第1204話、スーパートロヴァオン
何だかややこしいことになったな。
俺は、リーレが乗っているらしい赤い機体と鬼神機の戦いから目を離す。
えーと、緑色の機体には橿原が乗っていて、それで、正体不明の謎の魔人機が現れたと……。
俺たちウィリディス軍やスティグメ帝国の魔人機でないなら、後はディグラートル大帝国ということになるが、あれは今まで見たことがない。大帝国の情報にもなかったから、他の勢力か、あるいは個人で魔人機を再生したのか?
まあいいや。もうじき、サキリスたちも駆けつける。俺は、これ以上、スティグメ帝国の艦隊から増援が送られないように叩こう。
俺は愛機であるトロヴァオンEから、別機体――トロヴァオンに類似したそれを召喚し乗り換えた。
愛機はストレージに収納して、試作機――トロヴァオン・タイプTのコクピットに。
「ハロー、ナビ」
機体制御のコピーコア『ナビ』は、ただちにトロヴァオンTの各部を稼働状態にし、問題なしと画面に表示した。
試作魔法戦闘機、タイプT。
プロジェクト・マジックワンド――魔法の杖計画において、試作された航空機である。
艦艇だろうが、ASだろうが、航空機だろうが、俺にとっては形は違えど、魔法の杖と同じ――と言ったのをディーシーが蒸し返したことが発端になり、こんな大層な名前がつけられた。
実のところ、シードリアクターを搭載したらどうなるか、を突き詰めた兵器開発プランである。
艦艇では『バルムンク』、ASでは『タイラント』。そして航空機では、トロヴァオンをベースにしたタイプT――通称、トロヴァオンT型、もしくはスーパー・トロヴァオンだ。
機体そのものは一見するとトロヴァオンである。外見上の違いと言えば、機首下部に剣のように細い突起があるのと、主翼が三角形で厚みがあり、まるでダガーのような形状をしていることか。
トロヴァオンTは、空へと飛び上がる。フレスベルグ1と戦術リンク。送られてくる敵艦隊の位置。……オーケー、まずはTドライブで転移!
瞬きの間に、スティグメ帝国艦隊の正面に瞬間移動。戦艦5、クルーザー16、護衛艦20、揚陸型輸送艦5が隊列を組んで、俺のほうへ向かってくる。いずれもファーストステップ作戦で遭遇した新型ではない、お馴染みのタイプだ。
「ご挨拶と行こう!」
ツインロッドに魔力充填。先制の魔法攻撃。俺が選んだのは――
「バニシング・レイ!」
トロヴァオンの胴体左右のエンジン、その魔力と空気の取り入れ口は、ツインロッドと呼ばれる魔法放射器へと変わっている。無尽蔵な魔力供給装置であるシードリアクターを積んだことで、外気を取り入れる必要がなくなったためだ。
ツインロッドは、俺の魔法に、シードリアクターの魔力を加えて放たれる。
「拡散、行けっ!」
バニシング・レイ拡散モードが、トロヴァオンTから2発同時に放射された。光のシャワーがスティグメ帝国艦隊を襲い、次々と爆発、四散させていく。
モニター上の光点に次々とバツ印がつく。
「戦艦2轟沈、3隻、中大破か。……やっぱ拡散だと散らばる分、散弾になってしまうな」
ほかクルーザー9隻、護衛艦10、揚陸輸送艦5を撃沈。残っているのは戦艦3、クルーザー7、護衛艦10。
戦艦とクルーザーは被害も大きく、かろうじて生き残った程度。まさに壊滅的大打撃ってやつだな。どれ、トドメを刺しておくか。
機首のプラズマカノンを最大パワー。ツインロッドは、マギアブラスターモード、っと。
俺は操縦桿を倒し、トロヴァオンTを敵艦隊に突っ込ませた。
ツインロッド――マギアブラスター発射。紅蓮の一撃は戦艦の装甲を穿ち、すでにダメージを受けていた敵艦を巨大な火球へと変える。
300メートル超えの巨艦を、わずか15メートルほどの小兵が沈める。巨象を仕留める蜂の一撃。トロヴァオンTからしたら、敵艦など大きいだけのマトだ。
最初の拡散バニシング・レイで、敵戦艦は艦橋などの指揮系統がやられていたのだろう。反撃できずに、3隻とも血祭りに上げられた。
後はクルーザーと護衛艦か。おっとクルーザーよりスカルヘッド戦闘機が出てきた。主翼マイクロミサイルポッド展開、発射!
