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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1256/1943

第1248話、速やかなる報復


 南方侯爵領の防衛を担う南方領警備府の動きは迅速だった。


 報復命令を受けて、トロヴァオン戦闘攻撃機の先導のもと、タロン軽量爆撃機部隊が、レナール領領主町を空爆。領主の部下である騎士らの屋敷、兵舎を破壊した。


 さらにワスプ汎用ヘリに輸送されたシェイプシフター空挺団が領主の館と町を電撃占領した。


 オリゾー県侵攻にゲルネンが兵を率いていたこともあって、その防備は脆弱(ぜいじゃく)そのもの。銃火器で武装するシェイプシフター空挺兵に、旧式の剣や弓でどうにかなるものではなく、あっさりと警備兵は制圧された。


 オリゾー領に侵入したゲルネン率いるレナール領軍は、領境を守備する戦車中隊によって駆逐された。馬鹿息子も、75ミリ戦車砲弾の爆風を受けて戦死した。……貴様が死に追いやってきた部下たちにあの世で詫びてこい。


 俺はタイラントSを駆り、レナール領の領主町ハルスへ飛んだ。


『まったく実に他愛ないことだな』


 DCロッドの皮肉めいた声に、俺も苦笑する。


「かなり大人げないやり取りをやった」

『主の貴族嫌いは根が深いからな』

「おうとも。連合国で、散々な目に合わされたからね」


 俺が英雄魔術師を止めて戦場を抜けたのも、傲慢な貴族の言動と裏切りがあったから。恨みはあるよ、うん。


 ハルスが見えてきた。よくある円形の外壁に囲まれた町だ。南方領警備府の航空隊による空爆により、町の一部で煙がたなびいている。一般人地区は狙わないようにというのは当然だが、たぶん巻き込まれ、二次被害は出ているだろうと推測する。戦闘になれば、こういう狙っていない場所への被害というのはどうしても出てしまうものである。


 さて、領主の館が見えてきた。すでにシェイプシフター空挺団によって制圧されており、領の騎士ではなく、うちの兵隊が警備についている。


 タイラントを敷地内に着陸させる。制圧部隊のシェイプシフター大尉が、俺を出迎えた。


『お待ちしておりました、侯爵閣下』

「レナール子爵は?」

『応接室にて待機させております』

「結構」


 先導する大尉に続く。屋敷内の内装は、シェイプシフター空挺兵が制圧したためか、ところどころ焦げた後や家財道具の残骸などが散見された。


『こちらです』

「ありがとう、大尉」


 俺が応接室に入ると、見張りに立っていたシェイプシフター兵は気をつけの姿勢をとった。


 ソファーに座っているのはひとりの中年男性。身なりを見るまでもなく、レナール子爵だ。小太りで眼鏡をした子爵は、せわしなく目を動かしていて、たっぷりと脂汗をかいていた。


「やあ、レナール子爵。直接話をするのは初めてだね。ジン・トキトモ南方侯爵だ」

「こ、これは侯爵閣下……!」


 慌てて立ち上がるレナール子爵。俺は座るようにジェスチャーを取ると、彼の向かいの席についた。


「さて、子爵。私がここに来た理由は、わかっているね?」

「……」


 落ち着きなく、視線を行ったり来たりさせている。うん、わかっているね。


「私は再三、あなたに警告した。レナール領のお隣は、オリゾー子爵領ではなく、トキトモ南方領のオリゾー県である。次に仕掛けたら、南方侯爵への攻撃と判断し、然るべき対応をとる、と」

「は、はい……」

「だがあなたの息子は、愚かにも我が領に不法に侵入し、あまつさえ我が領民の村を襲おうとした! これはどういう了見か!」

「そ、それは、その……」


 完全に萎縮(いしゅく)しているレナール子爵。……こいつは小心者だ。自分が楽することを考え、仕事を部下に丸投げする。増長する息子を止めもせず、好きなようにやらせていた。……調べはついているんだよ。


「私は、あなたの領に宣戦布告をした。つまり、あなたは私を満足させねばならない。この意味がわかるかね?」

「……領が、南方侯爵様に取り上げられる、ということでしょうか……?」


 恐る恐るレナール子爵は言った。この場をどう切り抜けるか、それしか頭にないようだ。


「あなたの領を取り上げて何か意味があるのかね?」

「え……は……」


 真面目に仕事をしていたのかね、君は?


「仮にもレナール領は西方侯爵の管轄だ。南方侯爵である私が、ここを制圧しても、何のメリットもない」


 俺が武力に物を言わせ、他の領地を欲している――そう貴族たちから後ろ指を指されるだろう。のんびり過ごしたい生活が理想の俺としては、領土拡張など面倒が増えるばかりで、おいしくない。


「どうやら、あなたにはわからないようだから、講和の条件を伝えよう」

「こ、講和……」

「無条件降伏せよ」


 それだけだ。簡単だろう?


「む、無条件……降伏っ!」


 講和? いやいや、ただの降伏勧告だ。要するに、領の武装解除はもちろん、子爵の身柄と生殺与奪を俺に委ねろということだ。煮るなり焼くなりどうぞお好きに、と自分を差し出すのだ。


「こっちは怒っているんだよ、子爵。私の善意を無碍にし、警告を無視した。南方侯爵の顔に泥を塗り、恥をかかせたわけだ。……貴族社会で、それは何を意味するか、ご存じだろう?」


 貴族は命よりもプライドを優先させる。かかされた恥は、必ず晴らすものだ。俺の嫌いな貴族たちはそうだったし、これからもそうだろうよ。


「いいんだよ、子爵。講和の条件を蹴ってくれても。あなたが条件を呑もうが呑むまいが、すでに後のことは決まっているんだからね。私はどちらでも構わないんだ」

「……します」

「何だって? よく聞こえない」

「無条件降伏、いたします……」


 レナール子爵は頭を下げた。


 まあ、そうだろう。すでに館はうちの兵隊に制圧されている。拒絶したところで、殺されるだけだと小心者のレナール子爵は思ったのだろう。


「そうか。では、ここの降伏文書にサインをしてくれ」


 俺はストレージから、こういう日のために用意した書状を出した。


「これのコピーを、エマン国王陛下とリッケン西方侯爵に送るからね」


 それが終わったら、たんまり賠償金を頂く。西方侯爵の管轄の土地を占領し続けてもいいことはない。だから長居はしない。さっさと引き上げる。

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