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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1100話、セラス=アリシャ?


「大帝国の魔神機パイロット!」


 レウは目を丸くした。


「セラスって言うんだ……。アリシャによく似てるって思ったんだけど」


 ちなみに、アリシャの子孫説はない。行方不明判定されるまでに結婚もしていなければ子供を産んでもいない。


「他人の空似かとも思ったが……俺は、セラスはアリシャじゃないかって思ってる」

「どういうこと、父さん?」


 レウは尋ねた。俺は手元の資料から一枚、彼に渡した。


諜報(ちょうほう)部の調査では、このセラスという人物の過去が不明だ。軍歴についても、ここ二年のものしかないんだ。出身は不明、家族構成も不明。二年より前の情報は皆無だった」

「……」

「彼女、二年より前の記憶がないそうだ」

「記憶喪失……?」


 レウは資料を改めて見つめた。さながら記入前の履歴書のごとく、空白項目が多すぎる。


「シェード将軍に保護されて、以後、彼の副官を務めている。優秀な魔術師だそうだ」


 俺は顎に手を当てる。


「そこにきてアリシャと瓜二つの外見。しかも誰でも扱えるわけではない魔神機に適合した……」


 魔神機を動かすには高い魔力と機体に適合する素質が必要だ。故に扱える者は限られているが、アポリト帝国時代に作られた魔法人形となれば話は別だ。


 そもそも魔神機操縦のために人工的に作られた人間というのが、魔法人形なのだから。そしてその成功例として、実際にあの時代のアリシャは魔神機を操縦して見せた。


偶然(ぐうぜん)にしては、出来すぎていると思わないか?」

「でも父さん。アリシャは、戦死したんだよね?」


 新生アポリト帝国の吸血鬼との戦いで。俺は不在だったから、ディーシーから聞いた話ではあるのだが、魔法人形の兄弟姉妹たちの間でも戦死と思われていた。


「正確には未帰還だ。だからこうも考えられる。あの時代から今の時代に跳んだ可能性」

「でもどうやって……あ!」


 レウはそれに気づいた。自分が首から下げているペンダントにした指輪――


「転移の指輪!」

「そうだ」


 俺が、『ピンチになった時に緊急避難できる魔法具』として、子供たちに渡したものだ。戦場で死にそうになったら使うように、と言って渡したもので、実際、レウたちはこれのおかげでこの時代に転移して危機を脱した。


「彼女に渡した指輪がうまく転移できなかったのかもしれない。跳躍(ちょうやく)が中途半端だったか、別の何かが干渉して転移の時間と場所がズレてしまったかもしれない」

「もしかして、記憶がないのもそれが原因?」

「可能性はある」


 なにぶん他に同じ状況になった者が確認されていないからな。魔法人形の子供たちで戦死判定の子が他に二人いるが、もしかしたらその子らも転移場所にズレが出て合流できなかったのかもしれない。


「それで……父さん」


 レウは改まった。


「もし、セラスがアリシャだったとしたら……どうする?」

「……どうしようか」


 俺は頭をかいた。


「おそらくアリシャだと思う。だが彼女は今記憶がない。俺やお前たちのことを覚えていないなら彼女は武器を向けてくるだろう。その時、お前は戦えるか?」

「……」


 戦いたくない、とレウの顔に出ていた。俺だって嫌だ。


「記憶がない以上、こちらの呼びかけに応じるとも思えない。だがこのまま大帝国と戦っていれば、遅かれ早かれ戦うことになる」


 魔神機に乗っている彼女。戦闘は不可避である。


「まあ、無力化させて捕まえること自体はそれほど難しくはない」


 それについては、まったく1ミリも心配していない俺である。


「問題はその後なんだ。記憶のない人間をどう納得させるか、だ」

「記憶を戻す方法はないの?」


 レウがすがるような目を向けてきた。壊すほうはともかく、記憶を戻すのはさすがの俺も手にあまる。


 セラスがアリシャかもしれないとなると、シェード遊撃隊への攻撃も見合わせる。


 何かと俺たちウィリディス軍に出血を与えてきた大帝国の勇将だ。彼を葬るプランとして超長距離からのレールガン攻撃で、駐留(ちゅうりゅう)する軍港ごと吹き飛ばそうとも考えたが、アリシャかもしれない人物がそばにいる以上、無理な話だった。


「そんなわけでレウ。ほかの兄弟たちと相談してくれ。家族も同然のアリシャをどうしたいのか。それによって、今後の彼女に対する行動を決めよう」

「……わかった」


 レウは頷いた。


 兄弟姉妹で話し合って決める。彼、彼女たちがそこでどういう結論を出そうとも、俺は反対はしない。


 ただ……もし、兄弟姉妹たちが彼女を見捨てる決断をした場合は、実に勝手ながら独自に救出プランを実行するとしよう。


 短かったとはいえ、俺はアリシャの父親がわりだったわけでだからね。血の繋がりはなくとも、娘は助けないと、な。



  ・  ・  ・



 シャドウ・フリート旗艦、高速巡洋艦『キアルヴァル』。


 シップコアのエスメラルダは、警戒艦からの通報を受け取った。


「所属不明機?」

『護衛艦「睦月(むつき)」より入電。高速で飛来する物体、およそ三十機――識別、スティグメ帝国軍機!』

「スティグメ帝国!」


 エスメラルダは頬をピクリと動かした。


 想定されていた敵はディグラートル大帝国であり、スティグメ帝国との遭遇は青天の霹靂(へきれき)だった。


「性懲りもなく、大帝国侵攻を企てていたか」


 エスメラルダは専用端末にアクセス。近隣の友軍にスティグメ帝国軍の出現を報告。さらにシャドウ・フリート各艦艇を従属(スレーブ)回路(サーキット)にて、防御陣形を取らせる。


「避難民の収容作業を急げ! 護衛艦隊は、飛来する敵機を迎撃する!」


 Ⅰ型軽空母『セイバー』『トレイター』『ファナティック』の3隻から、TF-4ゴースト戦闘攻撃機とTF-5ストームダガーが発艦する。


 シャドウ・フリート艦隊は亜人難民を乗せた揚陸艇が帰還するのを待ちつつ、離脱地点まで移動を開始した。

英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック2巻、8月16日に発売! どうぞよろしくです。

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