第1301話、激闘艦隊
スティグメ帝国総旗艦『パラディソス』。スティグメ皇帝は玉座に座り、しかし苛立ちを隠せなかった。
都市級超大型戦艦の艦中央より前には大帝国。後部甲板にはシーパング同盟。その魔人機隊が上陸し、防衛部隊を排除し、艦内へ侵入を果たした。
パラディソス艦内は広く、各種防衛装置や護衛魔人機隊を配置しているので、いましばらくの抵抗は可能だろう。
「よくないわ。よくないのよ」
もうじき、アンバンサー大要塞のテリトリー、灰の森に達するというのに。パラディソスの動力炉――シードリアクターを破壊されれば、その魔力と相まって超大型戦艦も轟沈してしまうだろう。
いや、大要塞にたどり着けるなら、『パラディソス』を失ってもいい。だが、現状、まだ沈むのは早い。
「やっぱり、十二騎士が駄目なのかしらね」
ロイヤルガードとして、強化した機体とパイロットを作ったにも関わらず、すでに6機――つまり半分がやられた。
「失敗作はどこまで強化しても失敗作だった」
「そうかもしれませんね」
ハルは冷めた感想を述べた。そう、一度負けたクローンを使うくらいなら、鉄血親衛隊が使っているようにジン・アミウールクローンを使えばよかったのだ。
が、ハルはそれを口には出さない。何故ならスティグメ本人が、ジンを嫌っているから。自分の近衛騎士に、彼のコピーを入れたくないのだ。
「残りの騎士たちが、足止めを頑張ってくれるといいのだけれど」
スティグメ皇帝は皮肉げに笑みを浮かべる。
表では、押し寄せるアンバンサー艦を大帝国艦隊と、シーパング同盟艦隊が防ぎ止めている格好になる。護衛として射出したスティグメ帝国艦は、出てもすぐに撃沈されてしまっているが、他の二軍がアンバンサーから、『パラディソス』を守っているように見える。
もっとも、アンバンサー艦の攻撃も、『パラディソス』に当たっているのだが、ブァイナ装甲のおかげで、そちらの攻撃は効いていない。
アンバンサー大要塞のテリトリーまで、およそ10分。そこから大要塞に到着までさらに10分と行ったところ。それまで『パラディソス』が保てば、まだ挽回のチャンスはある。
・ ・ ・
守る大帝国、進むスティグメ帝国、後続するシーパング同盟。そしてどの勢力も満遍なく攻撃してくるアンバンサー。
異星人艦は、その速度に物を言わせて縦横に飛び回り、各勢力の艦隊を崩そうと切り込んでくる。
シーパング同盟艦隊も、スティグメ帝国総旗艦の後ろを追いながら、これらの迎撃に死力を尽くしていた。
『パラディソス』の右側後方をヴェリラルド王国艦隊、左側後方をシーパング本国艦隊が中心に交戦している。
ヴェリラルト王国艦隊は、アーリィーの第三艦隊を吸収し、四つの群に再編されていた。
エマン王率いる第一群が、『キングエマン』とドレッドノート級、ドレッドノートⅡ級の戦艦12隻、巡洋艦8隻、空母3隻、護衛フリゲート16隻で編成されている。
その第一群の右方向に、ジャルジー指揮の第二群がいる。『デューク・ジャルジー』を旗艦に、大和級戦艦、紀伊級突撃戦艦、伊勢級航空戦艦合わせて11隻と巡洋艦が7隻、駆逐艦16隻からなる。空母はないが、直掩は伊勢級航空戦艦の艦載機が担当する。
アーリィーの空母艦隊は第四群で、エマン王の第一群の後方にいる。
本来、空母群は戦線より離れた位置にいるものだが、アンバンサー艦が高速で飛び回って後方の艦隊も襲撃してくるため、前衛に近くても相互援護ができる位置に置かざるを得なかった。第三艦隊も、それで空母『飛龍』を損傷させられ、護衛の『秋月』中破、『照月』『新月』を喪失している。
