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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1239話、皇帝とハル


 スティグメ帝国帝都グランドパレス。皇帝の居城であるプロフォンドゥム城の皇帝の寝室の前にグレーニャ・ハル長官はいた。


 ――相変わらずお盛んなことで。


 扉の向こうから、聞こえてくるのは女の喘ぎ声。しかしこれはまた、随分と乱暴に扱っているようだ。


 ――所詮、地上からさらった人間の奴隷ということか。


 皇帝陛下が、お遊戯に興じているのを邪魔することはない。スティグメ帝国内ナンバー2であるハルも、ナンバー1の皇帝が済ませるまで待つのである。


 とはいえ、待っている間、つまらぬことを考える余裕はある。


 吸血鬼は肉体を重ねない。自身を構成する魔力を重ねる。相手と自分の魔力が混ざり合い、溶け合い一体感を得る。好意を寄せた相手の感情にじかに触れ、重なることは恍惚(こうこつ)の体験である。


 ただ、面白いもので、やはり好意を寄せ合う相手とでなければ、この魔力的、魂的繋がりは気持ちよくない。


 9900年も吸血鬼として生きて、若い頃はそれなりに相手もいたものだが、自分を慰めるために使ったクローン相手を除けば、果たしていつから繋がっていないのか、さっぱり思い出せなかった。


 ――まあ、それは皇帝も同じか。


 ハルは薄ら笑みを浮かべる。


 人間相手に肉体の繋がりを求めるなど、玩具で嗜むのと同じだ。吸血鬼の真の繋がりは、魔力の結びつきなのだから。


 ――自分が人間であった頃の残滓(ざんし)かしら……?


 それともあの頃を思い出そうとしているのか。


 ――長生きはしないものね。


 自嘲するハル長官。やがて、扉の向こうで、バタリとそこそこ大きな音がした。……これはまた、玩具が壊れたか、はたまた終わりにしたか。


 ハルは目を閉じ、魔力を感じる。……本来、皇帝の部屋を探るようなことは、御法度であり、ハル長官以外の者ならば皇帝の逆鱗に触れることになるだろう。


 ――ん……!


 音はしないが、ハルの魔力がピシャリと叩かれた。皇帝陛下が、不躾(ぶしつけ)な覗きをたしなめたのだ。


 ――これは失礼。


 ハル長官は背筋を伸ばすと、扉をノックした。すると、間髪を入れずに扉が勢いよく開いた。


「……待たせたようだね、ハル」


 皇帝陛下――メトレィ・スティグメその人が、寝室のベッドに腰掛けていた。周りには人間の女だったものが生気と魔力を失い絶命している。


 人間であった頃から美形だったが、9900年経とうとも、顔は――多少変わったかもしれない。


 心なしか耳が少し尖っているかしら?――目元にクマのようなものができて、少々陰鬱(いんうつ)さを感じさせる。長生きし過ぎて、気持ちが老け込んだらこんな顔になるのかもしれない。


「どうした? 入ってきたまえ」

「失礼いたしますわ」


 コツコツと靴音を響かせて、ハル長官は入室した。後ろで扉が勝手に閉まる。


 スティグメ皇帝が指を鳴らすと、死体は塵となって消えた。そこで彼はふう、と息をついた。……この一瞬で死体を食べたのだ。


 ――魔力の(しぼ)りカスは、美味しくないのだけれど。


 スティグメ皇帝の味覚センスはわからない、とハルは思うのだ。


「君が直接足を運んでくれたということは、報告かな?」

「はい、とても不愉快なご報告をせねばなりません」

「ああ……なるほど」


 なるほど、と皇帝は繰り返した。無感動な瞳。それで見られると、大抵の吸血鬼たちは震えが止まらなくなるらしい。おそらく魔眼の類いなのだろうが、ハルには効かなかった。


「第二段作戦は失敗いたしました。十二騎士は、ルィーを除いて全滅。世界樹はひとつとして確保できませんでしたわ」

「……それは」


 すぅ、とスティグメ皇帝は息を吸った。


「ひどいな」

「まったくです。不甲斐なさ過ぎます」

「ところで……ルィーとは誰だったかな?」


 ポンポンと、自分のベッドを叩き、ハルを招きながら皇帝は言った。


「眼鏡をかけている人魚モデルです。もちろん足はありますよ」

「それは美しくないのではないか?」


 皇帝は立ち上がる。代わりにハルがベッドに腰掛けた。


「それに、人魚モデルなのに眼鏡とは意味がわからない」


 水に入るのに眼鏡は邪魔ではないか、と皇帝は言った。


「意外性……貴方はそうおっしゃったのですわ」


 ハルはそっと右足を上げた。すると皇帝は膝をつき、ハルの足から靴を脱がした。


「そうだったかな。……まあいい。つまり、他の十二騎士は死んだのだね?」

「はい」

「そうか。新しい十二騎士を作らないといけないね」


 そう言うと、スティグメ皇帝は、ハルの右足を愛おしそうに頬ずりした。


「今度はどうしたものか」

「コピーならすぐ作れます」


 ハルは淡々と言った。皇帝陛下の変わった趣味については、とくに今さら言うことはない。フェチなのだろうが、こういうことをするのは今では自分にだけだと、ハルは知っている。


「コピー……コピーか。でも、一度負けてるんだよね。そんなヤツが使えるのかしら?」


 みるみる皇帝の姿が変わっている。男から女へ。長い銀髪を煌めかした美女に。


 上位の吸血鬼は姿を自在に変えることができる。長く生きれば、性別を変えて楽しむこともある。


「久々に、私が手を加えようかしら」

「地上は如何いたしますか?」


 ハルは長官として問うた。


「地上の軍勢は、地下世界に侵略を開始しました。例のディグラートルの軍勢とジン・アミウールの軍勢が」


 ジンの名前を口にする時、舌の先がざらつくのをハルは感じた。かつての師が9900年後の世界にいるというのも驚きではある。


 皇帝はハルの足から離れると、その隣に座った。


「因縁ね。クルフにはつい最近会ったけれど……あいつの吸血鬼全否定の感情はどこからくるのかしらねぇ」


 スティグメ皇帝は遠い目になる。


「地下が欲しければくれてやるわ。私が欲しいのは、かつてのアポリト帝国と同じく、空高くから地上のゴミどもを支配する天の城。大アポリトの復活」


 天上からの世界支配。人間だった頃、アポリト帝国の頂点の地位を欲していた彼の最終目的は、自らを頂点にした世界の王となることなのだから。

5月14日、英雄魔術師@コミック4巻発売。ご予約などよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 9900年経っても全く進歩していない……。(・・;
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