第1246話、たまに南方領視察
ジャルジーとランチをした後、彼はクロディス城、俺は南方領に行くはずだった。
が、結婚式場の話にテンションを上げてしまったジャルジーが『父上に話すぞ』と俺を引っ張って、エマン王の書斎へと向かった。
ウィリディスの白亜屋敷で、政務の後はのんびり過ごすのが日課になりつつあったエマン王は、書物を読みふけっていたが、俺たちが現れると眼鏡を外した。……なお、その眼鏡は俺が読書用にと製作したものだったりする。
「父上、兄貴がやりました!」
「何を?」
エマン王は、言葉の足りない息子の言葉に、当然の如く眉をひそめた。
かくかくしかじか――
「空中式場……!」
「まさしく、天才の発想です!」
……ジャルジー、少し落ち着け。
高貴なる者は、より高い位置からうんたらかんたら……。馬鹿と煙は高いところがお好きと言ったらどんな顔をするんだろうね。……言わんけど。
「私とエクリーンの結婚式は、より神に近い場所で祝福を――」
……今のセリフ、リヴィエル側の説得に使えるかもしれない。神様に近い場所で祝福とか。
「この空中式場がうまく行けば、兄貴とアーリィー、そしてアヴリル姫の結婚にも使えるかと」
ジャルジーは興奮気味にまくしたてる。俺の代わりにエマン王に説明してくれるとは、何とも兄弟思いじゃないか。
なお、その空中式場とやらは、俺が設計に絡んで、製作することになる模様。
「――ヴェリラルド王国とリヴィエル王国、双方の国境の上で式を開き、その後は空を飛んで双方の王都を巡るというのはどうでしょうか!?」
プランニングまで始めたぞ。
しかしこの空中式場について、色々検討が必要としつつ、エマン王もその気になっていた。
「我が国は、新しき技術を取り入れ発展に向かおうとしている」
そう前置きした上で、現王は言った。
「新風が吹いていることを内外に示すためにも、新しき王となるジャルジーの式は、これまでにないものを取り入れるがよかろう」
ただし、護衛も含めて要検討、と念を押された。新しい風もいいが、次の王であるジャルジーの門出でもある。失敗は許されない、と。
「心得ました」
そりゃ、事と次第によれば、俺たちにも降り掛かる問題だからね。真剣に当たらせてもらおう。
・ ・ ・
ということで、エマン王とのお話が終わったので、本日の予定である南方領視察へ向かう。
俺が南方侯爵となり、それまでの南方貴族たちの領地を引き継いでいるが、ノイ・アーベントでやった運営をもとに、改革や生活向上のための技術投入や開拓は、現地住民とシェイプシフターズ、コピーコアにより進められていた。
真ディグラートル大帝国やスティグメ帝国との国外での戦争に関わっている時間が長いが、戦局がちょっと落ち着いているうちに、自分の目で様子を見るのだ。
……ふむふむ、中々うまくやっているようだ。いくつか視察し、今はトレーフル県の県庁にいる。
ここトレーフル県を穀倉生産地帯にするための準備を進めていたが、魔獣討伐と農地開発が順調に進行しているとのことだった。
それは何よりだ。毎年、冬になると寒さと食料不足で領民に犠牲が出ているというが、今年はそれを極力なくしたいものだ。
「トキトモ閣下! 緊急電にございます!」
トレーフル県長である、シダン子爵が電報を持って駆け込んできた。かつての南方貴族であるが、今では俺の配下としてトレーフル県の政務を担当している。
「どうした?」
「オリゾー県庁から至急電です! 隣接するレナール領から軍勢が侵入してきたようです!」
何……? 俺は、シダン子爵から電報を受け取る。
「レナール子爵の軍勢が領境を突破。……馬鹿息子が暴走しやがったか!」
西方領に属するレナール領と、我が南方領オリゾー県は隣接している。俺が治める前から、先祖の代からの土地が云々と衝突が度々起きていた。
なお前任の南方侯爵も、西方侯爵も、地方領主同士の喧嘩として干渉しようとはしなかった。
で、今レナール子爵の息子ちゃんが、その大昔の争いを引き継いで、オリゾー県を手に入れようとしているのだ。
馬鹿め。そこはお前たちが争ってきた貴族の土地ではなく、南方侯爵である俺に任された土地だ。つまり、お前は南方侯爵に喧嘩を売っているんだぞ、レナールのボンボンよ!
まあ、この件に関しては、以前の視察を通してエマン王も知っているし、レナール子爵にも、今度やったら南方侯爵が報復するぞと書状を送りつけてやった。リッケン西方侯爵にも、仕掛けた貴族には灸を据えると通告してある。
それでなお突っかかってきたのだから、もう遅い!
「シダン君。南方領警備府に、俺の名で電報を打て。コード:ラオフェン発令。報復を開始せよ。俺はこれからオリゾー県に救援に向かう」
「承知しました、閣下!」
シダン子爵は慌てて、部屋を出た。俺はバルコニーへと出て、ストレージから魔甲機タイラント・スペクターを出すと乗り込んだ。
DCロッドをセット。マギアスラスターを噴かして、機体は空へと飛び上がる。
近くにある観測ポッドとデータリンク。座標照合。オリゾー県の警備隊と、侵入したレナール領の馬鹿どもの位置を確認する。
『まったく、余計な仕事を増やしてくれるものだ』
DCロッドからディーシーの声で愚痴がこぼれた。これには俺も完全同意だ。
「レナール子爵がバカ息子を押さえられないとはね」
『南方侯爵に喧嘩を売ったのだ。この代償、高くつくだろうな』
「エマン王も、ご存じだからな。レナール子爵家を潰したとしても、こっちはお咎めなしだ」
そういう風に出来ている。モニターに新たなサインがついた。
『南方領警備府から、報復部隊が発進した』
「サンキュー、ディーシー」
敵の侵攻に対して、即時迎撃ないし反撃ができるように、南方領警備府の名のもとにウィリディス軍部隊が配備されている。
今頃、防空団から戦闘攻撃機中隊が、レナール領へと飛んだはずだ。その攻撃、もとい報復計画――コード:ラオフェンに従って。
「こっちはオリゾー県の敵の排除支援を行う」
ぶっちゃけ、オリゾー県には警備府とは別に現地警備隊があるので、俺が出向くまでもないとは思うが。
「やはり現場は見ておかないとな」
『見えるぞ。観測ポッドVSS-30からの映像を受け取った。表示する』
モニターの一角に、観測ポッドから記録が届く。レナール子爵家の旗を掲げた軍勢、およそ200人ほどを確認した。
「……おいおい、人様の土地にある村に突撃とか、こいつら盗賊か?」
当然、これ以上の狼藉は許さない。
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