第1244話、建造ドック視察
「いつ来ても、ここは騒がしいんだな」
ベルさんは皮肉げに言うのだ。
俺とアーリィー、ベルさんは、アリエス浮遊島軍港内を歩いていた。相も変わらず、造船施設は新型艦艇の建造が行われていて、戦力化のための準備が進められている。
「第二次軍備増強計画艦の配備は概ね済んだからな」
「ファーストステップの時の損傷艦も、修理を終えて次々に復帰しているね」
アーリィーが相好を崩した。
スティグメ帝国の地下都市攻略作戦『ファーストステップ』ならびに、第二次ノイ・アーベント迎撃戦において、ウィリディス軍航空艦隊は大きなダメージを受けた。
損傷艦も多く、各地に点在するウィリディス軍の秘密拠点ドックをフル稼働させて修理が行われた結果、短期間のうちにそれらは艦隊へ復帰を果たしつつあった。
「それに加えて、新造艦だ」
ベルさんは不敵に笑うのだ。
「失った艦も多かったが、全体を見れば以前の規模にほぼ回復したんじゃねえか?」
「性能のことも考えれば、それ以上かな」
俺は頷いてみせた。ああ、そういえば――
「ベルさんとこの艦隊にも、新しい艦を作ったんだっけ?」
この魔王様のレーヴァテイン艦隊については、基本お任せで、俺はタッチしていない。
「艦隊の打撃力が欲しくてね。新しい巡洋艦を作らせてみた」
聞けば、戦艦と巡洋艦の中間スケールである全長230メートル級の大型巡洋艦らしい。ベルさん艦隊の戦闘空母や突撃揚陸艦とサイズを合わせて船体を流用しつつ、重火力艦として設計したという。
「マギアブラスター主砲を9門から10門を装備させた!」
どうだ、と言わんばかりのベルさん。アーリィーは吹き出し、俺も面食らった。
「またトンデモ艦を作ったなぁ」
「魔導放射砲を主砲にできる『バルムンク』なんてバケモノ作ったお前さんには言われたくないぜ」
……それを言われると、確かに返しようがないな。実際、青の艦隊用のクルーザーにはマギアブラスター主砲を積んでいるから、不可能ではないが……。9から10門は多すぎね?
「しかし、マギアブラスター主砲は魔力消費が半端ないぞ。シードリアクター積む?」
「そのつもりだ。さすがに通常動力じゃ無理だからな」
ベルさんの艦隊用の大型巡洋艦は4隻の配備を進めているらしい。火力についてはバカらしいほど高いが、真・大帝国の新造戦艦のコルドアⅡ級などの攻撃力を見ていると、マギアブラスター主砲くらいないと圧倒できないとも思う。
まんざら過剰火力と言えないほど最近は、敵さんも強くなってきた。
俺たちは建造施設を一望する。大型戦艦が1隻と、正規空母が5隻が並んでいるのがよく見えた。
手前に見える空母を見やり、アーリィーは俺に聞いた。
「新型の空母だね。『アーガス』やイントレピッド級より小さいみたいだけど、どこに配備なのかな?」
第三艦隊――空母機動部隊の司令長官でもあるアーリィーは、期待の目を向けてくる。残念だけどね、アーリィー。
「ここにあるのは第三艦隊以外の艦隊だよ。一番奥にあるのが、修理を機会に大改装した『アウローラ』だ」
ファーストステップ作戦中に大破した『アウローラ』は、ウィリディス軍歴戦艦にして最古参空母だ。簡素な小型空母から、正規空母へと大改装。そして今回のバージョン3にて、装甲空母へと生まれ変わった。
「そして手前の4隻は、アウローラ改三をベースにした量産型装甲空母になる」
全長は275メートル。ウィリディス空母としては、スタンダートなスタイルだ。艦橋は艦体右側。全通飛行甲板に、艦体両舷に張り出した艦載機格納庫、サイドハッチなどなど。
「ソウリュウ級汎用空母の発展型?」
アーリィーは首を傾げた。蒼龍級空母は、ウィリディス軍の量産型中型空母であり、今回の新型はそれを大型化し、装甲を強化しただけに見えたのだろう。
俺は種明かしをすることにした。
「アウローラ改三と、その量産型はウィリディス空母初のシードリアクター搭載空母なんだよ」
「え? 空母にシードリアクター!?」
膨大な魔力を秘めた世界樹の種子から作られたシードリアクターは、一部の戦艦やクルーザーに積まれていた。だが実は、これまでは空母に載せていなかった。その有り余る魔力の使い道について、空母には必要なかったからだ。
「アウローラとこの新空母は、これまでの空母とは一味違った運用を想定している」
その1。マギアブラスター砲、クリエイトミサイル発射装置を複数配置。艦隊防空能力の向上――特に、結界水晶防御を抜けてくるような航空機や飛翔体をいち早く撃墜できるようにした。
なお、マギアブラスターは、たとえば敵が転移などを用いて近接艦隊戦を挑んできた場合に逆に返り討ちにするに充分な武装だ。
その2。生成魔力を用いて、艦内で航空機やミサイルなどの装備を魔力生成する。地上の基地や軍港に戻らずとも、空母の命である艦載機を無限に生産・補充できる。
よく航空母艦を洋上の基地などと例える話があるが、まさしく空母の形をした基地と言えるだろう。
この魔力生成による武器生成は、艦隊の他の艦艇の補給にも利用でき、一種の補給艦としても活躍が見込まれた。
「青の艦隊、シャドウフリート、ファントムアンガー、大帝国解放軍に1隻ずつ配備しようと思ってる」
いわゆる長い期間作戦行動の可能性の高い独立艦隊向けである。大改装したアウローラは、バルムンク艦隊にいただく。
「第三艦隊にはないの?」
空母機動部隊である自分の艦隊にないのが、少々ご不満な様子のアーリィー。心配ない。ちゃんと第三艦隊向けにも用意している。
「現在、修理中の装甲空母『アーガス」にも、シードリアクターを積んで改装を加えている。これは第三艦隊に復帰させる予定だ」
「それならよし」
アーリィーもにっこりだ。
シードリアクター搭載空母は、『アウローラ』『アーガス』に、量産型装甲空母――大鳳級4隻――『大鳳』『祥鳳』『瑞鳳』『龍鳳』の計6隻が決まっている。
そこでアーリィーが目を細め、建造施設の最深――大型戦艦に目を向けた。
「奥のは、キング・エマン級だよね? もう形になっているみたいだけど」
「2番艦『デューク・ジャルジー』だな」
次期国王である、ジャルジー公爵の名を冠した大型戦艦である。火力はともかく防御性能はウィリディス軍でもトップクラスだ。
「あいつが王様になったら『キング・ジャルジー』に改名になるかもな」
「嬢ちゃんが、王子様を続けていたら『プリンス・アーリィー』だったんじゃね?」
ベルさんが、からかうように言った。アーリィーは苦笑する。
「えー、何か自分の名前がつくって、落ち着かないなぁ」
元の世界でも、軍艦に人名ってのは欧州では多かったな。日本は軍艦に人名をつけなかったけど。アーリィーが王子のままだったら、2番艦は『プリンス・アーリィー』、3番艦が『デューク・ジャルジー』になっていたかもしれんな。
「そういえば、ジン。ジャルジーとエクリーンさんの結婚式の話、聞いた?」
「来月だっけか?」
親父殿――エマン王から軽く聞いている。……二言目は、俺とアーリィーの結婚式の話になるんだけどね。ははー……。
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