第125話、魔石銃を考える
ヴェリラルド王国王都に日常が戻りつつあった。
魔獣軍による侵攻も、その後の王国軍のダンジョン攻略遠征の話題も落ち着き、俺は適当に学校生活をエンジョイしていた。
適当に授業を受け、高等魔法授業では逆に魔法を教え、アーリィーの護衛をしながら、自らの研究開発を進めたり……。
そうそう、オリビアら近衛の訓練に付き合ったり、放課後にサキリスやマルカス相手に剣や魔法の指導をした。
その日も学校が終わり、青獅子寮に戻った俺たち。俺は専用の魔法工房へ行き、先日から取り組んでいる研究を始める。
アーリィーがついてきて、俺に首をかしげてみせた。
「銃……?」
「そう、銃」
ベルさんが見守る中、俺は作業台に、20センチほどの黒い物体を置いた。
長方形の板状の物体に握り手と引き金がついたそれは、言ってみれば拳銃である。一般的な拳銃というより未来モノの銃といったシルエットだが。
「エアバレットに似ているような……。弓のないクロスボウみたいな感じ?」
アーリィーが、台の上の銃を見て言った。なかなか鋭いね。実際、俺のいた世界でも、台座が拳銃型になっているクロスボウがあったくらいだから、その想像は間違ってないぞ。
「銃身の先に魔石を埋め込んでいる。引き金を引くと、魔石から電撃の魔法が飛び出す。弱弾である麻痺と、強弾である攻撃用の二種類を使うことができる」
いちおう、サンダーバレットって名前は付けたんだけど。俺は魔石拳銃のグリップを掴むと、構えてみせた。
「引き金を引くだけで電撃弾が撃てるから、魔法詠唱の必要がないのと、片手で扱えるのが利点だな」
魔法使いと対峙しても、相手が短詠唱で唱えるより早く撃てる。
エアバレットと比べると、一撃あたりの効果範囲が狭いため、若干当てにくい。ただし弾速は上で、威力についても貫通性では勝っている。
「ちなみに」
グリップ上のスイッチを押すと、銃口に当たる魔石の下のあいた小さな穴から、赤い光線が飛び出した。
「射線が確認できる。この光線自体に威力はないが、どこに弾が飛んでいくかはわかる」
現代で言うところの、赤外線レーザーポインターというやつだ。穴の中に小さな魔石が仕込んである。魔法文字により微弱な魔力を通すことで光線を放射する。……実は銃身が板状になっているのも、内部に魔法文字を刻んだ影響だったりする。
「どうだ、アーリィー? せっかくだから、もうちょっと小さくしたやつ作ろうか? いざという時の護身用に」
「実際の威力はどうなのかな?」
アーリィーは要領を得ない顔をする。
「いや、ジンの作ったものだから、きっと役に立つものだろうけど、実際に見てみないことにはわからないかな」
「それもそうだな」
俺は魔石拳銃を置くと、席に着いた。
実を言うと、以前から魔石を使った拳銃をいくつか試作していて、サンダーバレットも作ったのだが、あまり好んで使ってこなかった。
第一点、詠唱なしで撃てる銃ではあるが、こと威力に関して言えば、普通に杖を媒体にして魔法を撃つのと大して変わらないという事実。
第二点。速さを気にしなければ、普通に他の魔法を使ったほうがいい場面のほうが多い。外皮がとても厚い敵に対して、撃つしかできない魔石銃より、吹き飛ばしたり地面を操作して転倒させたりの魔法のほうが有効だったりする。
実際、俺が魔法が使えなければ、魔石拳銃はとても役に立っただろうが、生憎と魔法があるから必要性に乏しかったり。
魔力切れで魔法を温存したい時などには有効かもしれないが、そういう機会は滅多にない。ああ、そうそう、ボスケ大森林地帯で、光の殲滅魔法を使った時なんか、魔石拳銃の出番だったかもしれないな。たかがゴブリン集団相手には、拳銃で一匹ずつ撃つより、手榴弾で散らしたほうが有効だったから使わなかったけど。
俺がそんなんだから、別に異世界に来てまで銃を作る必要性ないんじゃないかって思っていたわけだけど、ここ最近、その考えを少し改めつつある。
