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神々と混沌の魔法使い

作者: 頑張郎

ギリシャ、ここに新たな与神戦争の幕が上がる、ギリシャの首都アテネそこに黒髪の黒服の青年が歩いている。歳は18才前後だろう。街中を歩いていると青年の懐の携帯が鳴る。

「よう、紺英(コンエイ)そっちにはもう着いたか?」

黒髪の青年、黒羅紺英は眠そうに欠伸を、交えながら

「ああ、さっき着いた。」

と、答えを返した。

「そりゃ、良かった。飛行機が撃墜されなくて良かったよ♪」

この時点で、既に話の内容がおかしい。

「今の自分には核ミサイルさえ効かないの知ってるくせに」

「だとしても、心配ぐらいするさ、なにせ今一番の世界最強なのは君なんだから!」

紺英は友人の話を聞きながら、ホテルのロビーで部屋の鍵を貰い305号室へ、向かっていた。

「何を言うかと思えば、そんなことないだろ。自分以外にも強い魔法使いはいっぱいいるだろ?」

紺英は友人の窓坂降時(マドサカコウジ)にそう言った。そして自分の意見を言う。

「例えば、お前だって十分最強の分類だろ。なにせ時間をある程度操れる上に神降ろしさえできるんだから。更に前与神戦争の覇者でもある。」

すると、携帯の向こう側の友人は苦笑した。

「確かに、神降ろしはできるし、時も操れるけど、君にはとても及ばないよ。」

紺英はその言葉に僅かな苛立ちを覚えた。自分の力が借り物である以上それを自分の物に出来てないのに話が既に手に入れたときの話になっている。

与神戦争とは、神々が自ら見いだした、最強の魔法使い達を戦わせ勝利者の願いを叶える、

というものだ。これはありとあらゆる願いが叶うだけでなく、神々が見いだした魔法使い達に魔法を遥かに超越した力を与える、ということもある。しかもその力は自分が死ぬまで自分の物なのだ。故に例え勝利者になることができずとも、参加するには十分だ。しかし、前与神戦争の覇者である窓坂をもってしても紺英には指一本触れることができない。

「なにせ、君はありとあらゆる神殺しの武器を持っていて、更に参加者は君に指一本触れられないだろ?」

それを聞いた紺英はうんざりだと、ばかりに天井を仰いだ。しかし、事実だけに否定することも出来ず参っていた。

与神戦争は神々に力を与えられて初めて参加を許される。しかし、紺英は、唯一例外であり番外なのだ。

彼が選ばれたのは神々ではなく、「混沌」に選ばれたのだ。それは、言うなればこの世のありとあらゆる物の「原型」だ。「混沌」は、武器であり、人であり、文明であり、様々なものに姿を変える。しかし、いつしか「混沌」にも意志が生じ始めた。それにより紺英は選ばれたのだ。

「はぁ、なんであれあいつの願いを叶えてやるさ、自分はさっさと終わらせて穏やかな生活に戻ろう。」

はんば逃避ぎみにそう言って、紺英は携帯に切るよう言って、携帯を切った。

なんであれ、与神戦争には自由に参加できる上に無双出来るのだからそれで良しにしよう、と決めた。

今夜から、与神戦争が始まるのだから。

それまでは、風呂に入り時差ボケもあるので寝ようと決めた。

目が覚めると時計は8時を指していた。

むくりと、起き上がり外に出る準備を始める。

与神戦争は基本的に昼は行われない。一般人に被害がでるから。

三階の窓からでも十分町の様子を観察することはできる。

丁度、窓と紺英が見ている鏡は向かい合うようになっているので嫌でも見えた。

「ああ、あんまりじゃないか、友よ」

鏡のすみに戦闘機がこちらに飛んで来るのが見える。ミサイルも飛んで来るのが見える。

瞬間、部屋の中が真昼のようになった。当然、紺英も重力の法則に従いホテルの真下に落下する。

紺英は空中で体をひねり、着地した。しかし、上から落下物が降ってくるので嫌でも自分の上の状態が良くわかる。

ダッシュで逃げるが後ろから戦闘機が機銃掃射して追いかけてくる。

「降ぉぉぉぉぉぉぉ時ぃぃぃぃぃぃ!!てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!ブッ殺ぉぉぉぉぉぉぉぉす!!!」

大絶叫である。しかし、このままやられっぱなしではない。紺英は戦闘機を怒りを込めた瞳で見るとおもむろに「混沌」の力で自分の腕力を上げまくる。何でもありの「混沌」の力でこそ出来る芸当だ。

戦闘機からミサイルが発射される。しかし、そのミサイルが紺英に届くことはなかった。

限界まで腕力を強化された紺英は発車されたミサイルをキャッチしそれをクルッっと一回転し、戦闘機に投げ返したのだ!

