第1302話、未来の世界で戦って
『ギガントォ、プレスゥゥ!』
第七将ヴィスィー・コピーが操る鬼神機ジュゴンⅡが、重力に任せた巨腕の一撃を振り下ろす。
その下にいたのは、大帝国に与する魔神機ドゥエル・ファウストB。
『ぬんっ!』
レオス・テルモン操るドゥエル・ファウストの拳が、ジュゴンの腕を止めた。いや、砕いた。
『なにぃ!?』
「武闘魔拳流は、吸血鬼を殺す技ァ!」
ドゥエル・ファウストの腕が分裂して見えるほどの高速の拳が放たれる。
『魔弾拳! 多重激裂波ァッ!!』
『ぬあああああっー!』
鬼神機は、鉄屑と化して爆散した。
「アポリトの十二騎士と比べれば、質が悪いな」
魔法文明時代、かつての十二騎士だったレオスである。冷凍保存によって長き眠りにつき、大帝国の手によって蘇生した彼は、相も変わらず吸血鬼を生涯の敵とみて、拳を降り続けている。
『さて、ザイドゥルたちに追いつかねば』
敵旗艦の動力炉を破壊すべく先行した仲間を思い、ドゥエル・ファウストBを進める。
ここは、スティグメ帝国総旗艦『パラディソス』艦内。都市規模だけあって、その内部には魔神機や鬼神機が余裕で行動できる広い通路や部屋が多い。さながら巨人の国だ。
その艦内では、スティグメ帝国防衛部隊と、侵入した大帝国部隊の間で激しい戦闘が繰り広げられている。
破壊された双方の軍の魔人機を尻目に、レオス――ファウストBは駆ける。艦内で一番魔力の反応が強い場所がそれだ。
町のような構造の内部を抜ける。そして、追いついた。
「ザイドゥル!」
『おお、レオスか』
大帝国の騎士ザイドゥルのドゥエル・シュベーアトSが振り返った。その魔神機の前には、大剣で両断された敵――鬼神機の姿。
『第八将と名乗るルビオなる男を倒したところだ』
「怪我はないか?」
『見ての通り、機体に掠り傷程度』
魔神機ならばすぐに自己修復される。レオスは安堵した。
正々堂々たる戦いを好み、常に騎士としての振る舞いを忘れない――ザイドゥルという同僚に対して、レオスは戦友として好感を抱いている。
『貴様も無事そうだな、レオス。立ち話をしている暇もない。奥へ進むぞ!』
「応!」
ドゥエル・シュヴェーアトS、ドゥエル・ファウストBは床を踏みしめ、さらに艦内を進む。
我ら魔神機を止められるものはいない――! 順調そうに見えて、レオスは一つ気づいている。
彼らと共に侵入を図り、同行した味方機は、ふたりを残して全滅していることに。ここに来るまでに見掛けた敵味方の魔人機の残骸が、それを物語っている。
・ ・ ・
「だからさぁー!」
グレーニャ・エルのセア・エーアールカスタムは、『パラディソス』の外にあって、敵と交戦中だった。
「壺が空を飛んでちゃ、おかしーだろうがっ!」
スティグメ帝国の鬼神機――上半身が人型、下半身が壺型の機体は第十一将ヒュドロの操縦するヒュドロコオスⅡ。
空中にいる奇妙な鬼神機が、壺型下半身からマギアブラスターを放射。グレーニャ・エルのセア・エーアールはヒラリと回避するが、その流れ弾が通過するアンバンサークルーザーを溶かし爆発させた。その煽りを受けて、大帝国とシーパング同盟の戦闘機が吹っ飛び、別の艦艇にぶつかって四散した。
「くそったれ!」
総旗艦『パラディソス』の周りは、四軍入り乱れての激戦だった。流れ弾上等、友軍誤射も充分あり得るカオス空間である。
「壺は大人しく――」
ヒュドロコオスⅡが遠隔ビットを射出した。突っ込んでくるセア・エーアールを、四方から撃とうという魂胆だろう。
「甘ぇよ」
セア・エーアールもエアカッターを放出して、ビットに対してカウンター。魔力念波によってコントロールする遠隔武器同士が、空中で激突する。
「その武器は、アポリト文明の専売だろうが! 真似すんな吸血鬼!」
ヒュドロコオスⅡへ肉薄するセア・エーアール。
――カッター3番、5番相打ち! クソが!
目の前の鬼神機と合わせて、ビット兵器の制御。それを同時にこなしてこその女神巫女――女神型魔神機を操る能力者だ。
――!? 2番!? んなクソぉ!
セア・エーアールは鬼神機を前に急回避。強烈なGが、グレーニャ・エルの体にかかる。突然乱入してきたスティグメ帝国の戦闘機が、本来セア・エーアールが進んでいたコースを通過した。
横から体当たりをしてきたのだ!
「邪魔すんなよな! 雑魚が!」
セア・エーアールは両肩のエアリアルバスターを放射。さらにミサイルのように突っ込んできた3機の敵戦闘機を絡め取りぶつけて破壊した。
「ざまぁ! ……って! あの壺野郎を見失った!」
マギアブラスターを装備し、軍艦も一撃で破壊できる鬼神機。そいつが大帝国艦隊を狙っている間はいいが、シーパング同盟の艦を狙い出したら、被害もまた大きくなる――
そこで、ふとグレーニャ・エルは気づく。
「このあたしが、味方艦隊のことを気にした……?」
正直、元の時代を離れ、遥か未来の世界で目覚めた。レオスという知人はいたが、友人もなく、ひとり未来で骨を埋めると思っていた。だから周りの奴のことなど、どうでもよかったのだが。
かつて師と慕ったジン・アミウールと再会し、彼の下で戦うようになって、その心境に変化が出てきた。
――居心地がよかったんだ。色眼鏡で見なかったし。
だいぶ感化されていると思う。でもそれも悪くないとグレーニャ・エルは考える。
――せんせは、褒めてくれるからな!
吸血鬼だろうと大帝国だろうと関係ない。先生であるジン・アミウールの敵と戦う。それが親愛なる姉を失い、全てを失っていた少女の最後に残っていた絆だから。
その時、超高速弾がセア・エーアールの魔法障壁を貫通した。突然走る機体の衝撃。
「なっ――」
――やられた!?
爆発の光が視界を奪った。
英雄魔術師@コミック、コロナEXにて12日、最新話更新予定。どうぞよろしくです!




