第1028話、以後の南方領について
南方領の反乱勢力制圧は、順調に進んだ。
各領主町の拠点に対して、ベルさんの遊撃隊やアーリィーの第三艦隊が空から侵入し、俺がやったような威嚇射撃などを駆使して、それぞれ最小限の出血で制圧。
地上に降りたシェイプシフター兵団やパワードスーツ部隊、さらにはアーマードソルジャーが、敵の反抗する気力を奪い、占領はスムーズに運んだ。
一部、降伏に従わなかった騎士や魔術師はいたが、それらも大した被害を与えることなく逮捕、あるいは鎮圧した。末端の兵たちは、ほぼ抵抗しなかった。
拠点を制圧した後は、王都へ進軍しようと集結していた南方貴族軍である。
俺は第二艦隊を率いて、南方貴族軍の上空を覆うと降伏を呼びかけた。彼ら反乱軍の武装では、空の艦隊にはまったく届かない。
一方、こちらは撃ち放題なので、軍勢の周りに向けてプラズマカノンを撃ちまくり、反乱軍の度肝を抜いてやった。
大地がえぐられ、吹き飛んだ土砂を被った兵たちは、恐怖に震え、地面にしゃがみこんだまま動かなくなった。騎士たちも戦意を喪失し、貴族の一族に連なる指揮官がひとり吠えていたが、結局は降伏した。部下が誰も従わなかったからだ。
空で脅し、制圧は地上兵力で。
南方貴族の中には、ノイ・アーベントで調達した作業用パワードスーツを改造した人型兵器が、数機存在したが、ASの一個小隊も出せば、これは敵わぬと抵抗を諦めた。
パワードスーツはASの半分くらいの大きさしかないからなぁ。見た目だけで、大人と子供の体格差だもん。そりゃ戦う気も失せるわ。
昼頃には、主な主要目標の制圧と鎮圧が終わった。あとは南方貴族の一族を根こそぎ捕まえる。
もうこの時点で、ほぼ捕縛していたのだが、数人が別の町などの領主をしていたり、出払っていたりして制圧した場にいなかったのだ。
正直、反乱に関わっていなさそうな者たちではあるが、一族全てと命令されている以上はやらねばならない。
そんなわけで、部隊を派遣して『平和的にお迎え』を行い、そして連行。ここでも一部、配下から抵抗されかけたが、流血沙汰に事を荒立てた者はいなかった。
往生際悪く逃走した者が二人ほど。一応、追跡はさせたが、特に抵抗戦力があるわけでもなく、時間の問題だろう。
結果、俺たちウィリディス軍は、捕らえた南方の主な貴族を夕方には王都に送り届け、エマン王の前に引き出すこととなった。
「三日と聞いていたのだがな……」
「二日かかりました」
俺はしれっとそうエマン王に返した。王は何か言いかけたが、思い直したらしく、言葉を飲み込んだ。
反乱が昨日。そして俺に制圧が命じられたのが同じく昨日。エマン王の中では、昨日はカウントされていなかったのだろう。俺はきっちり夜の数時間といえど、昨日をカウントした。
疾風迅雷。
一カ所に集められたラーゲン侯爵以下、南方貴族とその家族。俺とエマン王、ジャルジーや各侯爵らは、それをモニター越しに見守っている。
南方貴族たちは、家族とお互い状況確認をしているようだ。反乱の失敗や、俺の航空艦隊によって南方貴族の主な拠点は制圧されたことなど。
「さて、彼らの処遇だが……」
エマン王が言えば、東領侯爵であるクレニエール侯が、例によって淡々と告げた。
「陛下への反乱です。首謀者は死刑、そして一族郎党も同様、死刑ないし国外追放が妥当でしょうな」
見せしめ。反乱には、相応の代価を支払ってもらう。
「国がひとつにまとまらねばならない時に、余計なことをした罪は重い」
ジャルジーは怒りの感情が見え隠れしている。
「トキトモ候が早々に火消しをしてくれなければ、この期に大帝国が攻めてきていたやもしれん!」
「まったくですな」
ムカイド北方侯爵が追従し、リッケン西方侯爵も頷いた。
俺の印象では、北方侯爵は基本ジャルジーのイエスマン。西方侯爵は、どちらかと言えば保守的で、あまり積極的に意見を言ったりしない。
エマン王は、俺を見た。
「トキトモ候、貴様の意見は」
「首謀者の極刑は免れませんね」
俺の発言に、ジャルジーとクレニエール候は首肯した。が、続く言葉にはどう反応するかな。
「先ほど、ジャルジー公もおっしゃった通り、大帝国の動きもありますから、事態は早々に終息させる必要があります。一族郎党、その末端までの処罰は控えてもよろしいかと」
場がざわついた。エマン王は先を促したので、俺は続けた。
「全員の首をすげ替えては、場の混乱と、その収拾に手間取るでしょう」
一族郎党ということは、反乱貴族やその家族だけでなく、その臣下や有力関係者全員を指す。いま拘束した南方貴族やその家族のほか、留守を任せられている者たちも処罰の対象となる。
それらを一気に総入れ替えとなると、代わりの貴族ないし代官、騎士が必要になることを意味する。
「しかも今回は、ひとつ二つの領地だけではありません」
十もある領地の、各地に分散しているそれら全員が対象である。それだけの代わりの人を集めるのも難しく、またそこからの領地の掌握にも時間がかかるだろう。
「南方貴族とそれに賛同した主な者たちは処罰するとして、それ以外の者には慈悲を与えましょう」
「それは手ぬるいのでは?」
ジャルジーは硬い表情で言った。
「反乱貴族の身内や、その臣下連中を見逃せば、主君の仇とばかりにさらなる反逆の芽となるぞ」
「左様。その手の輩は正当性など置いて、ただ復讐のみで動くのでたちが悪い」
クレニエール候が、ジャルジーの肩を持てば、ムカイド北方侯爵も非難がましく『そうだ』と口にした。
俺は、同情しているわけでないとわかるように無表情で告げた。
「反乱の身内とされながら、なおも生き残った者は忠誠を示さねば次は我が身と思うもの。いま一度、王国に従う者ならば以前より献身的に働くでしょう」
生に執着する者ならば、ね。
「なに、まったく監視をつけないわけではありません。機会を与えて、なおも逆臣に尽くす者ならば、その時こそ始末してしまえばよろしいのです」
使える者はそのまま利用し、駄目なところは首を切ればいい。それで人員の入れ替えの節約になる。それでも気に入らないというなら、人数が揃ったら全員入れ替えればいいだろう。
「彼らは、誰がこの国の王であるか、いま一度、脳裏に刻んだほうがよい、と私は考えます」
「ふむ、やってみるがよい」
エマン王は宣言するように力強く言った。
「トキトモ候に、南方領を任せる。貴様は本日より南方侯爵に任ずる」
「……はい?」
たぶん、俺、すごく間抜けな顔になっていると思う。
治安維持にウィリディス軍が引き続きあたるのだろうとは思っていた。代わりの統治者がやってくるだろうから、それまで地ならししておけばいいと。
「必要なものは言え。こちらも最大限の支援はする」
エマン王は言い切った。ざわつく侯爵たち。ムカイド北方侯爵はジャルジーの顔色を伺うが、その公爵は。
「まあ、この場合はトキトモ候が最後まで面倒見るのが一番早いだろう」
その言葉に、クレニエール候も「お手並み拝見ですな」と期待の目を向ければ、もはや反対意見など出るはずもなかった。
当人である俺を除けば。いや、まあ、うん……どうしてこうなった。
「英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック」第六話、ニコニコ静画にて公開中!




