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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1220話、エルフの里、転移準備


 エルフの里を移動させる。


 ということで、その準備に掛かる。現在、スティグメ帝国の艦隊が世界樹を手に入れようと迫っているため、これへの対処も必要だ。


「やれやれ、お呼びだからきたぞ、主殿」


 ディーシーコピー、ディーツーを、俺はエルフの里に呼びつけた。


 里の地下構造体の管理をしていたのが、彼女だ。当然、この元浮遊島について、この世界で一番詳しい。


「エルフの里をシーパング島へと移動させる、か。システムを復旧させれば可能だろう。動かす前に確認作業は必要だが」

「ではすぐに始めてくれ。あと、島の浮上後、全体を転移させるから、転移の準備も頼む」

「島ごと転移だと!?」


 さすがのディーツーもビックリする。


「いやまさか、本気か主殿?」

「本気だ。ただ浮上して移動では敵に追跡される恐れがある。それでシーパング島まで敵を案内するわけにはいかない」

「確かに。それはまずいな」


 ディーツーは眉をひそめてみせた。


「しかし、ウィリディス軍で転移させた最大のものは世界樹だろう? 浮遊島全体の転移など――」

「魔法に不可能はない。ベルさんの言葉だ」


 俺はニヤリとする。浮遊島全体をダンジョンテリトリー化し、そこから島全体を転移させる超巨大転移魔法陣を形成する。


莫大(ばくだい)な魔力が必要になるぞ、主殿」

「世界樹の魔力を使え」


 魔力の量については心配無用。


「ダンジョン魔法陣での転移となると、中継点が必要になるが――」

「大帝国の世界樹を転移させた時に配置した潜空艦リレーがある。あれを流用してエルフの里に繋げればいい」


 ダンジョンテリトリー内の魔法陣は、同じダンジョンでなければならない。


 であるからテリトリーを発生させるコアと、それのコピーコアを(つな)いで、長大なテリトリーラインを形成させる。それにより同一ダンジョンという扱いにして遥か彼方から、エルフの里をシーパング島へ転移させるのだ。


 大帝国の世界樹を転移させたのも、シャドウフリートのステルス艦に、コピーコアを積んで中継させて実行したものである。


 ディーツーは不安がる。


「――しかし、この規模の転移魔法陣など前代未聞だ。まだ誰もやったことがない」

「いいね。世界初の試みだ」

「そのうち主殿は、大陸も転移させるとか言い出しかねんな」

「その必要があるか、甚だ疑問だけどね」


 失敗したら、その時は別の手を考えるさ。やったことがないサイズというだけで、考え方、やり方は世界樹を転移させたそれとまったく変わらないから。


 魔力さえ足りれば、大きさは関係ないというのが、この方法を考案した時のお説だからね。


 というわけで、ディーツーとその指揮下にあるシェイプシフター兵により、エルフの里のある浮遊島の浮遊準備が進められた。


 また、転移時のテリトリーライン形成のため、大帝国とシーパング島までに配置したステルス艦群にも移動を命令する。


 距離自体は、大帝国本国より、エルフの里のほうがシーパング島に近いため、中継艦が足りないということはない。配置転換だけで済む。


 こっちのほうは時間の問題として、肝心のエルフたちだが……。


「ジン様」

「ニム、報告してくれ」


 エルダーエルフにして、俺の従者でもあるニムは、心なしか顔が綻んでいた。


「重鎮会議は、カレン女王の里全体のシーパングへの亡命を承認しました」

「反対はなかったか?」

「一部、実現可能か疑問の声も上がりましたが、ジン様の指揮のもと実行されると聞き、それ以上の追及や反論はありませんでした」


 ギルロンドを作った実績が評価されたかな? 古代文明時代のエルフと俺の働きについて知っているのは、エルフでも一握りだが、これまでの里への貢献が信用に繋がったのかもしれない。


「民はどう思うかな……?」

「間もなく、女王がエルフの民に通知いたしますが、おそらく大きな反発はないかと」


 現在、里に吸血鬼帝国の艦隊が迫っていることを知らせたらしい。それから避難すると強調すれば、皆も納得するだろう、とニムは付け加えた。


 そりゃな、危険が迫っているんだ。避難するほうを選択するよな。


 しかも今回のいいところは、民は自分の家や故郷を離れなくていいということだ。この手の避難になると、家に残りたがる者が一定数存在する。家でじっとしていればいいと言うのだから、余計な人員も時間も使わなく済む。


「やはり、こんなことができるのは、ジン様だけです。さすがです」

「ニム、褒めても何もでないぞ」


 しかし、そうなると、里から視認できる距離までスティグメ帝国艦隊を近づけさせたほうが、よりこの避難が必要なものだったと民を納得させられるだろうか?


 女王の判断への反対は、延いては移動した後のシーパングへの態度にも影響するかもしれない。できるだけ皆には納得しての移動にしたいが、人が多い以上、どう頑張っても全員が納得するものは用意できないだろう。


 カレン女王の言う通り、多少の糾弾も承知の上で実行せねばならない時もあるのだ。


「ヘタな小細工はせず、敵はさっさと排除するか」


 とにかく、エルフの里上層部は亡命を承知した。となれば、いよいよエルフ浮遊島の浮上、そして転移は実行されることになったわけだ。


 だが、そこでまたも厄介の種が吹き出す。


 ディアマンテ経由で、俺の元に新たな報告がきた。


「……スティグメ帝国艦隊の増援がアンノウン・リージョンより出現。くそ、大帝国の連中が不甲斐ないから!」


 エルフの里に向かう新たな敵の増援部隊が地上に現れた。どこから現れたか?


 大帝国領内にあるふたつあるアンノウン・リージョンのうち、エルフの里に近い方、大帝国植民地にあったほうからだ。


 大帝国とスティグメ帝国で潰し合いを狙って、放置していたのだが、さすがに連中も世界中の世界樹確保が怪しいってんで、慌てて増援を繰り出したのだろう。


 ちなみに、そこは2回に渡るエルフの里へ吸血鬼艦隊を送り出してきた穴だったりする。……仕事しろよ、大帝国!


 余計な手間を増やしてくれる。これで集結中の2個艦隊と合わせて、結構な敵が向かっているってことになる。……やれやれ。

英雄魔術師@コミック4巻、5月14日発売。ご予約などよろしくお願いいたします。

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