表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1132/1900

第1124話、南方領視察 オリゾー~


 南方領のうち、西方領に面しているオリゾー。その領の境は、広大な草原地帯が広がっている。


 その草原を、ヴェリラルド王国製VT-1改戦車が進む。いかにも戦車というフォルムであるVTー1はギュラギュラと履帯(りたい)で草原の草を踏み荒らす。


 長砲身75ミリ砲を一門備えるそれは、領境に侵入しようとする武装集団に照準をつけると発砲した。


 南方トキトモ領に踏み込もうとする武装集団は断固阻止する。オリゾーの守備隊に配備されたVTー1改は、ウィリディス仕様の改良型だ。


 元のデザインはウィリディス製。しかしヴェリラルド王国が量産できるようにした結果、魔力生成による部品製造を持たない王国の技術力では、若干の性能低下をもたらした。


 VT-1改は、王国工廠製ではなく、オリジナルのウィリディス製部品で作られた。結果、王国の生産車両より性能がよかった。


「視察早々、ドンパチが(おが)めるとはな」


 俺は魔法装甲車のルーフから、戦闘を遠巻きに見ていた。


 守備隊のVTー1改一個小隊――四輌が草原を進んでくる敵歩兵をアウトレンジしている。


 敵の投射武器は弓やクロスボウ。これでは戦車に勝てるはずもない。


 オリゾー県庁舎から来た案内人であるライゼは、俺に言った。


「この領に面しているレナール子爵(ししゃく)領は、ここオリゾーにたびたび侵略してきまして、その都度、戦いが繰り広げられてきました」

「西方侯爵殿はご存じなのかな?」

「はい。しかし、地方領主間の争いですから、リッケン西方侯爵もラーゲン元南方侯爵も特に口出しはしませんでした」

「決闘と因縁、か」


 貴族の喧嘩(けんか)に口出しすることなかれ、というやつか。


 ライゼは眉をひそめる。


「ラーゲン侯爵以下反乱軍に、この領の若い者が兵士に取られ、レナール子爵がこの隙をついてくるかも、と警戒していたのですが……」

「こちらの援軍が到着したと」


 南方領の治安維持のために送り込んだウィリディス地上軍である。ライゼは相好(そうごう)を崩した。


「トキトモ閣下が速やかに軍を派遣してくださったおかげで、敵も容易には侵入できません」


 75ミリ砲の砲声が木霊(こだま)する。着弾で土が跳ね上がり、影響下にあった敵兵の体を肉塊とする。


「元は盗賊とか無法者の侵入を防ごうと思ったんだけどね」


 俺は双眼鏡を覗き込む。……お、敵さん、逃げ出したぞ。


「ここ最近、連続して連中が攻めてきているらしいな?」

「はい。不敬にもトキトモ閣下の土地を奪おうとしているのです」

「馬鹿な連中だ」


 ベルさんがひょっこりルーフに頭を出した。


「数輌の戦車を前に、ろくな対応がとれないクソ雑魚だな。一回追い返されれば、わかりそうなものなのによ」

「レナール子爵とやらが無能なのだろうよ」


 俺がライゼを見れば案内人である彼は苦笑した。


「子爵のことは、前線に立たれない人だと聞いております。おそらく戦車という存在を信じていないのかもしれません」

「こっぴどく遠距離から撃たれているのに、子爵殿は突っ込めと兵士を死地に送り込む」


 ベルさんが鼻をならす。


「ジン、いっそこっちからレナール子爵領を逆占領しちまえよ」

「まあ、売られた喧嘩(けんか)だしな」


 領主が南方侯爵その人に代わったにも関わらず、子爵が相も変わらず攻めてくるとか、とんだ愚か者だ。


「レナール子爵の屋敷を吹っ飛ばすのはいいかもしれんな。……どれ、一筆送りつけてやろう。次に乗り込んできたら、南方侯爵に宣戦布告したものと見なし軍を送る、とな」


俺は装甲車のルーフから車内を見下ろした。


「ラスィア、こちらの報復に備えて、偵察機による航空偵察。それと諜報部にお隣さんへの諜報員の派遣を指示しておいてくれ」

「承知しました」


 ダークエルフのラスィアは、秘書のように俺の指示をメモに記した。装甲車の上に上がったベルさんが言った。


「そのまま領地拡張か?」

「いいや、ベルさん、一撃を与えるだけだ。終わったらさっさと撤退する。下手に進駐したりすれば、周りの貴族たちから何を言われるかわかったものじゃない」


 人の領地には関心がないとアピールしておく。


「それでなくても、ここ最近の王国内の情勢は激変しているからね」

「一人の貴族が治めている領地の広さでいえば、ジンが一番だもんね」


 アーリィーが顔を覗かせた。


「関係ない連中にまで目をつけられたくはないからな。領土欲を持っているなんて思われたら、あることないこと噂されて、陰謀に巻き込まれるかも」


 最悪、罠にはめられて失脚とか追放とかありそう。貴族連中は、敵を貶めるためなら手段を選ばない奴が多いからな。


 幸い、エマン王やジャルジーとは親しいのだが、疑心暗鬼を植えられると、何が起こるのかわからないのが世の中である。


「それにしても、レナールはよくもまあ、同じ国の貴族相手に侵攻とかするよな」


 エマン王のお怒りを買わないのかね。俺の疑問に、アーリィーは苦笑した。


「王は貴族たちに領地の運営を任せているからね。義務を果たせば後は自由なんだ」

「仕事さえやっていれば、何も言われないってか」


 迷惑なことだ、と思う。


「だからって、余所の土地に手を出すとはね」

「因縁かな。貴族ってメンツにこだわるからね」


 アーリィーが言えば、ベルさんも頷いた。


些細(ささい)な口論が、決闘に発展し、領土同士の激突になるパターン。悪口を言った、とか言いがかりもあれば、お前のところの奴がオレの土地に侵入して泥棒したとか、まあ適当な理由をでっちあげて戦ったりするわけだ」

「決闘となると、まず王国からは干渉できないからね」


 アーリィーは肩をすくめた。


「特に貴族たちの領地で起こった喧嘩には、王族は介入すべきではないって習慣があるからね。というか、個人の喧嘩にいちいち介入するのも面倒だし」

「言った言わないどうこうの決闘なんて、そりゃ口出ししたくないわな。お前ら勝手にやってろってのが普通だ」


 ベルさんが悪戯っ子のように舌を出してみせた。


 言いがかりや難癖で戦争は、洒落にもならない。メンツの問題、か。


 よく騎士が侮辱されから決闘だと息巻くが、貴族同士になると戦争までいってしまうこともあるらしい。


「土地じゃなくて、賠償金目当てもあるよね」


 アーリィーは眉をひそめた。


「弱小領主に武力で脅しをかけるんだよ。従えばよし、逆らえば戦争だ!」

「ひどいカツアゲを見た」


 時代も世界も違えど、やっていることは結局のところは一緒というわけだ。空しいねぇ。


「じゃあ、レナール子爵には、たっぷり賠償(ばいしょう)金を請求するとしよう」


 戦車を動かすのも安くはないんだ。

英雄魔術師はのんびり暮らしたい、書籍版、@コミック版発売中!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

小説家になろう 勝手にランキング

『英雄魔術師はのんびり暮らしたい 活躍しすぎて命を狙われたので、やり直します』
 TOブックス様から一、二巻発売!  どうぞよろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