第1254話、ベル艦隊 VS 真・大帝国第二艦隊
フィーバー作戦により、連合国に展開するウィリディス軍各艦隊は、一撃離脱戦法を真・大帝国艦隊に仕掛けていた。
「一撃だ。だったら、ガッツリ喰らってやるのがオレ様の主義だ」
超戦艦『レーヴァテイン』の艦橋でベルは不敵な笑みを浮かべる。艦橋の窓から遠方に見えるは真・大帝国の艦隊。ウーラムゴリサ王国西方を駆逐し北へ行けばニーヴァランカ、南へ行けばネーヴォアドリスの位置にあった。
――のんびり航行していやがるな……。
『敵艦隊、戦艦10。クルーザー2。空母3、駆逐艦12』
シェイプシフターオペレーターが報告する。
『敵戦艦はコルドアⅡ級』
大物だ。おそらく、艦隊旗艦を含む基幹部隊だろう。相手にとって不足なし!
「ジンには損害なくって言われたが、さすがに無理かなァ! ……突撃せよ!!」
超戦艦『レーヴァテイン』を中心に大型巡洋艦4、戦闘空母3、突撃揚陸艦3、突撃駆逐艦9が、真・大帝国艦隊へと突き進んだ。
「前部主砲! 撃ちまくれ!」
『レーヴァテイン』の45.7センチ連装プラズマカノン、デルニエ級、エテルネル級大型巡洋艦がマギアブラスター主砲を連続して放った。
それらは戦艦なら大破、それ以下は一撃轟沈の威力を持っていた。だが敵に命中する寸前、青い防御膜が広がり、大火力の砲撃を無効化した。
『敵艦、結界水晶防御を展開。ビーム兵器は効果がありません』
「洒落臭い」
見れば言わんでもわかる。ベルは口元を歪めた。
真・大帝国の新鋭艦は、結界水晶防御を採用しているのは知っている。戦闘のない通常航行時は、常に展開して奇襲に備えているのだろう。実に小賢しい!
「こちらも結界水晶防御! 突っ込めェ!」
・ ・ ・
『後方より敵艦、複数出現!』
真・大帝国第二艦隊旗艦『イフラーン』の司令塔に、監視所からの通報が届いた。
すぐに艦長が、魔力レーダー担当オペレーターに確認させる。
「スコープに感あり! 突然現れました! おそらく転移と思われます!」
転移――艦隊司令長官であるマルク中将は、表情を引き締めた。
「来たぞ、シーパングだ!」
連合国のボロ船ではないだろう。連合国侵攻中にシーパング同盟軍による妨害があるだろう、と大帝国司令部の予測を耳にしている。
「艦長、反転だ! 艦首を、敵艦隊に向けよ! コルドアⅡの前面火力で粉砕してやる!」
マルク中将の命令が飛ぶ。しかし観測員とオペレーターの報告が早かった。
『こちら右舷観測所! て、敵艦隊、高速で接近……いや、突撃してきます!』
「敵艦隊は、戦艦1、巡洋艦10、駆逐艦9! きゅ、急速接近中!」
「なにぃ!」
マルク中将は司令塔右舷側窓へと駆け、双眼鏡を――覗き込む必要がなかった。黒い艦体色の艦艇群が突っ込んでくる。かなり近い!
敵の先制攻撃が第二艦隊を襲った。だが、こちらの展開していた結界水晶防御が、敵の攻撃を弾いた。
「右舷砲を指向させて、迎撃――」
「いいや、艦長! 回頭は間に合わん。このまま結界水晶防御を展開、やり過ごせ!」
敵も、大帝国艦が水晶防御を使っているのを目にしたはずだ。まともな指揮官なら、間違っても体当たりなどはしないだろう。自滅するだけだからだ。
「敵をやり過ごしたら、左舷砲で、敵艦のケツを吹っ飛ばしてやれ!」
エンジンノズルめがけて、プラズマカノンを撃ち込めば、あわよくば一撃轟沈も狙える。
しかし、漆黒の艦隊は針路を変えない。土壇場で反転するのは危険だとわかっているのだろう。
「さすがシーパング同盟。連合国とは判断が違う!」
しかも勇敢だ。体当たり上等で迫り、ギリギリで艦隊の間を抜けていくつもりだろう。だが、お前たちがすり抜けた時が最期だ!
『敵駆逐艦、艦体を分離!?』
観測員の報告。
『敵戦艦からも小型艦が分離した!』
「小型艦?」
マルク中将は、それを凝視した。その分離したものの形が、真・大帝国大型艦装備のそれに類似していることでピンとした。
「対艦衝撃槍だっ!」
「衝撃に――」
艦長が叫んだが手遅れだった。距離が近すぎたのだ。
槍の形をしたようなシルエットは、大帝国の言うところの『対艦衝撃槍』であり、これは結界水晶防御を抜ける素材で船体が構成されている。
戦艦『イフラーン』に衝撃が走る。対艦用の槍が、艦体に衝突、突き刺さったのだ。
「おのれぇぇー!」
『四番艦、敵戦艦と衝突! っ、ふっ、踏み潰されました! 敵戦艦、四番艦を体当たりで撃沈!』
衝角じみた尖った艦首は伊達ではなかったということか。敵大型戦艦がコルドアⅡ級を轢き殺していったのだ。
「四番艦の仇だ! 左舷砲、敵艦の艦尾を集中射撃! 撃てぇ!」
第二艦隊を通過し、離脱するシーパング艦隊に、コルドアⅡ級の40.6センチ連装プラズマカノンが咆える。
しかし、プラズマ弾は悉く青い防御膜に阻まれた。
『敵艦にも結界水晶防御がある模様!』
「くそったれぇー! ……おおっ!?」
戦艦『イフラーン』に新たな衝撃が襲った。艦長が『被害報告!』と叫ぶ。
「右舷、艦中央にて爆発!」
「機関に損傷、推力低下!」
「命中した敵対艦衝撃槍が艦内で爆発した模様!」
マルク中将は唸った。――これがシーパングの戦術か。恐るべし……!
漆黒の敵艦隊は、こちらにトドメを刺すことなく、一直線に離脱していった。
・ ・ ・
『敵戦艦8隻が中・大破。1隻は本艦の突撃にて撃沈』
シェイプシフターオペレーターの報告に、ベルは頷いた。
「うん、まあ、上々じゃないかね」
戦艦の他、駆逐艦を4隻撃沈した。『レーヴァテイン』と9隻のアンビシオン級駆逐艦が装備していた突撃槍型大型ミサイルが、もたらした戦果である。
大帝国の『対艦衝撃槍』と似たようなものだが、どちらも両軍の独自開発であり、同じ時期に似たような装備を持っていたのは偶然である。
「これなら、巡洋艦や戦闘空母にも積んでおけばよかったぜ……」
それならもっと撃沈できたものを。
「ま、ジンの要望どおり、手負いを増やしたからよしとしよう」
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