第1251話、ジェノサイド
真・ディグラートル大帝国軍による侵攻は迅速であり、連合国の崩壊は始まった。
ウーラムゴリサ王国は王都が陥落。そこから一気に王国内に進撃した真・大帝国軍は、王国軍を各個撃破。主要拠点を破壊し、都市を占領した。
拠点に立てこもっていた貴族や軍事的指揮官は、拠点ごと粉砕され、命からがら脱出し、投降した貴族らは、即日処刑された。
クレマユー大侯爵の居城ブリアール城も例外ではなかった。真・大帝国戦艦群による艦砲射撃により完全破壊され、クレマユー大侯爵もまた即時処刑されたという。
また、連合国有数の軍事国家であるニーヴァランカも、真・大帝国は津波の如く進撃。保有する艦隊を、性能と物量で撃破すると、展開する地上軍に対して毒魔法を散布する毒ガス戦法を使用した。
対策していないニーヴァランカ兵は逃げ出し、真・大帝国の新鋭魔人機と戦車軍団がそれを追尾し西進した。
東に向けて防衛線を展開していたニーヴァランカ軍は、背中から撃たれる格好となり、防御線の効果は激減、瞬く間に殲滅されていった。
真・大帝国はさらに援軍を連合国に動員。占領を確実なものにしつつ、次の攻勢に出る。
ネーヴォアドリス、セイスシルワ両国の国境を突破。集結していた防衛艦隊を駆逐すると、陸軍が雪崩れ込み、あっという間に戦線を蹂躙したのであった……。
・ ・ ・
アリエス浮遊島司令部。俺は、シェイプシフター諜報部やその他偵察情報を仲間たちと分析していた。
ベルさんは口をへの字に曲げた。
「連中が本気を出せばこうなることは予想がついていたんだがな」
「まるで相手になりません」
ディアマンテが淡々と、しかし実に冷ややかな目をしていた。
「この惨事は、彼ら連合国が招いた結果と言えます」
送られてくる報告は、どれも悲惨そのものだった。
民間人のいる都市部への艦砲射撃や毒ガスの使用――発達した兵器群や大量破壊兵器の使用に関して、取り決めもない世界である。大量の連合国の民が、大帝国の圧倒的暴力を前に踏みつぶされている。
「自業自得だ」
ベルさんは吐き捨てた。
「自分たちを守ることばかりを考えて、同じ連合国だった国の惨状を見て見ぬ振りをした。大帝国という脅威を認識していながら、攻め時を見失い、また足並みを揃えるべき時にしなかった」
もっと早くシーパング同盟と協力し、大帝国と戦っていたなら、装備はより新しく強化されていただろうし、量も増えていた。
再三の協力要請を拒み続ければ、そりゃあ支援だってされなくなる。自業自得……まさにベルさんの言う通りだ。
ここまで一方的に蹂躙されることはなかったのだ。
「今回の件に関して、シーパング同盟のお偉いさんにも報告したんだけどな」
俺は、その短いながらも会談した各国首脳の様子を知らせる。
「エマン王は連合国への救援を渋った。これはヴェリラルド王国に面している大帝国領で大幅な増援が送られた影響もある」
つまり、こっちも守りを固めないと危ないかも、という状況だったりする。
「第一艦隊は、王国の防衛から動かせないし、ジャルジーも北方戦線の様子に神経を尖らせてる」
結婚式を控えているのに大変なんだよな、これが。
「リヴィエルのパッセ王も、真・大帝国の西方方面軍を警戒している。……まあ、こっちは戦力化を急ぐ段階で、外国に援軍を派遣する余裕がないんけど」
そしてエルフ。シーパング島に合流し、その庇護下にあるが、カレン女王のお言葉は――
『シーパング同盟が動くのであれば、微力ながら参加する用意があります。ですが、元より大帝国に対して同胞さえ見捨てた国の集まりを救う意味はありましょうか?』
やはり、連合国の自国優先主義によい感情を抱いていないようだった。散々狙われたエルフとしては、安全なところでのうのうと過ごしていた者たちを助ける義理はないというところだろう。……まさにそれ。
「クーカペンテは、正面に大帝国植民地軍を控えているので、動けるはずもなく、プロヴィアもまたクーカペンテ援護を優先した」
エレクシア女王は、俺の命令があれば、連合国救援でも何でもすると完全に俺に従う気でいる。
が、自分から連合国を助けましょうと言わなかった。やはり、連合国が苦境のプロヴィア王国を何度も見捨てたことが原因だろう。
「まさに、普段の行いの結果ってやつだな」
ベルさんはいい気味だ、と言わんばかりだった。俺やベルさんは、連合国から裏切られたことで、連中に恨みにも似た感情を持っている。
そもそも、あの時、連合国が俺たちを切らなければ、ここまで戦争が長引き、多くの国を巻き込み、また犠牲者も出てなかった。
自業自得では生ぬるい。大陸中にさらなる血を流させたことを考えれば戦犯と言っても過言ではない。
アーリィーがレポートから顔を上げた。
「連合国は、これまでのツケを払わされている。でも気になるのは、多くの民間人だよね」
犠牲になるのは、いつも戦争に巻き込まれる民だ。
「それについては同意します」
ディアマンテは頷いた。
「連合国首脳の無策によって、民への被害が拡大しているのが懸念事項です。大帝国軍は毒ガスや大量破壊兵器を使用しており、非戦闘員への攻撃、また投降した捕虜の虐殺も行っています」
機械文明時代の旗艦コアである彼女にとって、一般人は守るべき対象と見ている。人道的見地からも、避難する民を追い立てる真・大帝国のやり方は見過ごせない。
シーパング同盟側の国々にとっても、大帝国との衝突は不可避である。今回のような戦い方を敵はやってくるに違いない。対岸の火事と見ているわけにもいかないのだ。
「何とか民間人だけでも助けたいよね……」
「かといって、こちらも大帝国の連合国侵攻の全てに対応するのは、兵力数から見て不可能だ」
こちとら神様ではないからね。真・大帝国の西方方面軍増強の影響で、第1艦隊は動かせず、できれば第2艦隊もヴェリラルド王国に残しておきたい。
クーカペンテ、プロヴィア王国には第5艦隊が張り付き、さらにシーパング島の第7艦隊を増援として送る。シーパング同盟の加盟国だから、連合国よりも守るレベルが高くなるのは当然だ。
そうなると、使えるのは俺のバルムンク艦隊、ベルさんのレーヴァテイン艦隊、アーリィーの第3艦隊と、シャドウフリート(第4艦隊)、青の艦隊(第6艦隊)となる。艦隊隻数からすると、中規模艦隊ばかりである。
いや、あと大帝国解放軍(第8艦隊)があるか。現在、旧・大帝国の艦艇をウィリディス式改装を施しているので、全力出撃は不可能であるが、大帝国本土での作戦を控えているだけに手の空いている艦もある。
「まあ、やれる限りはやろう。民間人の虐殺はやはり見過ごすべきではない」
俺は早速、連合国の民間人救助のための準備に取りかかった。
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