爆発音が辺り一面に響き渡る。

その爆風を背に受け紺英は携帯に指を、画面をタッチする。降時だった。

「はぁ!?ギリシャ国防大臣の息子が参戦してるだと!?」

降時は、かなり申し訳なさそうに紺英に詫びている。

「ごめん!こっちもさっき知ったばかりだったんだ!」

しかし、紺英には開口一番言い訳を言われただけにしか聞こえない。

「ふざけんな!てめぇ日本で、情報戦は任せて、てへ♪、とか、言ってたじゃねぇか!」

降時は携帯からの声に肩をすくませ、耳から携帯を少しはなした。

「けど、てへ♪なんて言ってないよ!」

「うっせぇ!言ってようが言っていまいがそんなことはどうでも良い!てめぇ日本に帰ったらどうなるかわかってんだろうな!?」

降時は、それを聞いた瞬間絶句した。

「そんな!御願いです!あ、あれだけは!や、やめて!」

「うっせぇ!覚悟しとけよ!」

携帯を耳から離しても、諦めきれず、「お願い!やめて!」と、聞こえてくるが、一切を無視して電源を切る。

携帯をポケットに突っ込む。取り敢えず、空腹なので何かしら腹に

入れなければと、レストランでも入ろうかと思い店を探すが、

そうは問屋が卸さないと、ばかりに新たな参加者が紺英の前に現れる。

与神戦争の参加者の人数はその時々によって変わるので、一回も参加しないものや参加するものもいる。少なくとも、今回は紺英含め三人はいるようだ。

そんなことを考えていると、参加者は名乗り出ている。今、目の前にいるのは、

ロシア系の顔立ちで金髪の髪がゴージャスな巻き毛だ。

「私の名前は、アデライーダ!さっきの戦い、見せていただいたわ!その力は、混沌の魔術師、黒羅紺英ね!御相手願うわ!貴方を倒したらなら私の名前もグッと上がるわ!」

指名された紺英は暫く何かを考えていたが、自らの疑問をアデライーダに聞いた。

「あー、すまん、アデライーダって五人位知ってるんだが会ったことあったっけ?」

それを聞いたアデライーダは顔を真っ赤にしている。怒ってるようだ。

「な、何ですって!そんなありがちな顔って言う気!?」

紺英の心情的には、(やベー、三人目のアデライーダに似てるんだよなぁ、イヤ五人目か?)と言ったところだ。

「ちょっと!聞いているの!?」

かなりご立腹のようだ。

「ああ、ごめん、全く聞いてなかった。後、自分的にはよくある顔だわ」

それを聞いたアデライーダは目を剥いて、自らの得物である槍を頭上で振り回し始める。

「そう、そこまで聞けばもう用はありません。ダスヴィダーニャ」

そうロシア語で別れを告げた。

その瞬間眼下のアデライーダの姿が霞む。目の前に手を何気なく出せば触れるくらいにまで迫っている。

「ッ!?」

紺英は頭上から迫る槍を受けきろうとするがそこで槍が消えた。

頭上に両腕を交差させ受けてようとしていた紺英は完全に不意を突かれた形になった。

槍はどういうわけか肩幅ぐらいに開いた足の間にあり、このままだと真っ二つにされかねない。

紺英は宙返りをすることで、何とか空中に避けるが、そこに槍の突きがもう、そこまで迫っている。

さすがにこれは避けれない。普通の魔法使いならそこでチェックメイトだっただろう。しかし、「混沌」の力とそれを手にいれるまでの体術を併用することにより、紺英はその槍の先っぽに前に靴のかかとで押し出してもらう形でかわし、距離を取った。

