第1222話、三つ巴?
旧大帝国海軍艦隊18隻に対して、真・大帝国艦隊58隻。戦力差は約3倍。しかも旧軍の艦艇は、損傷艦だらけの満身創痍。
まともにぶつかれば5分ももたないだろう、と、アノルジ元帥は思っている。
果たして、一矢報いることができるだろうか。もはや、勝てるとも思っていないし、生き延びられるとも考えていない。
「敵艦隊、三隊に分離!」
「砲撃戦、よーい!」
シャフ艦長の号令が艦橋に響く中、アノルジは戦術モニターを睨む。
「主力は正面。小型艦で左右から挟み込むか」
6隻の敵主力戦艦は斜めに一列に並び、その前方射線を確保しつつ、アノルジ艦隊に迫っている。
新型と旧型。敵の砲が火を噴けば、こちらはあっという間に轟沈だろう。左右から挟撃しようとしている敵の小型艦が手を出すまでもなく。
『敵砲門、こちらに向きつつあり!』
観測所からの報告。いよいよ、最期の時か。敵戦艦の砲門が輝いた時、アポリト文明時代の旧式戦艦は吹き飛ぶ。
艦橋にいる乗組員たちの表情が強ばる。死を覚悟して戦場に臨んでも、やはり死ぬ寸前は怖いのだ。
アノルジは薄らと笑みを浮かべる。
光。そして爆発。
真・大帝国艦隊から、予想外の光源が瞬いた。
「なにぃっ!?」
青い光と直後に吹き飛ぶ真・大帝国艦艇。
「敵艦隊の後方より、新たな艦隊が出現!」
「観測! 報告急げ!」
アノルジは叫んだ。真・大帝国艦隊に喧嘩を売ったヤツがいる。この土壇場で戦場に乗り込んでくる味方がまだいたのか?
『こちら観測班! 敵艦隊後方に現れた艦艇色は「黒」! 繰り返す、艦艇色は黒!』
黒い艦艇――アノルジの表情に影がさす。
「反乱軍、だと……!」
・ ・ ・
真・大帝国艦隊を襲撃したのは、大帝国解放軍――シェード将軍の第8艦隊だった。
ベル将軍のレーヴァテイン艦隊とシャドウ・フリートを含む大帝国解放軍は、真・大帝国艦隊に牙を剥いたのだ。
臨時旗艦『加賀』は、突撃戦艦の名にふさわしく、多数の40.6センチプラズマカノンを撃ちまくりながら、敵艦隊の斜め後ろから追い上げた。
旗艦に続くは、シャドウ・フリートのステルス戦艦『ブリューナク』と『グングニル』。マギアブラスター主砲を搭載する護衛ステルス戦艦は、一撃で敵戦艦を撃沈できる火力を誇り、『加賀』と共に真・大帝国艦を血祭りに上げていく。
「また、本艦の撃沈スコアを更新ですね」
突撃戦艦『加賀』のシップコア兼艦長の黒百合が言った。
土佐級突撃戦艦の2番艦の加賀は歴戦艦である。先のノイ・アーベント防衛戦での獅子奮迅の活躍はもちろん、エルフの里防衛戦においても、姉妹艦4隻揃い踏みで敵後方からの奇襲を成功させた。
なお、その撤退の最中、姉妹艦『長門』『陸奥』を失ったが、それを葬ったのが今、司令官席に座るシェードであるのは皮肉でもある。
「このまま、一気に敵戦艦を全滅させる!」
シェードは、大破した敵艦を追い抜きつつあるのを横目に言った。
「敵に反撃を許すな! ……ベル将軍のレーヴァテインは?」
「健在です。敵左翼隊に切り込みを開始しました」
超戦艦『レーヴァテイン』は、アンビシオン級フリゲート6隻を引き連れて、敵艦隊に向かっていく。
――この人も基本、突撃畑の人間だったな。
苦笑するシェードである。
圧倒的火力を誇る『レーヴァテイン』が45.7センチプラズマカノンを撃てば、標的とされた敵新型クルーザーがハンマーで砕かれるクルミのように粉々になった。
『敵右翼隊、反転!』
旧・大帝国艦隊に向かっていた敵の駆逐艦部隊が、本隊の危機に引き返してきたのだ。
「潜空隊、襲撃せよ!」
オーシャン級ステルスフリゲート戦隊が、ステルスモードで潜伏していた。
加賀隊に向かってきた敵駆逐艦が、ステルス艦によるステルス兵装、S3式『魚雷』の伏撃を受ける。
ロケットの噴射炎と煙しか見えない姿が、海中を進む魚雷に似ているからと、つけられたステルスミサイルは、真・大帝国軍のファウリー級駆逐艦を奇襲し、その側面装甲をぶち破った。
図ったように、10隻の駆逐艦が同時に被弾、爆発する様は壮観な眺めだった。
シェードは黒百合艦長に視線を向けた。
「旧・大帝国艦隊に通信を入れてくれ。旗艦は、おそらく『ドワン』だろう」
「承知しました。通信士、大帝国の通信コード、わかるな?」
『了解、通信、呼びかけます』
シェイプシフター通信士が応えた。
真・大帝国艦隊は、もはや壊滅しつつあった。
・ ・ ・
化かされているようだった。
戦艦『ドワン』の艦橋で、アノルジ元帥は複雑な表情を浮かべていた。
「まったく、これはどうしてくれようなァ、艦長」
「はっ……」
シャフ艦長は返事に困った。
自分たちを裏切り者として処理しに現れた真・大帝国艦隊。それらが撃沈されていく様は、これまでのことを思えば愉快痛快。もはやこれまでと思った状況での起死回生である。
だが、助けたのが、これまで敵として戦ってきた漆黒の艦隊――反乱軍なのだ。
艦隊将兵の中には、反乱軍との戦いで同期や戦友を失った者も少なくない。何せ反乱軍――シャドウ・フリートは、大帝国本国での戦いの主力だっただけに恨みの感情もまた根深いものがあった。
「おれは散々、こいつらに悩まされてきたんだぞ」
神出鬼没の反乱軍に、後手後手を強いられてきたアノルジである。そんな相手に助けられるなど、反応に困るではないか。
「いや、単にあいつらは敵が同じだから、おれたちを囮にしてただ敵を叩いただけかもしれんな」
味方ではなく、たまたま利用できそうだったから利用しただけ。そうに違いない。
「長官、その……通信が入っております!」
通信士官が報告した。
「どこからだ?」
「大帝国解放軍と名乗っておりますが、おそらく、反乱軍かと……」
「先方から挨拶とは珍しいじゃないか」
アノルジは皮肉った。いや珍しいではなく、初めてではないか?
「それが……マクティーラ・シェードと名乗っております」
「なにっ!?」
これにはさすがのアノルジも面食らった。
英雄魔術師@コミック最新19話は4月11日に、コロナEXで最速配信。どうぞよろしくです。




