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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1249/1985

第1241話、北海の秘密拠点


 北方の海は冷たい。星を半周して、到着したのはノルドフライターグ基地。


「やあやあ、ベルさん。久しぶり」


 俺はコートを着込み、防寒対策をしてこの北極の海にある孤島の秘密拠点を訪れた。


 ここは、ディグラートル大帝国に抵抗する反乱軍のために作り上げた拠点のひとつである。


 実際は、いざという時のための艦隊整備、補給拠点として作ったが、ほとんど稼働していない。何故なら反乱軍――シャドウ・フリートは、ポータル移動でアリエス浮遊島軍港を利用していたから。


「備えあれば憂いなしとは、よく言ったもんさ」


 黒猫姿のベルさんが、トコトコ歩くのを俺はついていく。


「いま、ここに大帝国解放軍と、旧大帝国の残党がいる」

「アリエス浮遊島に案内するわけにはいかないからな」


 シェード将軍は、旧大帝国の残党を助け、真・大帝国に対抗する味方に引き入れようとしている。が、まだ交渉成立していないから、味方ではないんだよね。


「間違ってもシーパング島に誘導するわけにもいかない」

「元々はポータル運用が難しくなった時用の拠点だったっけか?」


 首を捻るベルさん。俺は頷いた。


「まあ、理由のひとつではある。他にも休眠基地をいくつか作ってあって、中には敵を引きつけて罠にかけるトラップ基地もある」


 そして、今回のように味方かどうか判断に困る者を引き入れたり、交渉する時の仮拠点としてこしらえたというのもある。


「で、どんな様子なんだい、ベルさん?」

「まあ、五分五分だな」


 ベルさんは首を振った。


「大帝国さんの言い分からすると、これまで戦っていた相手である反乱軍といきなり共闘しましょ、って言われてもな……ってところだろうよ」

「相手は、アノルジ海軍長官なんだろう? 大帝国海軍元帥の」

「妙な男だよ」


 ふっ、とベルさんは笑う。


「シェードとは面識があるらしいがね。理屈はわかるが、感情は納得しない、だの、おれはよくても、部下が納得しない、だの、のらりくらりと躱すのが上手い男だな」

「直接の上司ではないにしろ、シェード君には少々荷が重いかもしれないな。何せ、同じ軍にいた者同士だからね」


 階級じゃアノルジ長官のほうが上だしな。シェード将軍は、貴族や偉い人との付き合いはあまり上手い方ではないと言っていたし。


「でもまあ、腹を割って話せば、理解は得られるだろう」


 そのために俺が来たんだし。


 俺とベルさんは、ノルドフライターグ基地司令部の会議室へと赴く。シェイプシフター兵が警備に立つ扉を潜れば、室内には、我らがシェード将軍と、旧大帝国海軍長官、アノルジ元帥がいた。



  ・  ・  ・



「はじめまして、元帥閣下。シーパング同盟艦隊の指揮官を務めているジン・アミウールです」


 ジン・アミウール――その名前に、アノルジ元帥はにわかに驚いたようだった。


「これはこれは……お名前はかねがね。しかし、私の記憶違いでなければ、貴殿は2年ほど前に死んだと聞かされていたが」

「連合国の悪質なプロパガンダですよ」


 まあ、連中は俺を殺そうとしたわけだけどね。


「まさか噂のシーパング国とやらに、貴殿がいるとは思いもしなかった」

「でしょうね。我が国は秘密主義な面も多いですから。かの連合国も、私が生きているのを知らない」


 席につき、俺はシェード将軍を一瞥(いちべつ)する。


「さて、どこまで話は進んでいますかな?」

「真・大帝国は敵だ、というところですなァ」


 アノルジ元帥は口元を歪めた。


「敵の敵は味方という論理を、かつての部下であるシェード将軍から聞いたところです」

「なるほど。彼はお優しい」

「と言うと? ジン・アミウールの考えは違う、と言われるか?」

「うちは来る者は拒みませんが、そうでないなら深く介入はしない方向なので」

「なるほど。つまり、ジン・アミウール殿は、我ら大帝国人を無理に勧誘しようとは思っていない、と」

「やる気の問題ですよ。敵と戦うのに、味方に足を引っ張られているのは御免ですから」

「患わされるくらいなら、いないほうがよい、ということですな」


 アノルジ元帥は頷いた。


「ジン・アミウール殿は、我々のことをよくご存じのようだ」

「つい先日まで、つまり大皇帝が帰ってくるまで、我々は敵同士でしたからね。いや……私個人で言えば、その前からあなた方大帝国の敵だった」


 それにいきなりお友達になりましょ、はいそうですか、となるわけがないのだ。


「私は大勢、大帝国人を討ちました。相当恨まれているでしょう。それについては否定はしません。が、あなた方も、大勢の人の命を奪ってきた」

「つまり、お互いさま、と?」

「いえ。私が大帝国の人間をどう思っているか、あなたにも理解できるでしょ、って話ですよ」

「……」


 味方を殺されて恨んでいるのは、自分たちだけじゃないぞ。お前たちの敵だった男もまた、敵視や恨みを忘れてはいないのだ。連合国に裏切られた俺だが、その前は共に戦い、また大勢の死を見てきた。戦友がいた。知り合いがいた。よくしてくれた人もいた。その大半が、もうこの世にいない。


「では、未来の話をします。シェード将軍から聞いているかもしれませんが、あなた方のいう反乱軍は、大帝国解放軍として、ディグラートル大皇帝の排斥と大帝国解放を目指しています」

「うむ」

「解放軍は、ディグラートル打倒後の大帝国を治めます。解放軍はシーパング同盟の一員ですから、そのために必要な支援を行います。……ここまでで何か質問はありますか?」

「大帝国解放軍というのは、シーパングの傀儡(かいらい)ではないのか?」


 アノルジ元帥は、ずけずけと言った。


「いかにも大帝国人がやっているように見えて、実のところは支援を盾にその後の大帝国を支配しようとしているのではないか?」


 要するに、大帝国解放軍とは名ばかりで、実際はシーパング軍なのではないか、と元帥は指摘した。……まあ、そう考えるのが妥当だろう。


「そう思うのであれば、あなたは尚のこと、解放軍に参加すべきだ。そして戦後の大帝国の指導者になればよい」

「おれに……?」

「少なくとも、軍にいれば傀儡か否か、はっきりわかると思いますよ」


 俺は自然と顔が綻ぶのを感じた。やはり、その国の指導者は、その国の人間がやるべきなんだ。

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