第1218話、疲弊するエルフたち
まずは、エルフの里に向かっていたスティグメ帝国艦隊のひとつを撃滅した。
俺は艦隊にエルフの里への後退を指示した。ラスィアが振り返る。
「少数の魔人機が地上に逃れたようですが、掃討はしないのですか?」
「俺の見立てでは、そいつらはエルフの里ではなく、味方との合流を図っているようだが?」
「はい。移動方向は、むしろ里と正反対ですね」
ラスィアはコンソールに向き直る。
「地形を利用して、こちらから逃走しています」
「掃討に時間を割くと面倒なやつだ。しばらく放っておいて、合流したところを叩いたほうが効率がいいだろう」
俺は、バルムンク艦隊直属の潜空艦戦隊と、ヴァルキュリア機動巡洋艦戦隊にステルス追尾を命じて、それ以外の艦隊を帰還させた。
さてさて、他にエルフの里を目指している敵艦隊のうち、ひとつが10時間、もうひとつが16時間以内に、現空域に到着する。こいつらを個々に叩いてもいいが、集まったところをまとめて吹き飛ばしてもいいな。
考えを巡らせていると、艦橋のエレベーターが開き、エルダーエルフのニムが入ってきた。
「ジン様、いまお時間よろしいでしょうか?」
「何だい?」
「カレン女王が、ジン様との会談を要望されております」
エルフの女王が、俺に?
この状況だ。スティグメ帝国艦隊の攻撃に対してのエルフ側の対応の確認だろうか。
「ちょうど、こっちはひと段落したところだが、その会談というのは、急ぎか?」
これから来る敵への対応もあるから、あまりのんびりもしていられない。1時間程度で終わるなら、休憩がてら問題ないけど。
「今後のことについて、できるだけ早い方がよいかと思います。エルフの方でも問題があるようで……」
ニムは言葉を濁した。淡々と事務的に話すことが多い彼女にしては、ずいぶんと物が挟まったような雰囲気だ。
「わかった。今から問題ないか?」
さすがにちょっと時間をくれ、と言われるだろうが――
「はい、それで問題ありません」
……あっさり、今でオーケーというお返事。何か、嫌な予感がしてきたぞ。
スティグメ帝国が迫っている状況なのは、エルフたちも知っている。俺たちウィリディス軍が提供した新しいエルフの防衛艦隊も本土防衛の任務に就いているのだ。
にも関わらず、ということは……。
・ ・ ・
転移魔法で世界樹にある空中都市ヴィルヤへと飛ぶ。精霊宮を訪れ、カレン女王と面会する。
「女王陛下」
「ジン様、よくおいでくださいました」
俺が一礼する前に、エルフの女王は膝をついた。アポリト文明時代、エルフの解放をしたのが俺ということになっているせいで、今のエルフたちにとっては先祖たちを独立させた神様みたいな扱いになっているのだ。
ひとまず、お互い椅子に座って会談といこう。
「ジン様、此度も我々エルフのために里をお守りいただき、ありがとうございます。里のエルフを代表し、心より御礼申し上げます」
カレン女王は、相も変わらず美しかった。しかし心なしかやつれているように見える。ここ最近の里に降り掛かる外敵の脅威に、さぞ心を痛めているのだろう。
「いつもそのお力にすがり、情けない限りですが、エルフの民たちのことでご相談がございまして」
「……伺いましょう」
このドンパチの最中で、話す内容なのかと少々疑問だが。
「民は、疲れています」
相次ぐ外敵からの侵攻に、とカレン女王は言った。
大帝国、そしてスティグメ帝国。その前は青エルフによる侵略を受けて、里の比較的外周の集落が焼き打ちにあい、多くの死傷者が出た。
元々、古代樹の森にこもり閉鎖的な生活を送ってきたエルフたちだったが、外部からの侵攻には心底うんざりしているという。
「我々は世界樹と共にあります」
女王は目を伏せる。
「しかし、敵はその世界樹を狙って、攻撃を仕掛けてくる。今も、ジン様が敵を払いのけてくださいましたが、まだ攻撃は続くのでありましょう?」
「こちらに向かっている吸血鬼の艦隊が三つ。明日にはうち二つと交戦します」
数日中に、もうひとつの艦隊が来るかもしれない。だが世界に散らばっていた世界樹が、シーパング島へ移動した今、彼らが所在を掴めている世界樹はここエルフの里のもののみ。敵が世界樹の魔力資源を狙い続ける限り、里は常に戦火に見舞われると思ってもいい。
スティグメ帝国はもちろん、真・大帝国もその新鋭艦隊を以て、制圧に来るだろう。
そう毎度毎度狙われては、エルフの民もたまったものではない。
「エルフ内の問題を、ジン様に打ち明けるのも心苦しいのですが、民の意見は割れております」
「と、言いますと?」
「あくまで世界樹を守り心中するか、それとも世界樹を捨てるか……と」
穏やかではないな。これには俺も驚いた。そこまでエルフたちの疲弊しているのか。
厭戦気分が蔓延し、もう戦争は嫌だ、巻き込まれたくないという気持ちが高まっているのだ。
世界樹と共にあると公言するエルフだ。これまでは外敵は断固阻止! 我々は世界樹を守り切るぞ!――で民の心は一致していた。
しかし、古代文明時代の機械兵器がポンポン攻め込んできた影響で、自分たちの武器がまったく通用しない敵を相手に戦意を挫かれてしまった、というところか。
そりゃあ、勝てない戦いをするやつなんていない。せめて一矢報いられるなら、戦ったという誇りを胸にできるだろうが、ただ踏み潰されるだけなんてのは嫌すぎる。やる気が出るはずもなく、世界樹を守ろうという使命も萎えてしまったのだろう。
俺たちで対抗できる機械兵器を提供したが、それでもエルフ単独での防衛に自信がないのが彼らの気力を削いでいるのかもしれない。
確かに、深刻な問題だ。国がどれだけ叫ぼうとも、民にやる気がないのでは、ね。
「もちろん、全ての民が里を逃げたがっているというわけではありません。やはり世界樹は生活に欠かせないものとして、死んでも守ろうと頑張っている者たちもいます」
ただし、このままでは互いによい結果にはならない、と。しかし、すべて丸く収める解決方法など、この世には存在しない。
だが、パッと思いついたのは――
「では、里ごと、ここではない場所へ移動するのはどうでしょうか?」
「里ごと? それは一体……?」
カレン女王は目を見開く。俺は答えた。
「かつての魔法文明時代、この世界樹のある一帯は、アポリト島という空に浮く島の一部でした。つまるところ、エルフの里をその時同様、空に浮かべて移動させてはどうでしょうか?」
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