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bell 2...先生と明依。

「待ってよ!ねぇ慎吾…!」







誰がために鐘は鳴る。






育った環境のせいか、この汚い血のせいか。

私の恋愛はいつもこうなのだ。




端から見ればそこそこお金持ちの家に暮らす幸せなお嬢様。

部長のパパとピアノ教室を経営するママ。

誰も居ない部屋は、絵に描いたように美しい。

大きなテレビに真っ白なソファー、綺麗なテーブルの上には花瓶に入った一輪の、枯れ果てた花。




必死に作り上げた幸せ家族。

私は、その犠牲者だ。

私の話し相手はいつも小さなくまのぬいぐるみだった。

愛される幸せを私は知らない。






私は物理が嫌い。

だから火曜日の3限目は、いつも屋上へ続くこの階段でさぼりの時間だ。




ここは静かで…






良かった。今までは。




いつものように階段に座りぼーっとしていると足音が近づいてくる。

先生だ。




カルピスソーダを私に差し出した。

「ほら!飲め飲め〜。差し入れだこのさぼり魔めー!」




私の名前は明依(めい)

だけど先生は"さぼり魔めー"と呼ぶ。




「うわっ!何?!最悪…」

カルピスソーダのふたを空けた瞬間、シュワっと吹き出した。




「ははは!引っかかってやんの〜!あはは…っ」




こいつは本当に教師か?とたまに本気で問いたくなる。

私はハンカチを探した。だけど3秒もしないうちにそれは教室だと気付く。




「はいよ!ハンカチ。ベタベタだね。」




先生の手からハンカチを奪い取り手を拭いた。

「誰のせいだよ。先生のバカ!だいたい何で教師なのに怒らないわけ?一緒にサボってどうすんの。」




先生は笑いながら私の横に勝手に腰をおろす。

「俺も物理苦手だったし。それに…失恋した時は授業なんて気分じゃないよな。だから怒らない。」




先生には、お見通しのようだ。




「…じゃ、4限の先生の英語もサボろ。」




「それはダメ。許さない!」




先生は笑いながらカルピスソーダを飲んでいた。

良い歳してカルピスソーダって…本当に大人か?




いつも先生は物理が終わるまでの間、私の失恋話を聞いてくれるのだ。

先生いわく、失恋は甘酸っぱいらしく、だから失恋話にカルピスソーダは欠かせないらしい。






「…慎吾とも結局ダメになっちゃった。は〜ぁ…私って何なんだろう本当。」




私のことを心から愛してくれる人なんて、きっと一人も居ない。




「明依…まだぬいぐるみのくまさんとお話してるの?」

先生は私の顔を覗き込みながら心配そうに尋ねた。




私は先生の二の腕ら辺を思いっ切りつねってやった。

「も〜!そんなわけないじゃん。何急に!あたしもう高2だけど。」







先生は笑ってごめんと言いながら二の腕をさすっていた。

「あはは…っ、でもさ本当に。明依はきっとくまさんを探してるんだよ。いつも一緒に居て自分の側を離れない優しいぬいぐるみのくまさん。」




優しいぬいぐるみのくまさん。




私が黙って下を向いていると、先生は私の前髪を撫でてくれた。

「まぁ…いつか明依にぴったりの相手が現れるよ。でも明依がいつまでもその相手にくまさんを求めてたらダメだ。それじゃ何も変わらない。相手はぬいぐるみじゃなくて、人間なんだから。分かるか?」




声も出せずに頷いた。




「明依は愛されてない子なんかじゃない。明依はみーんなにちゃーんと愛されてるからね。もうくまさんは必要ない。俺が居るじゃん!だからもう寂しくないよ。」




先生はもう一度私の髪を撫でてくれた。

いいこ、いいこ。

だから私は泣きながら笑った。







澤山輝基。

私に愛される幸せを教えてくれる副担任。






先生が居るから、私はあの広く虚しい家の中でもこうして今日も生きていられるのだ。

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