ライトニングの魔法を連射モードで撃つ――そんな状況が、特に増えているのだ。
魔法を使えば、魔力を消費する。連射すれば当然、その分魔力も喰う。先の魔獣軍の侵攻時のような長丁場になる場合、魔石の魔力を媒体にする魔石銃、特に機関銃のようにバラまけるものがあれば、そういう消費もある程度抑えられるというわけだ。
魔法車用に車載武器が欲しいと思ったのも、それを後押しする。機関銃でなくても、大口径の魔石砲みたいなのを「俺の考えた最強のゴーレム」に積んでみたいなんて思ったりもしていたり。
「魔石、機関銃か……」
俺は腕を組んで、天井を仰ぐ。自身の魔力を使わずに、魔石を利用して魔法を放つ。ただ連射するだけなら、魔石をカートリッジ化して、使い切ったら予備カートリッジと交換することである程度、形になる。
えっと、短機関銃――サブマシンガンって感じだ。比較的短い距離で使うなら、案外すぐに形になりそうだ。
だが、俺が本当に欲しいのは、それじゃなくて、だな。
射程の長い、そう、重機関銃みたいなやつ。まあ、一人で持ち運べるって考えれば軽機関銃、いや汎用機関銃っていうんだっけ。それの魔法を撃つ銃版だな。
ネックなのは威力と射程。魔法というのは基本的に遠くへ飛ばそうとするほど、魔力の消費が跳ね上がる。
長距離魔法が、破壊力に勝る拠点攻撃や敵集団攻撃の魔法だったりするのは、威力がないと届いても効果がほとんどないから。それなら最初から大火力で撃ち出せ、という思想である。
だから基本的に、機関銃のような連射系の魔法は、こと遠距離用としては存在しないのが現状だ。届く頃には、威力が落ちて盾や鎧などに弾かれてしまうから。
いっそ、実弾系にしてしまうのもありかもしれない。魔法弾ではなく、金属の弾を撃つ、俺のいた世界と同じ感じの。銃弾に関しては装薬などを魔石クズで代用するという手がある。もちろん、ちゃんと使えるようにするには試作、調整が必要だが。
……あとは、命中精度か。
電撃弾にしろ、実体系の銃弾にしろ、距離が離れれば、それだけ命中精度が落ちるわけで。
魔法に関して言えば、狙撃なんて針の穴を通すような魔法はなく、実弾なら銃身の内側にライフリングなどの加工が必要だ。
ライフリングがないマスケットなどの古い時代の銃の命中精度の低さは有名な話である。
こういう不足する技術を魔法で補う……補えるのか? これは要検証して、問題があればそれをクリアしていかないと無理だろう。
「ねえ、ジン、大丈夫?」
アーリィーが心配げに俺の顔を覗き込む。ベルさんは、しっぽをぺちぺちと机を叩きながら言った。
「オイラたちには理解できない世界の話だからなぁ。正直、よくわからん」
まあ、そうだろうさ。この件に関しては、他に相談できる相手がいない。俺が考えにふけっていると、アーリィーが飲み物をメイドさんに用意させた。
気がきくね、本当。
結局、あれこれ考えて、複数の魔石をボックスに詰め、それを銃口に当たる魔石と、引き金があるグリップ部分の間に置く形で魔石機関銃の試作一号機が完成した。
銃身部分が、そのまま弾倉ないし弾薬ボックスになっている感じだ。魔法を撃ち出すわけなので、長銃身にして弾道をどうこうする意味はない。ゆえに銃身はそのまま魔力を蓄えたエネルギーパック扱いである。
複数の魔石を使うのは、単純に一つで足りないなら二つ、三つと一度に投入する魔力量を増やして威力を高めるためである。1+1は2、という考え方だ。射程と威力を伸ばす単純な方法である。
欠点としては、魔力消費が大きいことと、魔石ボックスが大きいので、交換作業や携帯にやや不便な点だろう。
あとは実際に何度か使ってみて修正していけばいいだろう。
明日は、適当な場所で試射をしようぜ、とベルさんと話した俺だったけど、予想外の事態が発生し、テストどころではなくなるのである。