ダガーのような主翼は、前がクリエイトミサイル発射装置、後ろが小型軽量のマギアスラスターエンジンが仕込まれている。
クリエイトミサイルは魔力でミサイルを生成するものなので、翼の中にミサイルを積む必要がない。魔力さえ流せば、ミサイルを撃ち放題である。
小型空対空ミサイル3連×4がそれぞれの狙った敵機へと飛んでいく。頭蓋骨戦闘機は回避運動。……5機がミサイルの直撃で吹っ飛ぶ。
魔力生成、次弾12発のミサイルを、回避した敵機にプレゼント。その間に胴体下部のウェポンベイ展開。こちらもクリエイト兵器の格納庫になっている。敵護衛艦をロックオン、対艦高速ミサイルを投下。
イール艦上攻撃機が使用する大型対艦ミサイルが、クジラ型艦艇に接近、銛の如く突き刺さり、その艦体を内側から粉砕した。
ナビが後方注意の警告音を発した。ミサイルを逃れた敵機が、トロヴァオンTの背後に回り込もうとしているのだ。
「振り切る!」
ハイブースト! レイヴン偵察機にも搭載されている超高速飛行モード。コクピットの加速補正器が働き、体にかかるGを軽減する。グンと加速したトロヴァオンTに、スカルヘッドは追いつけない。
距離をとってこちらは悠然と反転。向かってくる敵機を正面に捉えて、今度はツインロッドをプラズマカノンモードで拡散で発射。スカルヘッドは弾幕に飛び込むことになり、たちまち爆発した。
「……拡散モードが便利過ぎるな」
スプレッドビームは、適当に連射すれば敵機も一網打尽だわ。
健在な敵艦が反転しつつ、トロヴァオンTへ砲撃してくる。新型艦はともかく、それより前のタイプは対空能力が低いな。
どうせ地上人にろくな航空機がないと見下した結果だろうが、慢心だったな吸血鬼ども。
クリエイト対艦ミサイル、艦艇級に出力強化したプラズマカノンを、残存艦艇に叩き込み撃沈していく。
シードリアクターは、やはり化け物だ。このトロヴァオンTは、実質、ガンファルコンの小型、純粋な戦闘機だ。後から設計した分、Tドライブ、ハイブースト、結界水晶防御、4枚の尾翼にもスラスターを仕込んだウィングスラスターなど、こっちのほうが技術てんこ盛りだけど。
ただ強武器をぶん回す以上、集団運用は注意が必要だな。威力がある分、味方を巻き込まないようにしないと。
今のところ、シードリアクター搭載機は、魔力消失空間での運用を考えている。その環境下だと、どうしてもこちらは数が少なくなるだろうから、単機で多数の敵を圧倒できる性能が望ましい。
その点でいえば、トロヴァオンTは充分な能力を持っていると言える。
「おや……」
モニターの機体ダメージ表示に、警告音。右側ツインロッドに異常か……。さすが試作機、万事うまくはいかないな。
TF-3T・トロヴァオンT:プロジェクト・マジックワンドで試作されたトロヴァオンの改修型。シードリアクターを搭載した究極戦闘機として作られた。E型に引き続き、ワープドライブ、ハイブースト機能、結界水晶防御を採用、主翼や尾翼にマギアスラスターを仕込み、運動性、速力もアップしている。武装にはツインロッドと呼ばれる切り換え装備を搭載。シードリアクターの膨大な魔力供給もあり、バニシング・レイ、マギアブラスター、プラズマカノンを状況に応じて使用することができる。これらも通常、拡散モードの撃ちわけも可能。
全長:15.6メートル
武装:20ミリ機関砲×2 ツインロッド×2 プラズマカノン×2 主翼3連装クリエイトミサイル×4 胴体下ウェポンベイ(クリエイトミサイルランチャー)




