bell 3...先生と真実。
「気持ち悪い…よね。」
誰がために鐘は鳴る。
男は女を。
女は男を愛さなければならない。
誰にもはっきりとそう教わったことはないが、誰もがみんな知っている話だ。
だけど…
「真実ってレズらしいよ〜!梨香のこと好きだって噂。梨香可哀相じゃない?」
更衣室のドアに手をかけた時、私の耳に入ってきた。
だから私は早退届をもらいに職員室へ。
澤山先生のもとにこうしているわけだ。
先生は早退届とペンを持って立ち上がった。
「真実、ちょっと中庭でも散歩しよっか。行こ!」
中庭には可愛らしい花たちが一面に咲き誇っている。
先生は柄にもなく花が好きらしく私によく花の話をしてくる。
「なぁ、真実!俺はさ、教師っていう仕事に就いて本当に幸せなの。いつか定年したら俺は花畑のおじさんになりたいと思ってるんだ♪」
「何それ?花畑のおじさんて…はは。輝っち相変わらずおもしろいね、あはは!」
先生と私は中庭にあるベンチに腰掛けた。
「俺は本当にこの仕事が天職だと思ってるからさ♪花もきっと一緒なんだよね。たくさんの花たちはたくさんの生徒であって、一つも同じ花はない。だけどどの花もそれぞれの良さがあって、みんなが綺麗に咲き誇ってる。そんな花を俺は一生懸命大事に育てるんだ♪」
先生は幸せそうに語っていた。
どの花もそれぞれの良さがあって、みんなが綺麗に咲き誇ってる…か。
先生は早退届を太陽に透かしながら話し始めた。
「なぁ…真実!俺がいまこの早退届にサインを書くのは簡単だよ。そしたら真実はすぐに家に帰れる。だけどこれはただの紙だよ?こんな紙切れじゃ真実の抱えてるものは、解決しないんじゃないかな。そう思わない?」
「…嫌いにならない?本当のこと喋っても輝っち、まなのこと嫌いにならない?」
恐る恐る隣に座っている先生を見ると、先生は太陽のような大っきな笑顔で頷いてくれた。
全てを話し終わって、抱えていた重たいものがすーっと軽くなった気がした。
先生は今度は地面に咲く花を見つめながら言った。
「愛することに正解なんてないから…真実は真実のままで良いんだよ。梨香は気持ち悪いなんて思わないと思うけどなぁ。だって真実は梨香のことを一人の人間として、好きになって一緒に居て楽しいと思って愛おしいと思ったんでしょ?それってむしろすごくすごく素敵なことだと俺は思うよ!」
その時、風が吹いてたくさんの花たちが揺れた。
「真実は真実だろ。名前に負けるなよ〜!真実って書いて真実。真実はいつも真実の中にあるんだよ。お前は間違ってなんてないし、気持ち悪くもない。可愛くて真っ直ぐで素敵な女の子だ。これからもっともっと素敵になる!だって俺の生徒だもん♪」
真実はいつも私の中にある。
一つとして同じ花はない。
どの花たちもそれぞれに、綺麗に咲き誇っているのだから。
私は先生の手から早退届を取り上げてぐちゃぐちゃにまるめた。
「まな…ただの紙切れに逃げるのはやめる!梨香には今までどおり、私らしく接する。周りに何言われてももう気にしないよ。私は私らしく咲き誇るね!」
私がそう言うと先生は私の髪の毛をぐちゃぐちゃにして笑った。
「そのいきだ〜!真実えらいぞ〜よしよし。あれだな。真実にとって梨香が太陽で花壇が学校。」
「何それ〜?あはは!」
「じゃあ俺は水にでもなろうかな。太陽と土だけじゃ花は育たないからさ!土が乾いたり太陽が熱すぎたりしたら、ちゃんと水をあげるから。お前は俺が絶対枯らさない。真実ならきっと綺麗に咲き誇るよ!」
「…うん!」
澤山輝基。
真実はいつも私の中にあることを教えてくれた、花が大好きで仕方ない副担任。
先生という名の水のおかげで、私は今日もこうして自分だけの真実を信じ咲き誇って生きていられるのだ。