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bell 1...先生と小百美。

小百美(さゆみ)さんが学校に来ていないのですが…」






誰がために鐘は鳴る。






ある日家に帰るとママがいなくなっていた。

荷物ごとだ。

何もなくなった無の部屋には、ママがいつもつけていたディオールの香水の匂いだけが哀しく漂っていた。




あれから半年がたった。

家のドアを開けるとほぼ同時に大きな声と新聞が飛んできた。

「いい加減にしてよ!迷惑かけない約束でしょ!だから嫌だったのよ他人の子家に入れるなんて…!」




私は冷めた瞳の中にその人を映す。

その瞳に映ったその人は、敵意剥き出しの瞳で私を見ている。




「だいたい姉弟だかなんだか知らないけどどうして家であんたなんか面倒みなきゃいけないわけ?本当に嫌になる。」

そういうとおばさんはリビングへとずかずかと戻って行った。

いつものことだ。

言いたいことを言い終わって気が済めばあの人は私の瞳の中から消える。




リビングを通り抜けた先に私の部屋がある。

私がソファーに座ったおばさんの横を通り過ぎるとき、おばさんはテレビ画面に向かって言葉をはいた。

「学校から連絡あった。行きたくないなら辞めなさいよ。その方が無駄金払わなくて済むんだから…」




私は何も答えずに自分の部屋に入った。

私の部屋はディオールの香水に包まれている。






プルル〜♪




鞄から携帯を取り出し画面を開くと副担任の澤山からだった。

10回目のコールも優に越えた。

しつこい副担任だ。




「…てかしつこい。」




「ごめん…って!お互い様だろ!なぁ、たまには学校来いよー。おーい聞いてんの?小百美さーん。」




そのあと澤山はいつものようにその日学校であったことを1から10まで熱く語り出した。

私は制服から私服へ着替えながら適当に澤山の話に相づちを打っていた。




「ていうか…俺のこと嫌い?」




「うん。」




「何で?」




「…担任じゃないし。」




完全に着替え終わり出掛ける準備は万端になった。

電話の向こうで澤山のごちゃごちゃとした声が聞こえてくる。




「そういう問題?はは、って…あれ?小百聞いてる?もしもーし」




「さっきからずーっと聞いてる。あたしこれから出掛けるからもう切るよ!」




「出掛けるって…行くあてあるの?やっぱり家居づらい?だったら…」






18時45分。

ガチャンというドアの音が鳴る。

いつもどおりを裏切らない瑛人(えいと)君のおかえりだ。




私はため息をつきながら澤山との会話を続けた。

「もう…瑛人帰って来ちゃったじゃん!また面倒くさいことになる。先生のせいだからね!もう切る。」




ママの弟夫婦には中学三年生の瑛人がいる。

私と年の近い瑛人とはそれなりに仲は良い。

だけどきっと、それすらおばさんからすると気に入らないのだ。




よくおばさんは私に言う。

「男と逃げた女の血が混じった子がいたら、うちの大事な息子に悪影響なのよ」




だから私はこの家の人間とは口を聞かない。

目だって合わさないし、呼吸だって合わさないようにしている。

話すといったらごくたまに、おばさんの居ない時におじさんや瑛人と会話をするくらいだ。




──ガチャ。




何食わぬ顔でリビングを通り抜けた私におばさんも何食わぬ顔でこう言った。

「香水臭い。私その匂い嫌いなのよね。下品な匂い!あーやだやだ!」







こんな場所、本当の居場所じゃない。




家を出た私は澤山の言ったとおり、行く場所なんてどこにもあるはずがなかった。

私はあてもなくただ、煌めいた街を歩き続けていた。




プルル〜♪




「もしもし。」




「お♪今度は出るの早い!もしやそうとう暇だった?」




「別に!どーせ1回でとったって10回でとったって、出るまで鳴らすんでしょ?」




「まぁね!でね♪さっきの話の続きだけど授業でさ…」




「またその話〜?それで?うん…あはは!何それ〜?」







澤山輝基(さわやまてるき)

今日もこうして私の電話を鳴らす副担任。






彼からのメロディーが鳴るから、私は今日もこうしてかろうじて生きていられるのだ。

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