しかし、どう考えても槍の間合いではないのにいまだに槍の攻撃は続いている。

「なーるほどねぇ」

納得がいったのか紺英はおもむろに迫る槍を右手に顕現させたナイフで受け止める。

すると、その槍はまるでナイフにくっついたかのように離れなくなった

アデライーダはすぐに槍を引こうとするが手応えがまるでない。

唖然とするアデライーダ。しかし、紺英は思った通りだという顔をしている。

「成る程、これが間合いの外から攻撃出来る槍のからくりか。」

と、言った。

アデライーダの持っている槍は途中から消えており、空間を波打たたせている。そこから

紺英のいるところまで、槍が空間を波打たたせて、現れている。

「くっ、なぜ槍が?」

アデライーダは槍を懸命に引こうとするが全く動かない。

「よした方がいいぞー、なにせこのナイフの間合いにあるものの時間は止まるから。」

流石にアデライーダは絶句した。

「そ、そんなことあるわけないでしょ!?だとしたら、貴方一体どれくらいの代償を払って!?」

よく魔法使いは魔法を使うのにその魔法の規模によって消費する魔力が変わると言われるが、それは間違いである。魔法を使った結果としての代償が魔力と言うだけであり、魔法によって支払う物は様々だ。時に大規模魔法を使う際には、魔力ではなく、代わりとなるもの、人の命や生け贄を使うこともある。

魔法は使う時間が長ければ長いほど払う代償は大きくなる。時を止める程の魔法を平然と

行使し続けるには、超人的な魔力量か、それに匹敵する何かを用意しなければならない。

「イヤ、特にこれと言ったものも使ってないし、その代わりになるものもないよ」

そうナイフで槍を受け止めながら平然と言ってのける。

「なにせ、そういう魔法を使っているわけだから、こんぐらいできなきゃ与えてくれた神様に悪いよ。」

神々が人に干渉することによってなんの意味があるのか?

この命題は、今もなお魔法使い達の間で疑問視されている。しかし紺英は神々が恐れを抱くようになったからではないかと、思っている。

かつて、神々が栄えると言うことは、人々が栄えることだった。縄文時代から人々はあちこちに国や村を作り、自らの神々を奉った。

邪馬台国がその良い例だろう、あの国が神のように崇めたのが卑弥呼だと言うことは皆が知るところだろう。卑弥呼は鬼道と呼ばれる魔術を使っていたと言う。

それは一般人からしてみればきっと神様に見えてもおかしくはない。鬼道は宗教だと言う説もあるがどっちでも同じだと紺英は考える。

何であれ神と人は共存関係にあった。人に害が及べば守り、人々はそれに感謝してお供えをするといった風にだ。

しかし、時代は移り変わり神など今は余り信じられていない。

そうすると、神々は消え去るだろう。共存関係にあったが今は、神などはお荷物に他ならない。

故に神々は、人々の願いを叶えるという方法によって共存関係に改めてなろうとしているのではないだろうか?

これが紺英の持つ考えだ。

「で、どうするのアデライーダ?」

既に終わっているのでは?と、暗に含ませている。

この状態は、両者にとって余り好ましくない。他の参加者が何らかの方法で二人を監視しているのなら、両者を同時に消すことが出来るのだから。

しかし、当の本人は全く引く気が無いらしい。口元を不敵につり上げ、そんなの欠片も恐れぬとばかりに

「天下の混沌の魔術師さんも案外簡単に打つ手が無くなるんですね。この程度ならあっさり終わらせられますね。」

と、かなり余裕だ。紺英自身としてはその中二病染みた名前は何とかならんのかと思っているが、かなりの勢いで広がっているようだ。

「ああ、手遅れだった」

嘆くように槍を受け止めたまま後ろを向くと小さな人影がビクリッと震えた。

「そこの5才児さっさと出てこい、さっきからモロバレだから。」

すると、建物の影に隠れていた5才児(紺英命名)が憤慨した様子で紺英とアデライーダの前に歩いてきた。

「ぼ、僕は5才児じゃありません!こんなんでも15才です!」

結局この自己紹介は最もやってはならないパターンだった。なぜなら

「なんだ、結局5才児じゃないか」

と、鼻で笑われてしまったからだ。言われた当人はこの世の終わりとばかりに絶望した顔をしていた。しかしここで泣けば必ず追い討ちが来るところがわかってる辺りが5才児との違いだろう。

「はぁ、ハイハイそうですよどうせ5才児ですよ!」

あっさりいじけるところはとても15才とは思えないが

「で、5才児名前は?」

そう聞いてあげたのは、ある意味善意なのだろう。彼は悪人では(ないと思っている)ので苛めるのはここまでとして、本題に入った。

「あ、はいコウレインと言います。よろしくお願いいたします。」

5才児、コウレインはそう名乗った。背丈は140センチ前後と言ったところだろう。中国語訛りの英語を使う辺り、中国人かと紺英は思った。

「で、コウレインお前は何しに来た自分たち二人を潰しに来たのか?」

そう聞かれてコウレインはふるふると首をふった。そして答えを返した。

「僕の今回の目的は既に達成出来たので戦いはしません。けれど売られた喧嘩は買います」

と、言った。それは紺英の望む答えだった。なぜなら勝利者を決めるのだからトンズラしようが文句は言わないが、戦う気のない者は最初から出るなと言いたい。勝てないから逃げるのは良いが、やる気はないのに出られるのは迷惑だ。命の重さが解らないならどんな天才魔法使いもただの愚者だ。それをコウレインは解っているのだ。

