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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1116/1942

第1108話、バンネン・ルンガー


「さて、どうしたものか」


 バンネン・ルンガー中佐は、戦艦『ラプトル』の艦長席に腰掛けたまま首を傾けた。


 シェード遊撃隊、暫定(ざんてい)旗艦となっている『ラプトル』艦長である。三十代、()えない顔つきの男は、手に最近下賜された魔法銃を持っていた。


 その足元では、フアル城を掌握(しょうあく)した議会派部隊から派遣された監視将校の死体がある。


 シェード遊撃隊指揮官であるシェード将軍が拘束され、部隊は議会派に取り込まれた。


 各艦の艦長以下、乗組員は所属艦にて待機するよう命令が下された。部隊を正式に議会派兵力に組み込むまで大人しくしていろ、というわけである。


 要は、シェード将軍を助けようと反抗されても困るということだ。


 だがルンガーは、やってきた見張りの議会派将校を挨拶の直後に銃殺した。


 これにはクルーたちも驚いた。とぼけた顔をして射殺――そんな兆候もなかったから、度肝(どぎも)を抜かれたのだ。


「あの、艦長?」

「なんだ、副長」

「どうしたものか、というのは、射殺してから言うセリフではないと思いますが……」

「まさか生きているうちに寝返ろうか、などと聞かせるつもりかね、副長」


 ルンガーは艦長席に座ったまま淡々と言った。


「その場合、私が殺されていたよ」

「……」


 反逆の意図があれば逮捕ないし処刑する、というのが派遣された監視役の役目なのだから、ルンガーの発言に嘘も間違いもない。


 副長はためらいがちに聞いた。


「艦長、これからどうしますか?」


 議会派の監視将校を殺したのだ。もう議会派からは『敵』と見なされるだろう。


「どうしようか」


 ルンガーは真顔だった。副長も、聞いていた艦橋クルーも困惑を深める。


「私の立ち位置を説明しておこう。私はルンガー伯爵家に縁がある。このルンガー家は、現在の大帝国では貴族派に所属している」


 ざわっ、と艦橋に緊張が走った。


 軍部、貴族派、議会派の三勢力がしのぎを削る中、いまシェード遊撃隊を掌握(しょうあく)しつつあるのが議会派だ。そしてルンガー艦長は、その議会派に敵対している貴族派なのである。


 それで射殺したのか、と副長は理解した。……納得はしていないが。


「もっとも、私にルンガー家の血は入っていないがね」


 ルンガーは無表情に告げた。


「むしろ、私はあの家が嫌いだ。では軍部につくべきか? しかし軍部は、三大勢力の中で最大戦力を持っているが、スティグメ帝国や例のシーパングに対抗できるとは思えない」


 この人は独り言を言っているのだろうか――副長らは困ってしまう。ルンガーは続けた。


「皇帝の後釜にふさわしい者がいないのだ。では誰が一番かと問われるなら、残念ながら、いま拘束されているシェード将軍しかいない。いっそあの人が皇帝になってくれれば、我々は終戦まで生き残れるのではないか、と思う」


 ルンガーは、手に持つ魔法銃を弄んだ。


「このまま大帝国にすがって死ぬか、あるいは我々が生き延びるために行動すべきか。……君はどう思うね、副長?」

「それは……大帝国を、軍を脱走するということですか?」


 副長の表情が険しくなる。むりもない。脱走、逃亡は重罪であり、銃殺もやむなしである。


「我々は大帝国の軍人です。国のため、皇帝陛下のために忠義を示すのが本分――」

「その皇帝陛下は今、いないのだが?」


 ルンガーはあくまで冷めていた。


「いないものにどう忠義を示せというのだ?」

「……しかし!」


 脱走兵になり追われたくないのだろう。最悪、銃殺も普通とされる重罪だから躊躇(ためら)うのもわからなくはない。


「君はこの状況を楽観しているようだから、尻に火をつけてやった。選択肢はシンプルだ。私に従うか、あるいは私を裏切り者として議会派に突き出し、その議会派と心中するか、だ」


 さあ、あまり時間はないぞ、とルンガーは鼻をならした。監視将校の死亡は、いずれ基地を抑えている議会派部隊に知れる。そうなれば彼らは押し寄せてくる。


 ルンガーは、魔法銃のグリップを副長に突き出し、その手に持たせた。


「決断しろ。これからどうする?」

「……」


 副長はしばし考える。沈黙が艦橋を(おお)い、クルーたちが固唾(かた)を呑んで見守っている。


 やがて、副長は大きくため息をつくと、受け取った魔法銃の銃口をルンガーに向けた。


「艦長。祖国への裏切りを看過することはできません。あなたを、正常な判断力を喪失したと見なし、指揮権を剥奪(はくだつ)。拘束させていただきます」

「議会派と心中を選ぶか」


 ルンガーは嘆息した。心中する相手は間違えたくないものだ、と心の中で呟いた。



  ・  ・  ・



「……というわけで、やってきたのですが」


 議会派部隊に、監視将校を射殺した犯人として突き出されたルンガー中佐は、フアル城の牢へと収監された。


「ずいぶんと広い部屋ですな」

「それは皮肉か、ルンガー艦長」


 シェードが肩をすくめた。複数人を収容できる牢には、シェードとルンガーしかいなかった。


「上級将校では我々だけということですかな? それとも、あなたに忠義を尽くそうとしたのは遊撃隊では私だけだったとか?」

「私は嫌われ者だからね」


 自虐するシェード。だがすぐに表情に険しいものが混ざる。


「セラスが別の場所に囚われている。……心配だ」

「魔神機のパイロットですな」


 シェードの副官であることも、ルンガーも知っている。将軍が彼女と個人的に親しかったというのも。


「将軍、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「あなたは、これからどうされるおつもりですか?」

「どうとは?」


 シェードが首をかしげると、ルンガーは淡々と聞いた。


「このまま議会派に利用されるか、他の行動を取られるのか、です」

「……我々は今、捕虜なのだが?」

「しかし脱出の機会を窺っていらっしゃる」


 ルンガーは表情ひとつ変えずに言った。


「その後どうされるのか、それが知りたくてここに来ました。私は議会派も、貴族派も、今の軍部にも未来はないと考えます。それはあなたも同じではありませんか? あなたの未来の話を聞きたい。これからどうするのか」

「……君は私に何を期待しているのだ?」

「新しい大帝国を」


 ルンガーはきっぱりと告げた。


「もし、次の皇帝を選べるならば、私はあなたがなるべきだと愚考いたします」

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