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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第994話、破滅への足音


 イオンは魔人機パイロット用の戦闘スーツをまとい、魔法銃であるライトニングバレットを持って、改造クルーザー『グラウクス』の艦内を進んでいた。


 ヘルメットを被っているので紫色のショートカットは見えない。艦内を進んでしばらく、遭遇するのは乗員の死体が大半。生存していた者も何人かいたが、手当より先に『魔力消滅装置を』と(うなが)され、イオンは先を急いだ。


「くっ、ここも駄目!」


 魔力消滅装置のもとへ行きたいのに、艦内の通路がひしゃげ、壁となってイオンの行く手を阻む。


 おそらく艦が不時着した影響だろう。何度かバウンドした時に、何かの建造物が刺さったのかもしれない。


 本当なら、とっくに着いているはずなのに、またも迂回しなくてはならなかった。


 取り付く場所を間違えたかもしれない。


 艦首方向から回り込めば、もしかしたら――


 イオンは元来た道を引き返す。体力と足の早さには自信があった。


 両手両足を、機械兵器に埋め込まれる実験のために切り落とされた過去がある。いまはジンからもらったシェイプシフター義手と義足があって自由に使える。しかし、今でも時々自分の手足を奪われる夢も見ることがある。


 思えば、この三年間、よくも生きてこられたと思う。戦うための人形として育てられた自分。同じような兄弟姉妹をアポリト軍から助けて、引き取ったのはジンとディーシーだ。


 実験と苦痛の日々から脱して、人間らしい生活が送れるようになったのもつかの間、結局は戦いに巻き込まれていた。


 だが、イオンは、他の兄弟姉妹同様、それを恨みはしなかった。


 何故なら、ジンにしろディーシーにしろ、戦いを強制しなかった。子供たちは、自ら戦いを選んだのだ。


 自分たちは戦うために作られた。そのために育てられてきたことを活かし、役に立つ場は戦場だったのだ。


 だが、三年の月日は、家族となった兄弟姉妹たちの命を奪っていった。今、残っているのは半分もいない。


 リノン姉、クロウ、ロンが外で戦い、アレティ姉が魔力消滅装置にいる。この戦いを早く終わらせるためにも、急いで魔力消滅装置のもとへたどり着かないといけない。


 と、遠くから魔法銃による銃声が聞こえた。


 生存者? いや武器を使っているということは、艦内に敵がいる!?


 イオンはギュッと唇を引き締めた。


 新生アポリト軍は、かつては闇の勢力と呼ばれた吸血鬼を兵としている。もし噛みつかれたら、吸血鬼に変貌し、敵の駒にされてしまう。


 ゾッとしない最期だと思う。運動神経に自信はあっても、これまでは魔人機パイロットとして戦ってきた。白兵で敵吸血鬼とは戦いたくない、というのが本音だった。


「しかも格納庫じゃん……」


 スタート地点に逆戻りである。しかし進んで別ルートを進まないと、結局は魔力消滅装置に行けないのだ。


 戦闘の音は、格納庫のほうから聞こえた。


 すぅ、と息を吸い、イオンは覚悟を決めた。ライトニングバレットを握りしめ、格納庫へ飛び出す。


 そこには、押し寄せる吸血鬼兵と、それに応戦している黒い戦闘服の兵士たち。艦のクルーかと思ったが違う。


 ――あ、これ、ディーシーママのシェイプシフターたちだ……。


 イオンは、その正体を察した。ディーシーがシェイプシフター兵を寄越してくれたに違いない。それまで感じていた不安が、軽くなるのを感じた。


 だが、安心はできない。


 何故なら、艦に次々と吸血鬼兵が侵入を続けていたからだ。


 これを突破して、さらに魔力消滅装置のもとまで行き着かねばならないのだから。



  ・  ・  ・



 魔力消滅装置にまだ到達できない。


 その報告は、反乱軍パイロットたちの焦燥感を(あお)った。


 敵エリート魔人機『デビル』三体と交戦していた、ゴールティンのレアヴロードは、シールドビットの半分を失い、片腕が脱落していた。


「だがこいつは、魔法が使えるんだ!」


 向かってくる一体にソニックブラストの魔法を叩き込み撃墜した直後、機体に衝撃が走った。


「くそっ――」


 地面に激突するレアヴロード。激震と衝突のショックがシートに座るゴールティンを襲い、その意識を朦朧(もうろう)とさせた。機体のコンディションは危険を示すレッドに染まり、警報が耳障りな音を立てた。


「ここまでか……!」


 追い打ちに迫る『デビル』。しかしその胴を野太いビームが貫き、吹き飛ばした。


 リダラ・グラスカスタム――エルフ隊長のニムが、マギアランチャーで狙撃したのだ。


 だがそのグラス・カスタムにも敵機が肉薄し――エルフパイロットのリダラ・グラス改に体当たりを受けた。


『隊長をやらせん!』


 そのパイロットの最期の言葉が通信機に響いた。敵魔人機とリダラ・グラス改が相撃ちで爆散する。


 友軍の魔人機は、もう数えるほどしか残っていない。改造クルーザーの周りを、リダラ・バーン、リダラ・ドゥブの二機が駆け回り、敵戦車や魔人機を蹴散(けち)らしていくが、いかにも数が足りない。


 魔神機の再生能力で少々の被弾も物ともしないが、パイロットに多大な魔力負担を強いる。ディニ、エリシャとも、いつ魔力が尽きてもおかしくない。


『ロン! ロン! 大丈夫か!?』


 また一機、クルーザーにもたれるように味方魔人機が倒れた。リダラ・ゴルム改――ジンの子供たちの機体だ。


 もはや、風前の灯火だ。


 ゴールティンは行動不能の機体から、外へと出る。


 もはや改造クルーザーを守るのは、絶望的な段階となった。艦内には敵が侵入し、装置を見に行ったイオンもまだ到着できない。


 その間にも護衛の魔人機部隊は全滅――


 近くで爆発が起きた。見れば敵四脚戦車部隊が、複数の爆弾を叩きつけられ四散していた。


 逆ガル翼の航空機が飛びぬける。タロン艦上爆撃機だ。その編隊が地上の敵を掃討しているのだ。


 まだ航空隊は奮戦している。しかし、離脱をかけるタロン艦爆を、敵戦闘機が追いかける。


 所詮、わずかな時間稼ぎ。乾坤一擲(けんこんいってき)の決戦は反乱軍の敗北という形で終わろうとしているのだ。


 その時、大きな光が走った。


 アポリト本島、帝国城上空近く。一瞬、太陽かと思われたその光は、わずかな間に消えた。


 そこに存在していたはずのモノをすべて消して。


「……! 嘘、だろう……?」


 ゴールティンは無意識のうちに膝をついた。


 そこは――そこにいたのは、ジンのタイラントと、圧倒的多数の敵アポリト軍の兵器。 すべてがきれいさっぱり消えている。その意味するところは――


「自爆した、とでも言うのか、ジン……!」


 反乱軍に激震が走った。

残念だったな、トリックだよ……。


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