「じゃあ、協力してくれないかコウレイン?」

「ちょっと!私を無視しないでくれます!?」

アデライーダは今の今まで完全にスルーされていた。おいてけぼりである。

そして、ついに我慢の限界を迎えたのだろう。

紺英は、一瞬アデライーダに目を抜けるが、何事もなかったのようにコウレインに目を戻した。

「で、どうすんの?」

「無視するなぁぁぁ!」

コウレインは今気づいたとばかりにアデライーダに目を向けた。

「あ!ごめんなさい、何方でしょう?」

「気付かれてすらいない!?」

ここで紺英のちゃかしが入る。どうせなら平等に苛めようと決めたようだ。

紺英の顔が悪い顔に変わっていく(本人は自覚なし)。

「紹介しよう。ロシアで最もありがちな顔と名前の自分の知る限り六人目のアデライーダだ。」

「な、名前はありがちですけれど顔はありがちではないわよ!」

((アデライーダって馬鹿だ!))

さらに紺英は攻撃材料を手にいれ精神攻撃をよりいっそう激しくしていく。

「ほらな、本人も認めるところだ。」

「うわぁ、こんな美人がロシアに一杯いるなら行ってみても良いかも。」

「ほう、お前も苛めるコツを掴んできたな。さりげなく顔もありがちとか言ってるな。」

コウレインにそんな気はなかったのだが愉快な気持ちにもなってきたので、もう暫く続けることにした。案外根は紺英と似ているのかもしれない。

「ああ、けれどこんな顔は僕の叔母に似ていますね。」

紺英より精神攻撃が酷すぎる。

「あーッはッはッはッはッは!」

大爆笑である。紺英はついに道のど真中で笑い転がり始めた。

「お、お前コウレインの叔母さんに似てるってよ!若作りの叔母さんと!コウレイン、叔母さんいくつ!?」

「五十六才ですね。」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

暫くの間道では笑い声と悲鳴が響き渡っていた。

紺英ではなく、第三者のコウレインのPTSDになるレベルの惨すぎる精神攻撃を受けアデライーダは、与神戦争をリタイアせざるを得なくなる。

「で、コウレインお前参加者の人数とか解ってる?」

紺英は、今一番重要と思える情報を持ってないかコウレインにたずねる。コウレインは知ってますと言う感じで頷く。

「大体の数は十人程だったと思います。」

そこそこの人数だ。さて、一体どうしたものかと考えるが

コウレインの次の言葉で思考が停止する。

「けれど、もう四人やられましたよ。」

余りにおかしな話で思考がついていけない。なぜならまだ始まって多く見積もっても二時間程だったと紺英は考える。その考えも次の答えで納得がいく。

「なにせ国防大臣の息子さんが参戦してますからね」

「ああ、そういやそうだった。」

開始直後にミサイルをぶっぱなしてくるような輩だ。三人なら余裕だろう。爆音が聞こえないのは、魔法によるものだろうと結論付ける。余談だがアデライーダは未だに道の真ん中で真っ白になって倒れている。

「そうなると後三人か、わけわからん参加者は?」

そうですねと、コウレインは頷く。

「けれど、三人とも真っ直ぐこっちに走ってきてますよ!」

「げっ、流石に三人もいたら潰しに来るか、しゃーないやるっきゃないか。」

しかしコウレインはその考えを否定した。それとほぼ同時にアデライーダがガバッと起き上がる。

「あ、今三機合流しました。」

「こ、これはかなり不味くない?」

二人の言葉が同時に聞こえると町の南側が赤く光った。まず間違いなく戦闘機の爆撃だろう。しかし爆発が起こったところは瞬時に直っていく。恐らく、あれがボンボン(国防大臣の息子)の神から授かった力なのだろう。あの規模を瞬時に直すなど超人でも無理だ。

