。――人類存亡の危機。今は国の垣根を乗り越えて、同じ星に住む者同士、利害を超えて、異星人と戦おう……とはならないことはわかっているよ、クルフ」
それが通じる相手なら、一時休戦しようって提案もあったんだろうけどな。今は吸血鬼と異星人をやっつけようぜ、って。
『シーパング同盟として、そういう意見はなかったのか?』
「さあね。異星人と聞いて、そう考えた奴はいたかもしれない。同盟軍の中には、まだ異星人が怖い存在だとわからないまま戦っているヤツもいるだろうしな」
だが、たとえ身内でそう考えている者がいたとしても――
「あんたは、人類がどうなろうとしったことない人間だからな。絶対に休戦を言い出さないし、受けない。受けても必ず裏切る」
クルフ・ディグラートルは不老不死を極めた人間だ。人の生き死にそれほど強い関心はない。だから平然と、自国の民や軍隊さえ粛正できる。
『やはり、貴様は私の最大の理解者だよ、ジン・アミウール』
大皇帝は笑みを浮かべた。俺としては、ちっとも笑えないがな。
『アンバンサー大要塞は私が手に入れる。貴様には破壊などさせんし、スティグメにも渡さない』
「オーケー、クルフ。平行線だ」
休戦はないだろうとは思っていた。だがそれが想像のままか、確定したかで今後の対応も変わっていた。
確定したからには、断固戦うのみ。
「あばよ、クルフ。また会おうぜ」
皇帝旗艦との通信を切る。同時に俺は、自身の通信機を入れた。
「バルムンク、やれ」
『転移』
戦艦『バルムンク』に乗る俺の分身が、ピンポイントで転移魔法を発動させる。標的は、『パラディソス』の甲板に乗り上げている皇帝旗艦『イムパラハト』。
ここで不老不死の皇帝と戦うつもりはないし、いるだけで邪魔だからね。精々、他に出し抜かれないように頑張ってくれ。
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