プロローグ、異世界に召喚されたら、捕まったらしい……
時友 迅。
歳は28。限りなく黒に近い会社と、冷たい世間から現実逃避してゲームにのめり込み過ぎて、気づけば流行の引きこもりになっていた。
それが俺だ。
決して多くない貯金がなくなるのも時間の問題と知りつつ、それからも目を逸らしていたら、とうとう、おっ死んだらしい。
気づいたら、暗闇の中に、一人でいた。
これがいわゆる死後の世界ってやつか? 天国なのか地獄なのか定かじゃないが、真っ暗すぎてわかんね。
神様ー! 出てくるなら今ですよー。それとも夢でも見てるのかねぇ。
――おいおい、小僧。お前はまだくたばっちゃいないぜ?
声がした。男の声だ。
小僧とか言ったか? 何を言っているんだこの人。というか、たぶん見えていないんだなぁ。俺だって声の主が見えてないんだもん。
仮に向こうからは見えているんだとしたら……えっと、俺のことを小僧と言うことは、案外年上なんじゃなかろうか。
そうなると、とりあえず目上の人かもしれないので敬語を。
「あー、えっと俺、死んでないってことでいいんでしょうか?」
――頭大丈夫か、お前? いやまあ、別の世界から飛ばされてきたんだ。記憶の齟齬とかあっても仕方がないな。
ちょっと待って……いま、何て言った?
別の世界?
つまり、異世界なのか、ここは!?
なんてこった。俺は頭を抱えたくなった。なろうですか、異世界ラノベってやつですかこれは――!?
「で、あなたは神様?」
――神様だぁ? いやいや、そんなモンじゃねぇよ。言ってみれば、いまのお前さんと同じ状況ってとこだな。
「同じ状況? あなたも異世界に……?」
――あ? 違う違う、この世界の住人だよ。だが囚われているっていう意味ではご同輩ってわけだ。
「囚われている……?」
――あぁ、このままだとオレとお前は、魔法武器の素材にされちまう。
「素材……?」
――聞こえるか? あの叫び声が……。
叫び声。耳をすましてみる。すると遠くから絶叫とも悲鳴ともつかない声が聞こえた。少なくとも嫌がっている類の。
――じき、ああなる。身体に流れる魔力が、普通より多いって理由で、魔法武器の材料にされちまうんだなぁ……。言ってみれば剣とか杖にされちまうってことだ。
「そりゃ困る!」
――オレだってご免被るね。だからここから抜け出したいわけだが……残念ながらオレひとりの力じゃ無理ときている。むろん、お前もそうだろう?
「ええ、たぶん」
真っ暗で状況がわからないままだが。そういえば、自分の身体も動いているのかさえ、よくわからない。目で見ることができれば……ひょっとして暗いのは目隠しされてるから、とか?
マジかよ……。異世界に行ったらチートとかもらって、無双とかってやつじゃないのか。どうやら悪いほうの異世界に来てしまったみたいだ。昔からクジ運はよくなかったが、こんなところまで貧乏くじかよ……。
「俺はこのままだと死ぬ?」
――そうなるな。
「あぁ、畜生」
――そこでだ、お前にひとつ提案がある。
「……」
――オレはここから出たい。で、ちょっとばかしお前さんの力を貸してくれないだろうか。……なに、タダでとは言わねえよ。代わりに、お前が『魔法』を使えるようにしてやろう。どうだ?
そういえば、さっきから魔法武器がどうとか言っていた。つまり、この世界には魔法が存在するということだな!
とりあえず、現状はとても悪い方向に流れているようだ。このまま視界真っ暗なうちに人生お先真っ暗。魔法武器なんていう望みもしない代物に転生させられちまう。……魔法武器って意識あるのか? コンクリに固められるようなもんだったら嫌だな。固められたことはないけど。
となれば、是非もない。見えないからどんな人かわからないが、誘いに乗って現状から逃れるのが最善ではなかろうか。
「わかった。で、俺はどうすればいい?」
――オレと契約して魔法使いになってくれ。
「詐欺かっ、ちくしょーめ!」
俺は怒鳴った。脳裏によぎったのは、某魔法少女アニメに登場した外道だったのは言うまでもない。
キュ〇べぇ(ド外道)「ボクと契約して魔法少女になってよ」
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