第1221話、船乗りは征く
真・ディグラートル大帝国は、大帝国内の再統一を着実に進めていた。
すでにズタズタである植民地は取りあえず後回しとし、本国内の旧体制を破壊しつつ、スティグメ帝国の地下世界に通じるアンノウン・リージョンの攻略にも乗り出していた。
総旗艦『イムパラハト』率いる大帝国第一艦隊は、アンノウン・リージョン上空のスティグメ帝国守備艦隊を粉砕する。
重戦艦コルドアⅡ級、標準型戦艦サヴィル級のプラズマカノン斉射が、スティグメ帝国の無人戦艦であるメギストス級や、ガレオス級クルーザーを火力で押し切る。
スティグメ帝国無人艦隊も三角砲による砲火を放つが、手数で劣勢となり、次々に沈められていく。
「圧倒的だな」
超戦艦の司令艦橋で、ディグラートル大皇帝はほくそ笑む。
アポリト帝国時代の艦艇では、スティグメ帝国艦に対して劣っていたが、今や立場は逆転したのだ。
「アンノウン・リージョン上空の敵掃討完了」
管制士官の報告を受け、大皇帝の傍らに立つフェク卿は手を振り上げた。
「よろしい。キャハ卿に指令! 制圧部隊を投下せよ!」
大帝国艦隊から、ファラガ級空母群が前進する。旗艦『ファラガ』の艦橋で、魔女エラ・キャハはニンマリと笑った。
「ギガントボム、一斉射よぉ! 不浄なる吸血鬼どもを焼却。間髪入れずに、MMB-11、投下ぁ!」
空母群から、大爆裂魔法爆弾が落とされた。深き地下へと通じる穴を落下していく大爆弾は、アンノウン・リージョンの真下を爆裂で吹き飛ばし、地面を耕した。
炎が周囲を焼き払った直後、さらに砲弾型カプセルが地面に突き刺さった。
モンスターメイカーことMMB兵器が発動。そこから飛び出したのは、黒いスライム。
「フフフ、魔力を好んで食べちゃうカーススちゃんよぉ。吸血鬼を食べてらっしゃーい!」
高笑いを響かせるエラ・キャハ。MMB-11から次々に生成されたスライム型兵器カーススはたちまち大集団を形成して、魔力の塊である吸血鬼の地下都市へなだれ込んだ。
魔人機や四脚戦車、吸血鬼兵が押し寄せる黒いスライムの群れを迎撃するも、たちまち飲み込まれていく。形を変えて隙間に入り込んだカーススは、魔人機や兵器を操るパイロットを取り込み、地上の吸血鬼兵を丸呑みにして溶かしていく。
大帝国本国にあるスティグメ帝国地下都市は、対吸血鬼用スライム『カースス』によって制圧。転移陣で撤退できた人員を除きほぼ全滅した。
・ ・ ・
真・大帝国にとって、スティグメ帝国への攻撃を行うと同時に、旧体制の掃除も行われていた。
旧大帝国海軍元帥であるアノルジは、世界樹大空洞の戦いを、かろうじて戦線離脱することで生きながらえた。
しかし、それから聞いた報告の数々は、アノルジをして陰鬱な気分にさせた。
同期の友であったケアルト陸軍元帥が、真・大帝国によって粛清された。
「エアガルに続いて、お前まで逝ったか……」
空軍が海軍に統合される前に存在した空軍元帥であるエアガル。そしてケアルト。まさか自分が最後に残るとは思ってもいなかった。
戦艦『ドワン』のシャフ艦長は唸った。
「貴族派、議会派も関係なく粛清されたようですな。……我ら海軍も帰るべき母港もありません」
「いま何隻ある?」
「18です。はぐれたやつや、議会派の戦艦も混じってますが」
「もうこうなっては、議会派だろうが貴族派だろうが関係ない。新しいヤツとそうでないヤツしかないんだ」
旧・大帝国艦隊とも言うべき艦隊は、生き残りで合流できた艦は、戦艦4、空母2、重巡洋艦4、フリゲート8。しかもその半分が被弾、損傷している。
「次に狙われたら、いよいよ終わりだな」
「如何いたしますか、長官」
「降伏が通用する相手ではない。……そうだったな、艦長?」
「はい。合流した連中いわく、真・大帝国軍は降伏を受け付ないとのことです」
手を挙げた者も容赦なく殺害するのだという。
「そうなると、艦を捨てて逃げるか、艦隊で、本国から逃走するか……しかないな」
アノルジは終始不機嫌だった。
大帝国のために尽くしてきた人生の終わりが、いらないもの扱いで処分とは。まったくもって腹立たしい。大帝国のため、皇帝陛下のために戦い、死んでいった兵たちも浮かばれない。
『こちら見張り指揮所、後方より艦隊、接近! 真・大帝国です!』
「くそっ、お目こぼしもなしか」
アノルジ長官は舌打ちした。
「これはいよいよいかんな」
「反撃しますか?」
シャフ艦長は大真面目だった。アノルジは鼻で笑う。――反撃? いったい何隻の艦隊か知らんが、まともにやって勝てるわけがないだろう。
「損傷艦を戦域より離脱させろ。国外を目指し、その後は各個の判断で行動せよ。帰隊は許さん。故郷に帰るなり、亡命するなり好きに生きよ。なお損傷の自己申告を認める。通信士、以上を各艦に伝達」
「本艦も損傷しておるのですが、離脱するのでありますか?」
「ん? おれの目には新品のように傷ひとつついていないように見えるがな……。損傷しておるかね、艦長?」
「いえ! 本艦は幸運艦ですから、敵の弾は当たったことはありません!」
シャフ艦長は背筋を伸ばした。一瞬、アノルジは罪悪感に囚われる。――またこいつらを道連れにしてしまうなあ。
「……すまんな。おれを臆病者にしないでくれて」
戦艦『ドワン』は反転し、艦首を追撃に現れた真・大帝国艦隊に向けた。
「戦艦6、巡洋艦8、護衛艦多数!」
「残敵掃討ってレベルじゃないぞ!」
アノルジが唸ると、通信士が振り返った。
「長官!」
「何だ?」
「巡洋艦マイムフレーヴより入電。『ワレ、機関故障中につき、全力発揮できず。戦域に留まり、敵艦隊と交戦す』
次々に、機関故障だの不調を知らせる通信が『ドワン』に集中した。気づけば離脱する艦はなく、全艦が反転した。
「長官……!」
「言うな、艦長。聞きたくない」
どいつもこいつも。アノルジは目頭が熱くなる。――お前らはどういう気持ちで引き返してきた? これだから船乗りは……。
故障を理由に逃げろと言ったのに、故障を理由に留まるやつがあるか!
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