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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1238話、戦果報告


 真・ディグラートル大帝国、新帝都であるグラン・ディグラートル。


 大皇帝の居城であるアハシュカル城にて、クルフ・ディグラートル大皇帝は、報告を受けていた。


「……第三艦隊は、壊滅したか」

「はっ」


 報告するウース情報局局長が(うやうや)しく頭を下げた。六十代、白く長い髭を蓄えた魔術師風の男である。


「帰還できたのは、クリー卿以下、十数名の魔人機搭乗員のみでございます」

「そうか。クリーは生還したか」


 魔神機バルバルハを操る精鋭騎士の帰還は、ディグラートル大皇帝にとっては不幸中の幸いだった。


「世界樹を狙ったスティグメ帝国艦隊は全滅。イアルホール提督以下、第三艦隊は大皇帝陛下の勅命を果たした末の玉砕にございます……」

「大義」


 ディグラートル大皇帝はそう言った。


「して、世界樹は?」

「は、こちらも転移し、その後の所在は不明にございます。目下、情報局は他の世界樹同様、その行方を捜索しております……」

「見つかるとよいのだがな」


 さして関心がなさそうなディグラートルである。

 彼は世界樹のロスを致命的とは思っていない。その所在についても、いずれ分かればよいと考えていた。


「それよりも、吸血鬼退治のほうだ」


 玉座に座り、局長から世界地図へと視線を転ずる。


 大帝国本国内にあった地下世界の穴は、制圧済みのシンボルがつけられている。また大帝国植民地内――エルフの里に比較的近い南方方面の大穴は、つい先日、戦死したイアルホール中将の第三艦隊が制圧し、地下都市の攻略が始まっていたが……。


「魔法局のモンスターメイカーを投入することで、こちらの都市の制圧も間もなく完了の見込みでございます」


 ウース局長は地図を指示棒で指し示した。


「旧プロヴィア、そしてヴェリラルド王国内の穴は、シーパング同盟が攻略しております。現在それ以外の穴は封鎖されたままであり、吸血鬼どもはおろか、こちらから侵入も不可能となっております」

「では、吸血鬼どもの国を滅ぼすには、制圧した都市から進軍していくしかないということか」

「はい、陛下」


 ふむ――ディグラートル大皇帝が地図を考え深げに(にら)む。


 広大なる地下世界。その都市間は転移魔法陣によって行き来する。戦術としては、モンスターメイカーでドンドン敵都市にモンスターを送ればよい。


 が、問題は吸血鬼どもが転移魔法陣を封鎖し、行き来ができなくなった場合だ。そうなれば、大帝国としては迂回する以外、手がなくなる。


「地上を封鎖している岩盤を破壊し、穴から地下へ降りる手段が必要になるか……」


 転移魔法陣が使えなければ地上から、ということになる。現在、吸血鬼を閉じ込めている(ふた)があることで、敵も転移魔法陣を使う迂回ルート以外、地上へ出られなくなっている。


「連合国側に、二つ穴があったな」

「はい」


 封鎖されている穴の跡地というべきか。ディグラートル大皇帝は相好を崩す。


「では、あの忌々(いまいま)しい連合国を今度こそ、完膚(かんぷ)なきまでに蹂躙(じゅうりん)してくれよう」

「恐れながら陛下!」


 フェク卿が一歩進み出た。


「連合国侵攻はかねてより計画されていました。しかし、かの地への攻撃は、シーパング同盟が介入してまいりましょう」


 旧大帝国でも、東方遠征は、ジン・アミウールの介入でその都度失敗し多くの犠牲を払った。あの英雄魔術師が邪魔をしなければ、当に大陸東方は大帝国の支配下にあっただろう。


「……どうなのか、ウース?」

「はっ。情報局の掴んだところでは、シーパング同盟と連合国は上手くいっていない様子」


 ウース情報局局長は頭を垂れた。


「旧連合に所属していたプロヴィアとクーカペンテが、連合国を離脱しシーパング同盟へと加入致しました」


 かつて9つあった連合国所属国のうち、2つが離れた。


「どうも吸血鬼侵攻の際の、連合国の無策無援ぶりに、ほとほと愛想が尽きた様子。現在、この二国は、連合国ではなくシーパング同盟となっておりますれば、ここに手を出さない限りは、シーパング同盟も本格的な介入の可能性は低いと推察されます」

「逆に、プロヴィアとクーカペンテに手を出せば、シーパング同盟の介入は不可避か」

「そこは大帝国領であります」


 フェク卿が不快感を(にじ)ませた。


「かの地は、我らが大皇帝陛下の土地。早急に取り戻さねば――」

「よい」


 ディグラートル大皇帝は手を振った。


「いまはジン・アミウールも吸血鬼退治に注力しておる。利害が一致している今は、必要以上に関わることはあるまい。が、時がくれば、我が大帝国の名のもとに手に入れる。それだけのことよ」

「ははっ」


 フェク卿は頭を下げた。ディグラートル大皇帝は、軍需大臣へと視線を向けた。


「失われた第三艦隊の補充を含め、戦力の増強を進めよ。シーパングとは本格衝突を当面回避するとはいえ、小競り合いは起きるだろう。さらに逆賊どもの討伐もせねばならぬからな」


 旧大帝国時代より妨害を仕掛けてきた反乱者たち――それがジン・アミウールが裏で手を引いていたのは、ディグラートル大皇帝も知っている。


 そしてその反乱者たちは、旧大帝国の遺物である逆賊どもを取り込もうとしていると聞く。本国の安全を図るためにも、国内は綺麗にしておかなくてはならない。



  ・  ・  ・



 スティグメ帝国地下都市イリニ。こちらに帰還したのは帝国第十二艦隊。


 十二騎士第十二将ルィーは、自身の旗艦『エクシプノス』の司令塔から、母港の様子を見下ろす。


「……帝国十二騎士も、私が最後のひとりか」


 ルィーは眼鏡のブリッジを持ち上げた。


 世界樹確保という第二弾作戦の要の作戦は、(ことごと)頓挫(とんざ)した。


 十二騎士が無能集団ではないというところを見せるべき重要な任務だったにもかかわらず、1本の世界樹も確保できず、あまつさえ、ルィー以外の十二騎士が全滅するという醜態(しゅうたい)をも晒すこととなった。


「私は外れクジを引いただけ……」


 目標の世界樹が化石化し使い物にならなかっただけであり、そうでなければ確保もできていた。これに関して、ルィーには何の責もない。


 が、他がすべて失敗した以上、何らかの形で自分に咎が飛び火する恐れはあった。


「ハル長官と会うのが心苦しい……」


 心臓がギュッと縮む。あの冷酷なるハル長官は、第二弾作戦の失敗をどう評価するだろうか。


 長官だけでない。かの皇帝陛下がお怒りとなれば――ルィーは震えが止まらなかった。


 艦隊は地下都市に隣接するイリニ軍港へ入港を果たした。

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