橘綺凱の過去
今日は早めに目が覚めた。家を出るまでの時間つぶしにちょっとした思考ゲームにでも興じてみよう。
俺の人生は憂鬱だった。
限りない憂鬱だった。
やりたいことはない。将来の夢はない。目標はない。得意はない。苦手はない。趣味はない。何はない。何もない。
俺は何のために生まれたのか分からない。俺が生きていることへの意味が見いだせない。生きてるだけでまるもうけ何てのは所詮は綺麗ごとだ。綺麗で、真っ白だ。
真っ黒な俺には似合わない。灰色になるだけ。いつかはまた真っ黒に戻ってしまう。
俺にとっての憂鬱。それは黒だ。漆黒だ。染まらない黒だ。
ならば俺は完全に憂鬱な訳では無いということか。
ならば出かけるとしよう。心の黒を、憂鬱を晴らすために。いつか白になれなくとも。
灰色くらいにはなりたいものだ。そうすれば人生は憂鬱だったなんて戯言は言わなくなるかもな。
暇つぶしにもならないこの思考ゲームは、ならばどう終わらせようか。
否、最初から始まっていなかったのかもしれない。ならば終わりもないだろう。
では、もう少し続けるとしよう。
俺が黒く染まるまでの物語を。
暗黒には至らなかったそのわけを。
時はさかのぼって。俺は小学四年生。
面倒くさがりの俺はほとんど当時のことなんて覚えていないけれども、それでもこれだけは断言できる。“当時俺は同学年のほとんどの生徒のいじめの対象となっていた。”
いじめなかったのは幼稚園からの付き合いがあった三人。それだけだった。
約150人が俺をいじめていた。
内容といえば、実に陰湿だった。
勿論、暴力沙汰は一切なく、俺でさえ、悪乗りに過ぎない只の冗談なのではないかとたびたび思った。むしろそれが真実かもしれない。しかし、それは違うと後に分かった。
小学五年生。
二学期、転校生が来た。北見花音。長身でスポーツタイプで、顔は、覚えていない。
転校後2週間が過ぎた、ある昼休み。
田嶋は江坂涼音と話していた。印象としては口うるさい国語教師を想像してもらえれば、それを少女化するだけだ。(簡単だろう?)
とにかく二人は話していた。音の字が一緒だとかそんな話をしていたのかは知らんが、北見が単刀直入に江坂に聞いた。
「あの人のこと何でみんないじめているの?」
しらん。
そう思った。偶然耳に入った会話(ここ重要、盗聴ではない)に聞き耳立てていないで昼寝でもしよう。
その前に江坂が返答した。
「なんとなく。だってみんなもやってるし、別にいいかなって。」
俺は寝た。さすがに授業中は起きていたけど(寝ていたかもしれない)家に帰ってからも寝た。当時の俺の辞書には同調なんて言葉はあいにく、載っていなかった。
つまり、理解不能だった。それから俺は人間不信となった。
それから少し経って、匿名虐めアンケートが実施された。
先の件でいろいろ吹っ切れたのだろう。アンケート用紙の裏に名前を書いた。
次の日、担任に腕をつかまれ引きずられ一見嫌々連れていかれたのは、無人の教室だった。読者諸兄も重々承知であろうが教師と生徒の垣根を超えたラブストーリーではない。
結果から言うと、質問攻めだった。おかげで思い出したくもないような思い出を再認識する羽目になった。
こんなことになるなら名前なんて書かなきゃよかった。
だが、その後が正に台風のようだった。
数日後、終礼後、俺とその幼馴染二人を除いて全員居残りだった。
次の日は朝からあいさつをされまくった。と言ってもおはようではなく、ごめんなさいだった。どうやら担任が全員に俺に謝るように言ったらしい。(これは後から北見に聞いた話だ。)
その北見はというと、江坂との会話を俺が聞いた後あたりから、なんとなく優しかった。俺のことを案じてのことだとは思うが、ほんのほんの少し優しいだけだったのでなかなか気づけなかった。
さて、謝りラッシュという名の台風が過ぎ去った後はどんな荒れようかと思っていたが、しかし、何もなかった。まるでいじめは最初からなかったように一切いじめは途絶えた。
まあ、なんとなくで蔓延したいじめは結局あっさり終わった。(これでは台風ではなくまるで竜巻だ)過ぎ去ったあとは何も残らなかった。なにも。何もかも。
その後無事卒業し、中学受験に失敗した。
中学は小学校の影響もあって、繰り上りで進級した生徒は、99%小学校の連中だった。
まあ、そのあとは俺に七股疑惑が浮上したり(もちろん嘘である。)、二人の彼女と付き合って(同時には付き合っていない。)別れたり(モテキを逃した畜生!!)したが、その中で徐々に俺の憂鬱に磨きがかかっていったわけだ。(もし俺の中学時代が気になるなら言ってくれれば教えるのもやぶさかではない。)
そんな俺はまたもや受験に失敗し、私立高校に入学したのだった。
以上
どうだった?俺の物語は。つまんなかっただろ?
俺が今語ることのできる物語はここまでだ。
さて、今日は入学式だ。桜は昨日の雨でほとんど散ったが、そんな風景が俺には似合う。
そういえば俺が通うことになる学校は神社神道らしい。パンフレットを1回くらい読んでおくべきだったか。
まあいい。さあ、そろそろ家を出なければな。読者諸兄もそろそろ飽きてきたことだろう。
最後はやはりこの言葉で締めくくるのが最適と言えよう。
いってきます。
・・・・・・読者諸兄って誰のことだ?
今回の主人公は入学式に向かうために登校の準備をしているすこし根暗な少年。今回の物語は些細な虐めを題としました。
この作品は、二回目の投稿の作品です。読んだ後に少しでも同情していただけたなら報われます。次回も短編の予定です。いつになるかは分かりません。
では、そろそろお暇させていただきましょう。次回の作品を楽しみにしている人がいればうれしいな。作者こと、桐谷侑季でした。