第1305話、潜むモノ
『右舷カタパルトデッキ、開け! 損傷機が着艦する!』
戦艦『バルムンク』。敵総旗艦である『パラディソス』に接舷するようにいるウィリディス軍の戦艦は、襲来するスティグメ帝国、ディグラートル大帝国、アンバンサーの各航空機や艦艇を、その武装を以て撃退し続けていた。
艦中央の両舷にある艦載機用デッキ。補給を終えた戦闘機や魔人機が飛び立つ一方、被弾、損傷した友軍機が頻繁に着艦をしていた。
シェイプシフター整備員は、カタパルト兼発着甲板にいて、友軍機の誘導や場合によってはパイロットの救助、搬送も手伝った。
そしてまた1機、激しく損傷した機体が味方機に支えられながら、ふらりと降下してくる。
『対空砲! 損傷機の着艦を援護!』
テラ・フィデリティア製対空レーザー機銃が素早く旋回し、青い光の束を吐き出す。オタマジャクシに羽根の生えたようなシルエット――アンバンサー戦闘機が、レーザーに迎撃されて爆発四散する。
『右舷カタパルトデッキ、誘導装置なしの機体が降りてくる! 注意!』
デッキにいたシェイプシフター整備員たちは振り向く。ウィリディス軍のASや魔人機にはコピーコアが積まれて、自動操縦、誘導が可能なようになっている。シーパングが提供した兵器には基本全て、このシステムが組み込まれているのだが……。
一体どこの機体だろうか?――熟練のシェイプシフター整備員たちは訝る。だがすぐにそれを見たことで理解した。
ゆっくりと降りてきているのは、風の魔神機セア・エーアールカスタムと、セア・フルトゥナS。
アポリト製魔神機、グレーニャ・エルの機体だ。改装の際、精霊コアは弄るなと、彼女から強い要望があり、ウィリディス製コピーコアが搭載されていないのである。
エーアールカスタムは背中のマギアスラスターユニットの片側を失い、装甲にも爆発跡が生々しい。パイロットの意識がないのか、機体のほうもぐったりしている。
支えているセア・フルトゥナSはシャドウバンガード機――エリザベート・クレマユー、エリーの機体だ。
甲板員が誘導灯で誘導する中、エリーは慎重に制動をかけて、セア・フルトゥナSとエーアールカスタムを着艦させた。
『――応答なし! パイロット、応答なし!』
『パイロット、負傷の可能性大! 救護班!』
『右舷デッキ、被弾機を奥に移動させろ! 次が降りてくる!』
外の戦闘に負けず劣らず、デッキ上は混沌に満ちていた。救護班として駆けつけた治癒魔術師とシェイプシフター衛生兵は、エーアールカスタムのコクピットハッチを強制排除し、パイロット――グレーニャ・エルを収容した。治癒魔術師が、回復魔法を使い応急手当をする中、担架で負傷者を運び出す。
セア・フルトゥナSのコクピットで、それを見送るエリー。
グレーニャ・エルは、がさつで粗暴。思ったことをはっきりいう女だ。彼女の態度は、正直愉快ではなかったし、無神経さには苛立つこともあった。
だが嫌いではない。むしろ、思っていたこと、自分では口に出せないだろうことも、エルは平然と口にした。
つまり、周囲が思っていることもズバリ言ってのけたから、同意はすれど対立しなかったのである。貴女はああ言ったけど、私も同感――そういうことだ。
『アタシはひとりで大丈夫さ!』
そう言って単独行動が基本のグレーニャ・エル。だが、エリーは、作戦中はグレーニャ・エルのエーアールが見える範囲で常に行動していた。
サキリス隊長からは、こう言われた。
『ああいう人でも、シャドウバンガードの一員なのですから、誰かがフォローをしてあげないといけませんわ』
風の魔神機は速い。シャドウバンガードの機体で、全力を出したエーアールの動きに追従できるものはない。
が、セア・フルトゥナという機体は、元々風の魔神機の随伴、援護機として設計されていた風の魔人機だという。
その改良型であるフルトゥナSに乗る以上、シャドウバンガードで、エーアールの援護役になるのは、ある意味必然だった。
そしてそれが幸いした。
「サキリス隊長、貴女は正しかった」
コクピット内で、エリーは手を組み、祈るのである。セア・エーアールを常に視界に収めて戦場にいたからこそ、彼女の機体が狙撃され撃墜された時も、すぐに駆けつけることができた。
今は、グレーニャ・エルの無事と回復を祈ることしかできない。
しかし、外ではまだ戦いが続いている。無傷の機体を遊ばせておく余裕などない。
その時、トントンとヘルメットの通信機がノック音を拾った。シェイプシフター整備員だった。
『エリー少尉、フルトゥナSの魔力装填が完了するまで、休息をどうぞ』
クレマユーの名前で呼ばれるのが嫌だから、と言ったら愛称で呼んでくれるシェイプシフター整備員たち。それはともかく、帰投した機体にはすぐさま、推進剤やエネルギーとなる魔力の補充や弾薬の補給が行われる。
格納庫に棒立ちで怒られるなんてことはなかったものの、確かにこれだけ激戦だと、休める時に休まないと体が保たない。エナジーポーションに栄養バーを口に入れて急速回復を。
コクピットから飛び降りると、足がふらついた。艦が揺れたわけではない。狭いコクピットに座りっぱなしというのも疲れるのだ。辺り構わず魔法や銃弾が飛び交う戦場にいれば、集中力も精神力もごっそりやられるものでもある。
「ジン様やサキリス隊長は、大丈夫かしら……?」
総旗艦『パラディソス』内に突入した仲間たち。開け放たれたハッチの向こうでは、各軍の兵器が飛び交い、刃を、光弾を交わして戦っていた。
・ ・ ・
敵性勢力が警戒ラインに侵入した。
アンバンサー要塞に戦場は近づいている。『彼ら』にとって、この星の勢力は、全て敵であった。
その敵がなおも大要塞に向かってくる。これを殲滅しなくてはならない。
かくて、大要塞から増援部隊が出た。魔力を失い灰色と化した岩山――抜け殻の森に、複数の円盤母艦――アウダークス級航宙揚陸艦を埋めるように張り付かせた。
そして、敵はきた。アンバンサー艦が、地上勢力の艦隊を攻撃する中、この星の者たちは、地形に一体化するように潜むアウダークス級の真上を通過した。
結果、アウダークス級は円盤船体の上面に設置された兵器、キオルカル・ガナーを使用した。
テラ・フィデリティア軍からの『衝撃砲』と呼ばれたこの武器は、一定範囲内に強力なエネルギー衝撃波を放つ。
その威力は凄まじく、運悪く真上にいた艦艇は、戦艦だろうが空母だろうが構わず一撃で船体をへし折られるほどの攻撃を受けて轟沈。
元よりブァイナ装甲で守られた『パラディソス』以外の艦艇――大帝国、シーパング同盟問わず、多数を撃沈。また航空機や魔人機も粉砕したのだった。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック5巻、10月15日に発売! どうぞよろしくお願いいたします。




