第1245話、結婚式の話
貴族同士の結婚も晩婚化が進んでいるらしい。
ジャルジーは20代も半ば。しかも公爵なのだから、本来ならとうに結婚していてもおかしくないのだが、彼の場合、相手を選んだりお世話する両親が割と早い時期に他界したのと、目下最大のライバルだったアーリィー王子の排除があって、ここまで結婚せずにきたらしい。
今ではアーリィーが王女様となり、王位継承権が繰り上がったことで、ジャルジーは何の憂いもなく結婚ができるようになりましたとさ。
相手は19歳のエクリーン。東方侯爵であるクレニエール侯の娘である。俺の嫁であるアーリィーと魔法騎士学校の同期生である。つい『さん』付けで呼んでしまう不思議なお嬢さんだ。
「結婚式が決まったそうだね、おめでとう、ジャルジー」
「ありがとう、兄貴」
ウィリディス屋敷で、俺は数日ぶりにジャルジーと会った。
「エルフの里では大活躍だったそうだな」
「誰から聞いた?」
「カレン女王陛下。先日、ウィリディス食堂で会った」
俺とジャルジーはその食堂で、向かい合って座る。
「結婚式の招待状は送ったのか?」
「もちろん。エルフの里も大変だったそうだが、まあ兄貴のシーパング島があれば大丈夫だろう。……オレはいつシーパング島に招待してくれるんだ?」
ジャルジーは、給仕が運んできたカレーライスを前に言った。
「そういえば、まだ案内していなかったな」
「そうだぞ。女王陛下は、世界樹が複数立っている島は、神聖にして神の島だと言っていた」
「……陛下はずいぶんと口が軽い」
「兄貴のことを神のように崇拝しているようだった」
「大帝国や吸血鬼の手の届かない場所に避難させただけなんだけどね」
俺も、用意されたカレーライスに手をつける。具がたっぷりのビーフカレーだ。ジャルジーは、すでにスプーンをいれて、はふはふと冷ましながら食べている。
「――世界樹と里ごとだろう? それを神の業と言わずして何という。あり得ない。兄貴にしかできない」
「転移魔法の応用だよ……。それに島を浮かせる技術自体は、古代魔法文明時代のものを使っただけで、俺じゃないよ」
「兄貴は浮遊島を作ったじゃないか」
「ギルロンドのことか?」
エルフの軍港用に、俺たちウィリディス勢で作ってみた浮遊島。
「やっぱり、兄貴にしかできん」
「……そういえば、ジャルジー。君の専用戦艦が出来たぞ」
デューク・ジャルジー。キングエマン級2番艦。
「おおっ、来たか! 結婚式前に間に合ったな」
「盛大に祝わないとな。次のヴェリラルド王国国王陛下」
俺が言うと、ジャルジーは苦笑した。
「ありがとう。まあ、オレのことはいいよ。……兄貴の方は大変そうだけどな」
「……」
俺のスプーンを握る手が一瞬、止まった。
「まあ、大変だよ」
特に、エマン王とパッセ王との間で、険悪な空気が広がっている。
「よく考えれば、わかるはずだったのにな。……それとも敢えて触れなかったのか。結婚式を意識し始めたら、周囲を巻き込んで揉め出した」
「オレは、兄貴のことを色々と羨ましいと思っていた。もちろん、今でもそう思っている」
ジャルジーは意地の悪い顔になる。
「だけど、この件に関してだけは当人でなくてホッとしている」
俺が渋い顔をしたためだろう。ジャルジーはさらにニヤリとした。
「まず、何だっけ? 第一夫人、第二夫人という扱い、言い方が駄目なんだって?」
「俺とアーリィーの婚約が先なのは間違いない」
俺はパクリとガレーを一口。
「だが、後から婚約となったアヴリル姫は、リヴィエル王国の女王の地位がほぼ確定してしまったからな。一国の女王が第二というのは体面がよろしくない」
……そもそも、アヴリル姫との婚約は、俺のあずかり知らないところで勝手に決まったことだ。
俺は姫にアプローチをした覚えはないのに、いつの間にか婚約者になっていた。まあ、そんな関係だから、彼女に優しくはしたけど、まだ肉体的な接触はないし、恋人意識も薄いのだけど。
「王族や貴族の婚約なんて、本人が決めるもんじゃないからな」
ジャルジーは、俺のいつの間に婚約に対しても、何も不自然さを感じていないようだった。貴族の感覚ってやつは、いまいち俺にはわからん。
「とにかく、アーリィーとアヴリル姫、双方とも対等というところが落とし所だろう」
ジャルジーはコップの水を飲んだ。
「パッセ王はともかく、リヴィエルの連中の中にはその対等というのも気にいらないって奴もいるだろうけどな。こっちは女王だぞ、って」
「だろうね。だがヴェリラルド王国側にも、隣国の姫、いや女王陛下に反対の者もいるだろう」
「いるだろうな。だが、兄貴がこれまで通り、こっちにいる限りは反対の者はそう多くないだろう。向こうへ行ってしまう、というなら反対するし、たぶんオレもそうなる」
俺とウィリディス軍はヴェリラルド王国のものだ、ということだろうな。
「で、次の問題が、いつどこで結婚式をあげるか、だったな」
「……」
俺とアーリィーが、ヴェリラルド王国で挙式をあげるのは何の問題もない。
だがアヴリルは、リヴィエル王国の女王になる。当然、式もリヴィエル王都で、と考えるのが普通だ。それぞれ別々に式をあげるのか? だったらどっちが先に――はい、ここでも順番で揉めたってさ。
じゃあ、一緒にとなれば、今度は場所で揉める。
「ほんと、行き当たりばったり過ぎないか? よく考えれば、そうなるだろってわかりそうなものなのに」
「でも、兄貴だって指摘しなかっただろう?」
「聞いてなかったのか? アヴリル姫との婚約は、俺の知らないところで、知らないうちに決まっていたんだぞ? 双方国家間で合意しているなら、式場がどうとかも決着がついていると思うじゃん」
「兄貴は国防に忙しかったからな」
ジャルジーは同情した。
「よくやっているよ。あの大帝国相手に、いまだ国土を明け渡していないし、吸血鬼帝国の相手もしているんだからな。兄貴を責めるのは筋違いだ」
「ありがとう、ジャルジー」
サンキュー、兄弟。
「いっそ、国境のあるエール川の上でやるか……」
「浮遊島でも作るかい?」
「そこまで大仰なものでなくてもいいだろう。空中式場とか……高いところで結婚式をやるとか」
「何それ、オレの結婚式でやりたい!」
ジャルジーが何かしらんが、その気になった。たぶん、誰もやったことがないから最初に自分が、ということだろうか。……ガキみたいに目を輝かせてるんじゃないよ、公爵殿。
ま、こっちも結婚式をやることは間違いないんだ。いっそ、公爵殿の結婚式をプロデュースでもするか? ……まあ、しないけど。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック4巻、発売中! どうぞよろしくお願いいたします!




