第1249話、リモート会議
ヴェリラルド王国上級会談。それはエマン王、ジャルジー公爵、そして四大侯爵が、国内外の問題を話し合う場である。
俺はアリエス浮遊島軍港の司令部にいて、ホログラフィック状に表示される王やジャルジー、他の三侯爵らと魔力通信会談に参加していた。
『――いやはや、トキトモ南方侯爵に喧嘩を売るとは、とんだマヌケがいたものだ』
ジャルジーは、明け透けだった。
だがその言葉で、次期国王となる公爵の立ち位置ははっきりした。ジャルジーは、俺の味方、レナール子爵は悪。
それがわかれば、公爵のイエスマンであるムカイド北方侯爵は頷いた。
『我ら四大侯爵のひとつ、南方侯爵に挑むとは愚かの極みですな!』
『それで、トキトモ侯。レナール領はどうなっているのかね?』
クレニエール東方侯爵が聞いた。……たぶん、この狸親父は知っているぞ。
「我が南方領軍は、賠償金を確認しさっさと引き上げました。あくまで売られた喧嘩への報復ですから」
領土を欲していないというのは、皆の前でアピールしておかないとね。
「後のことは、リッケン西方侯爵にお任せしています」
『そうなのかね、リッケン侯?』
『うむ。トキトモ南方侯爵より、レナール領降伏の書状のうつしを受け取っている。隣接するスタッド伯爵の軍がレナール領に入り、以後の処理を行う手はずだ』
ホログラフィックのリッケン西方侯爵が、一瞬俺を睨んだようだった。
レナール子爵は無条件降伏をしたが、降伏にあたって、次の要求を俺はしている。
1、損害および戦費の賠償。
2、二度と南方侯爵領に攻撃をしないこと。
3、以後については、リッケン西方侯爵からの沙汰を待て。
1と2については、そのままの意味だ。3は、つまり、後始末を西方領の取りまとめ役である、リッケン西方侯爵に丸投げしたのである。
いちおう、西方領に入ってドンパチやったからね。西方侯爵殿がまったく関われないというのも可哀想な話だ。
『兄――トキトモ侯は、それでいいのか?』
ジャルジーが問うた。
『オレだったら、刃向かった時点で責任を取らせるが……』
その発言は、未来の国政において、反逆者には容赦しないという方針を侯爵たちに知らせることにも繋がる。
「実際に仕掛けたレナール子爵の息子であるゲルネンは討ち取りました。私としては諸悪の根源である男を処理できたので、これ以上言うことはありません」
『あとは、レナール子爵の処分だが――』
ジャルジーは、リッケン西方侯爵を見た。
『どのような処分を考えている、リッケン侯? レナール子爵は南方侯爵領に手を出した。トキトモ侯が王国を守護するため、外敵と奮戦しているにも関わらず、彼に余計な手間を取らせたのだ。これは王国の将来を左右する重大な事態に発展したやもしれんぞ?』
『左様!』
ムカイド北方侯爵が言えば、クレニエール東方侯爵もまた渋い顔をした。
『ただでさえ多忙なトキトモ侯だ。彼に何かあれば、王国の防衛にも支障をきたす』
ムカイド北方侯爵は完全に、ジャルジーの追従だが、クレニエール東方侯爵は本気でリッケン西方侯爵を睨んでいた。
リッケン西方侯爵は苦虫を噛み潰したような顔になる。
『むろん、レナールの爵位は剥奪し、国外追放。彼に任せていた土地は、スタッド伯爵のもとに吸収、以後、伯爵が統治する』
もとを辿れば、スタッド伯爵家からの分かれた領地に入ったのがレナール子爵だと言う。かつての領地に編入されるということだ。
『……国家反逆で、吊ればよいものを』
ジャルジーがポツリと呟いた。聞いていたムカイド北方侯爵がギョッとした顔をする。ジャルジーの声音に、強い怒りが混ざっていたからだろう。
言い方は悪いが、今の所、レナールと接点のないジャルジーがここまでお怒りなのが、周囲には理解できないようだった。……ぶっちゃけ、俺もわからん。何か因縁でもあった?
『自分の息子すら管理できない無能がヴェリラルド王国の貴族であることが我慢ならん。これは親父殿――国王陛下の名誉を汚すことだ』
そうだったジャルジーは、無能をとことん嫌う人間だった。俺も含めて、四大侯爵たちも、彼のこういう性格は嫌でも印象に残っただろう。
同時に、自分の管轄にある貴族たちへの注意も向けられるだろう。自分のところに、無能がいては、次期国王陛下のご機嫌を損ねるだろうことを。
先ほどから、ずっと沈黙を守っているエマン王。ホログラフィックでの表情を見るに、事のなりゆきを見守っているのだが、おそらく後継としてのジャルジーの様子を観察しているのだろう。
現王が口出しをしないところからして、彼にとってここまでのジャルジーの言動は合格点なのかもしれない。……こりゃ、彼が王位を委ねるのも、そう遠くないかもしれないな。
・ ・ ・
「会議、お疲れ様」
上級会談が終わった俺に、アーリィーが声を掛けてきた。同時に近くで見ていたベルさんも、机の上にひょい、と乗った。
「ジャル公じゃねえが、余計なことに付き合わされたな」
「本当だよ」
国内に目を向ければ、ジャルジーとエクリーン嬢の結婚式と、俺とアーリィー、アヴリルの結婚式の問題。国外とくれば、真・ディグラートル大帝国と、スティグメ吸血鬼帝国。
「特に国外がヤバいな。真・大帝国は吸血鬼地下帝国への攻勢を強めているが、連合国方面への進出も確認されている」
司令部大型モニターに大陸図が表示される。
「連中が連合国方面に向かえば、ちょうど中間に、クーカペンテ、プロヴィアがある」
この二国は連合国を脱退し、シーパング同盟に参加した。つまり、同盟軍として俺たちはこの二国を守らねばならない。
地理的に、シーパング同盟が、真・大帝国の侵攻から連合国を守る盾のような格好になる。
「大帝国は、攻勢準備をしている。これが連合国を目指して迂回してくるのか、間のシーパング同盟を突っ切ってくるのか」
「オレらは、別に大帝国と仲間でも何でもないからな」
ベルさんは鼻をならす。
俺とクルフ――ディグラートル大皇帝と個人的な付き合いがあったとはいえ、これといって約束も交わしていないから、彼がスティグメ帝国と戦いながら、シーパング同盟とも正面から戦うこともあり得た。
その時、大型モニターが点灯し、警報が鳴った。
「何事だ?」
『観測ポッドの報告。テメラリオに駐屯する真・大帝国艦隊が消失。魔力反応から推測、転移した模様!』
シェイプシフター・オペレーターの報告が響いた。ベルさんが顔をしかめる。
「どこに転移しやがった?」
テメラリオと言えば、大帝国植民地であり、シーパング同盟のクーカペンテ国に近い。転移による奇襲攻撃を仕掛けるつもりか?
『転移反応を観測! 大帝国艦隊、出現!』
大型モニターに、出現箇所がマーキングされた。その場所とは――
『ウーラムゴリサ王国と、ニーヴァランカ国――! 連合国です!』
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