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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第100話、水の地下神殿


 場が騒然となった。

 ルイーネ砦の地下四階の祭壇の間。その奥に、隠し扉が開いて通路がぽっかりと開いている。

 俺は、ユナを見た。


「この通路のことは?」

「いえ、初めて見ました。地図にもありませんし」


 あまり驚いているようには見えないユナだが、元々そういう顔である。ベルさんが通路を覗き込む。


「奥に明かりがついてるな……」


 俺も通路を見れば、祭壇の間と同種の魔石灯があるのか、青い光が点々と続いている。


「地図にはない、秘密の通路か」


 行ってみるか、と口にすれば、オリビアが反対した。


「今回は、祭壇の間までの視察が目的だったのでは? この先、地図もないのに行くのは危険ではありませんか?」

「この地下には学校の演習で、生徒たちが来ることになってる」


 俺は首を横に振った。


「確認する必要がないか? もし危険なら、演習地の変更も視野に入れないといけないだろうし……どう思うユナ?」

「確かに。学校側からすれば、生徒を必要以上に危険にさらさないためにも、事前の確認は必要だと思います」

「ジン殿、あなたも、その生徒だと思うのですが……」

「生徒以前に、俺は冒険者だよ」


 とはいえ、アーリィーを連れていくのは考え物か。


「ボクも行くよ、ジン」


 そのアーリィーは強い口調で言った。


「というか、ボクはジンがいないほうが危ないと思うんだ。その、ジンのそばにいるほうがむしろ安全なんじゃないかと思う。……うん、ちょっと情けない話だけど」


 恥ずかしそうに苦笑する王子様。いやいや、君はか弱い女の子、情けなくなんかないさ。


「まあ、ジンがいた方が安全ってのはオイラもそう思うな」


 ベルさんは、トコトコと通路に向かって歩き出した。


「そもそも、まだこの先が危険な場所とは限らないしな。宝物庫の類ならトラップに注意する必要があるが、もし隠れ家的な隠し部屋や何らかの宗教の神殿なら、通る奴にとっても危ないトラップなんて仕掛けないだろうし」

「ある程度進んで、ヤバいところなら引き返す。それでどうだ?」


 俺が言えば、オリビアとユナは頷いた。よし、そうと決まれば。


「ベルさん、先導を頼む」

「あいよ」


 もうすでに先頭を進んでいる黒猫の後に、俺たちは続く。通路はやがて下へと伸びる螺旋状の階段に達した。上はないので、階段に従い、さらに地下へ。光源が青いせいか、壁なども青に染まって見える。

 階段が終わり、おそらく地下五階相当。通路を抜けるとだだっ広いフロアに出た。


「なあ、ベルさん。祭壇の奥の通路って、秘密の抜け道だよな?」

「たぶん、そうだろ」

「普段は閉ざされている。というか、特別なことをしないと開かない。そうだろ?」

「だろうね」

「じゃあなんで――」


 俺はオークスタッフを構えた。


「こんなところにモンスターがいるわけ!?」


 俺たちがいるのはフロアの上部、階段状に下っていく先に、青紫の肌をしたトカゲ顔の亜人――リザードマンの集団がいて、俺たちに向かって突進してきた。手には斧や槍を持ち、明らかに交戦の意思が見て取れる。


「迎撃!」


 俺がライトニング・連射モード(ラピッド・ファイア)を放てば、ユナは蹂躙者の杖を掲げ、エクスプロージョンの魔法を発動。アーリィーはエアバレットを撃った。


 電撃と風の一撃に被弾して、倒れ、階段から落ちるリザードマンの戦士。ユナの爆裂魔法の爆風と熱に吹き飛び、焼かれる者も数体。だが、仲間がやられようとも、後続のリザードマンが押し寄せる。何より、彼らリザードマンは亜人種としては比較的タフだ。ゴブリンなどよりも遙かに丈夫で、たまに魔法の一撃にも耐えることがある。


「危険がないっていいました!?」


 オリビアが盾を構えて前列に立てば、ベルさんは、のん気な調子で返した。


「限らないとは言ったがな、危険がないとは言ってないぜ?」


 それにしても数が多いな。しかし、敵は階段を登っているわけでルートは限定されている。となれば――


「水よ」


 地を下れ――俺の短詠唱で、杖の先から水がほとばしる。階段に沿って水が流れ、リザードマンらはその薄く流れる水を踏み砕きながら、なお登ってくる。


「ジン……?」


 エアバレットを的確に先頭の敵に浴びせながら、俺の行動を問うアーリィー。水の層がリザードマン連中の足元すべてに行き渡ったその時。


「氷牙!」


 バリッ、と水の層が真っ白に凍った。リザードマンらの足元が凍りつき、彼らの足が止まる。いや止められたのだ。


「氷の息吹、命の火を喰らい、氷の檻に閉じ込めよ」


 まともに呪文を唱えたのはいつ以来か。俺の氷魔法によって、リザードマンたちは足だけでなく、さらに身体を氷によって蝕まれていく。足から胴へ、そして頭を氷が飲み込んでいき十数体はいたトカゲ亜人たちを氷漬けにした。


「……終わった、の?」


 アーリィーが言えば、俺は頷く。


「なあ、ベルさん。これはどういうことだと思う?」


 秘密の抜け道しか入ってくることしかできないはずの地下に、リザードマンの集団がいた理由。


「理由その1。この地下のどこかに外から入ることができる穴が開いているとか、別ルートが存在する」


 長年の地殻変動や地震などで穴が開いて、そこから流入した説。


「理由その2。ここがダンジョンコアを有するダンジョンの可能性」

「もっともらしく聞こえるな」


 ダンジョンにも生態系があるが、時にその生態系を無視しているような環境も存在する。そういう時は、大抵コアを有するダンジョンだったりする。


「俺たちが入ってきたから、コアが活動を開始した?」

「ダンジョンコア説をとるなら、その可能性もあるな」


 普段は休眠状態。侵入者があれば、機能を復活させる類の。かつてはダンジョンマスターが存在し、コアを制御していた場合によく見られるパターンだ。


「となると、最深にあるのはお宝かダンジョンコアか?」

「その可能性はあるね。だがなぁ、どうするよ」


 ベルさんは一同に振り返った。


「横穴説ならともかく、ダンジョンコア説を採るなら、これからもっとモンスターが出てくるぜ?」

「それなら――」

「当然、行く!」


 オリビアが言うのを遮り、アーリィーは言った。


「ダンジョンコアのことは、よくわからないけど、ボクたちが戻れば活動を止めるものなの?」

「断定はできないね。止まるかもしれないし、活発に活動を行うかもしれない」


 ベルさんが答えれば、アーリィーは頷いた。


「もし、活動を活発化させるタイプなら、止めないと三日後の演習地は危険なことになると思う。止めるなら今のうちじゃないかな」

「まあ、まだダンジョンコアで確定ってわけじゃないけどな」


 黒猫は俺を見た。ふむ、それを確かめる方法はある。

 俺は革のカバン(ストレージ)からDCロッドを取り出す。アーリィーは一度見たことがあるが、オリビアは初めて見るその魔石の大きな杖に目を丸くする。


「お師匠、その杖……」


 ユナの目元が、かすかに険しくなる。


「もしかして、ダンジョンコア――」

「さて、気のせいじゃないか?」


 意味があるとは思えないが、素っ惚けた俺はDCロッドを床に当てる。


走査(スキャン)開始」

第100話!(実は100話目は昨日の更新分だったり)

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