第1050話、古代樹の森攻防戦・二日目
大帝国軍は古代樹の森を進撃していた。
前線のウィリディス歩兵、エルフ遊撃隊による待ち伏せと奇襲は、敵に出血を与えつつも、その進軍を止めるにはいたらない。
何せ、こちらの陸上戦力の数倍を有しているのだから。
「それでも、結構削ったとは思うぞ、主よ」
ディーシーは戦術マップを見下ろして言う。
「元は7倍近くあった戦力差が、5倍程度になった」
「揚陸艦隊で沈めた分も含めると10倍差。それから考えれば、本格衝突前に、よくも減らしたものだ」
俺は腕を組む。
ウィリディス軍の航空艦隊は、数では劣っても大帝国艦隊を圧倒できるだけの質はある。が、こと陸上戦力の数においては、大帝国のそれに遠く及ばない。
こちらは地元エルフ勢を除けば、数個大隊程度なのに、あちらさんは師団で来ている。そりゃ規模は敵わない。
さすが大国の陸軍。その規模は万の軍勢を各地に派遣できるだけはある。
「何と言っても、多いのは歩兵の数だ」
戦いの基本とも言えるのは歩兵だ。騎馬や弓、大砲などがあろうとも、占領、その後の維持に歩兵が絶対に必要だ。
そしてそれを湯水のごとく投入できるのは、ディグラートル大帝国が陸軍大国たる所以である。
「まあ、各方面に配置できると言っても、我々ウィリディス軍以外には、ほぼ敵なしだったわけで、全体から見ると意外と死んでないせいだろう」
ディーシーが苦笑する。俺は首を傾ける。
「二年前の連合国にいた頃には、その陸軍もかなり叩いて減らしたんだけどね」
「その二年で、また数を揃えたんだろう。それだけあれば、まあ回復するさ」
「そりゃそうだ」
しかも連中は、モンスターメーカーやらエルフ量産で、さらに増えるんだよなぁ。……まあ、愚痴ったところで数の差が改善するということもないが。
ディーシーが嘆息した。
「航空攻撃が困難という地形という問題もある。それがなければ、艦隊なり航空機なりで蹴散らせたものを」
隠れる場所が豊富で、待ち伏せなどでエルフ軍が仕掛けやすいものの、古代樹が天井となっているために、空からの爆撃は至難の業だ。的確に大打撃を与えられる場所を狙って撃てないというのが問題である。
「航空機が使えない分は、装甲型ワスプと、AS部隊で対応する。それと――」
戦術マップに示されている敵軍の後方に、味方部隊を回り込ませる。
「転移戦術で、ヒットアンドアウェイだ。せいぜい敵さんに嫌がらせをしてやるとしよう」
・ ・ ・
耳慣れない音は、蜂の化け物だ。
……と言ったかどうかは定かではない。
メインローターの回る音を響かせ、ワスプ汎用ヘリ、その対地攻撃用ガンシップは、そびえ立つ古代樹の森の中でも飛び回ることができる。
とはいえ、いくら木の間隔が広くてヘリでも通行が可能といっても、自由に機動できるほどではなく、その動きもある程度制限される。
しかし高さ数十メートルものジャイアントセコイア並の大木ともなると、その中間辺りの高さでも、地上からは手も足も出なかったりする。
ホバリング機動と、スライドするかのような動きでワスプヘリ――装甲強化型は30ミリガトリングガンを帝国歩兵に叩き込む。
頭上から降り注ぐ銃弾の雨は、帝国歩兵の金属盾や鎧を簡単に穿ち、死体の山を築いていく。
しかし大帝国軍もただ的にはならない。ゴーレムや魔人機で、不慣れな対空戦を展開する。
機動が不自由なワスプにとっては、魔人機の魔法砲が何気に厄介だった。装甲強化型ワスプといえど、当たり所によっては撃墜される。ロケットやミサイルで反撃するが、やはり万全とは言えない。
ある程度の掃射をしつつも、ドゥエル・ヴァッフェなどの魔人機が出たら、後退するワスプ。
前日までの奇襲により、帝国魔人機の数は減ってはいるが、全体でみればまだまだ健在だ。
兵を殺戮したワスプヘリが下がっていくのを、追いかけようとするドゥエル・ヴァッフェ。
だが、そこへウィリディスAS・魔人機部隊が強襲する!
「ハハッ! 今日の敵はより取り見取りだなっ!」
ベルさんのブラックナイトⅢが跳ねるように古代樹の森を駆ける。暗黒騎士と怪物を合わせたような凶暴なフォルムの魔人機型ASが、魔破鋼で作られた専用ブレードでドゥエルタイプ魔人機を両断する。
帝国パイロットは、そのボリューミーな黒い人型兵器に戦く。
『なんだこれは!? ば、化け物かっ!』
戦斧を構えるドゥエル・ヴァッフェだが、ブラックナイトⅢはまばたきの間に肉薄し、鋼鉄の巨人を次々に跳ね飛ばした。
黒騎士の後ろからは、同じく黒塗装のASグラディエーターが続く。
手にした対魔人機用ブレードで、ドゥエル・ヴァッフェ、ドゥエル・ランツェに斬りかかり、バズーカを持った機体は、帝国兵が密集している地点にロケット弾を撃ち込んで、まとめて吹き飛ばす。
脚部のスラスターにより、滑るように地面の上を移動。ベルさんのブラックナイトⅢに随伴して帝国軍に打撃を与える。
「退けよ! 雑魚ども!」
ブラックナイトⅢは両肩のシールドランチャーを放ち、奥から増援として駆けつけようとした敵ゴーレム集団を粉砕する。
「さて、敵さんが集まってきやがったな」
帝国軍の戦線に飛び込んだベルさん率いるAS隊に三方から大帝国軍機が迫った。突出した部隊を包囲して袋叩きにしようという腹だ。
「だが、残念。背中がお留守なんだよなぁ!」
次の瞬間、駆けつける敵魔人機隊の後方に、複数の光が現れ、その中からウィリディス仕様の人型兵器『カリッグ』が出現する。
元は大帝国製のカリッグだが、主力の座を魔人機に譲り渡しており、旧式と見られるが、ウィリディス軍では、その改良型がまだ現役だ。
それらが魔破鋼製の剣や斧で、魔人機の後背を襲いかかれば、包囲しようとしていた帝国軍部隊の逆襲は頓挫してしまう。
「ふふん、きちんとエグイなぁ、ディーシーよ」
ベルさんは不敵に笑う。
突如、出現したカリッグは、ダンジョンテリトリー化したディーシーの手によって送り込まれたものだ。
範囲内であれば、ポータルと違い、あらかじめ設置する必要がないため、その出現ポイントは自由自在だ。ダンジョンコアの機能を利用した転移戦法である。
新手の出現に注意がおろそかになった敵魔人機を、容赦なく狩っていくブラックナイトⅢ。
周囲の帝国軍部隊は、散々に叩かれ、その残存兵が逃走する。とはいえ、これは一時的なものだ。
全体の数は、大帝国の兵力が上だ。再編成するなり、近くの部隊からの逆襲も時間の問題である。
「ようし、ブラックナイト隊、今のうちに撤収だ!」
余力があるからと欲張る必要はない。ベルさんは部隊に集合をかけると、エルフの里のある本陣方向へと離脱した。
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