第四群は、アーリィーの旗艦『クラウ・ソラス』にキエフ級航空戦艦2隻、『アーガス』、翔鶴級装甲空母4隻、イントレピッド級空母2隻、『雲龍』の8空母と、第二艦隊から歴戦の『レントゥス』『フォルトゥス』『アグアマリナ』の3隻が加わり、11隻の空母を有していた。
護衛は、巡洋艦11隻、駆逐艦13隻、エスコート9隻である。
そしてアーリィーの第四群の右、ジャルジー指揮の第二群の後方に、ヴェルガー伯爵率いる第三群が航行する。
旗艦『山城』、僚艦『扶桑』に、突撃戦艦『加賀』、『金剛』以下、生駒級巡洋戦艦5隻の戦艦クラス8隻、最上級高速巡洋艦5隻、ゴーレムフリゲート16隻から編成されている。
第三群もまた空母がないが、山城、扶桑は戦闘機を有する航空戦艦なので、こちらもジャルジーの第2群同様、空中援護は自前で用意されていた。
4つの戦闘群の中、もっとも攻撃される位置は右側に展開する第二群と第三群だ。
エマン王の第一群は、『パラディソス』の後方なので、前方から来るアンバンサー艦は、大帝国艦隊と『パラディソス』がある程度引き受ける格好になる。左は、ヴァリサ女王のシーパング本国艦隊である。
パラディソスの側面を抜けたアンバンサー艦隊が、そこで遭遇するのが、ジャルジーの第二群となる。
当然、ここがヴェリラルト王国艦隊の中でもっとも、攻撃されやすいポジションだ。そこを守るのが、王国艦隊で特に重装甲を誇る戦艦群である。
だが一撃離脱傾向にあるアンバンサー艦は、シーパング同盟艦隊を抜けて後方から再度追いかけにかかる。そこでアーリィーの第四群と第二群を守るのが、ヴェルガー伯爵の第三群だ。
ジンたちが『パラディソス』の制圧に動いている間、同盟艦隊と共に『パラディソス』を追尾しつつ、アンバンサー艦の襲撃を迎え撃つ。
青いプラズマカノンの砲火が、アンバンサー艦に吸い込まれ爆発させる。しかし高速で飛び抜けるアンバンサー艦も、5連ガトリング砲でオレンジ色の光弾を連続して放ってきて、シールドを抜かれた同盟艦を損傷させ、あるいは撃沈した。
『正面! アンバンサー戦艦、高速接近中!』
第三群旗艦『クラウ・ソラス』。前方の艦隊を抜けてきた敵艦が空母群に迫り、アーリィーは声を張り上げた。
「迎撃! 主砲、照準完了次第、発射!」
バルムンク級2番艦である『クラウ・ソラス』の45.7センチプラズマカノンが火を噴く。さらに僚艦であるキエフ級航空戦艦『ミンスク』も40.6センチ砲を放つ。プラズマ弾の直撃を受け、火だるまとなるアンバンサー戦艦。
だがその影から、ぬっとカブトガニ――アンバンサークルーザーが現れた。
「くっ、抜かれた!」
『クラウ・ソラス』と『ミンスク』の頭上を通過する敵艦だが、アンバルⅡ級クルーザーが割り込み空母を守る。光が交叉した。
『「ネフリティス」より入電、敵艦撃沈!』
『「シャッデ」、敵クルーザーと衝突、双方轟沈!』
敵艦1隻を沈めたが、もう1隻が迎撃したアンバルⅡ級クルーザーとぶつかって火球と化した。アーリィーは唇を噛んだ。
すでに第四群だけでなく、各戦闘群も沈没艦、落伍艦が相次いでいる。それはシーパング本国艦隊も、他の同盟艦隊でも同じだ。
死闘は続く。
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