紺英は二人に体育の授業の成績を聞いた。

「私は、中学では5で高校では10よ」

アデライーダは自慢気に言う。コウレインはというと…

「ごめんなさい、全然運動出来ません!」

と、半泣きで言う。はぁ、と息を吐くと紺英はコウレインを担ぎアデライーダに、走れ!と言って全速力で走り出した。アデライーダも後に続く。他の参加者の悲鳴と戦闘機の爆撃音が聞こえてくる。紺英の足元にも爆撃がある度に影が出来る。そこにアデライーダが紺英に並行して疑問を投げつける。

「ちょっと!貴方の力なら何とか出来るんじゃないの!?」

「どうせ、ボンボンの考えることだ。六人を一ヶ所に集めて一掃しようってこんたんだろうよ!」

「なら貴方何とか出来る考えがあるの?!」

「無い!!!」

「「「「「無いんかい!!!!!」」」」」

この時ばかりは、参加者とか関係なく生存をかけた五人の参加者の意見が一致した。

自らの命をこの黄色い猿(日本人の昔の呼び名)に預けるということは死の宣告に等しかった。魔法使いである以上死は覚悟しているがこんな死にかただけはごめんだった。

「けど、ここまでされてオメオメ日本に帰れるかよ!ボンボン絶対ミサイルの先っぽに縛りつけて宇宙にぶっぱなしてやる!」

そんなこんなしてるうちに町を抜けいつの間にか広大な野に出た。ギリシャにこんな広大な野はなかったはずだと参加者達は思った。魔法使いである以上戦況を有利に進める為に地理は徹底的に調べあげている。こんな盲点を見逃すほど愚かしい参加者は開始三十秒とたたず即殺される。

そこに、群青色のスーツを着た男が来た。歳は二十五才~三十才といったところだろうか。

「ようこそ我が国ギリシャへ、私の名前はエレフテリオスだ。以後お見知りおきを。」

大袈裟な挨拶を述べた後ボンボン、エレフテリオスは魔法を行使する。

「さて、君達有象無象に特別に選ばせてあげよう。ここでくたばるか、それとも逃げ帰るか」

ここに来て戦闘機に追い回されていた六人中五人は、エレフテリオスがただのボンボンで無いことを正確に読み取った。五人が感じた魔法の流れは神降ろしの流れに合致する。

神降ろしは人間が使える魔法の中で最上級の魔法の1つだ。恐らくエレフテリオスが降ろせる神は今回の与神戦争の「御告げ」をエレフテリオスに与えた神だろう。それもかなり高位の。

しかし紺英にとってはボンボンであることに変わりはなく、エレフテリオスの株は絶賛大暴落中だった。己の物でない力をあたかも自分の物の様に使うという行為は紺英が嫌うものの1つだ。紺英の友人の降時も神降ろしが出来るがあれは代償を払えば呼び出せる事が出来るものしか呼び出せないし、複数の神に己を認めさせるという途方もない努力によって成し遂げられたもの故にけっして降時の神降ろしは嫌ってはいない。寧ろ、そこまでの難行を成し遂げられたからこそ、降時には絶対勝てないと思っている。紺英はけっして己がそこの域に及ぶことがないのを知っているから大真面目に「お前も最強の分類だろ」と、言えるのだ。盗んだ装飾品では人に誇れず、努力という名の貯金をし装飾品を手にいれる事こそ本当の意味で誇れるのだ。紺英はそう確信した。

「まさか本当の5才児が出てくるとは思わなかった。」

その言葉にコウレイン含め戦闘機に追い回されていた最初の三人が絶句した。アデライーダは一瞬驚いたような顔をしたが、直ぐに納得したような顔になりエレフテリオスを強い視線で睨み付けた。

「何だと?」

言われた当人からしてみればどう考えても即殺出来るような状態なのに5才児とバカにされたのだから、これがプライドの高いエレフテリオスの逆鱗に触れたのは当然だった。

「この僕が特別に逃げても良いと言っているのに断るどころか馬鹿にするとは愚か者の域を越えて死にたがりか?」

「は、己の力で他人をぶちのめさず、兵器や地位に頼っておいてどちらが愚か者か」

すぐさま激昂し怒鳴ろうとするエレフテリオスを二の句で黙らせると紺英はエレフテリオスを指差して宣言する。

「お前は、自らの選択と力で何かを得たためしがない。だから大きな力で脅せばすぐなんとかなると思ってんだろう!けどそんなんじゃ俺には絶対に勝てん!証明してやる!俺はお前をぶちのめしてこの力を本当の意味で己のものにしてやる!」

その宣言を黙って聞いていたエレフテリオスは、神降ろしを速やかに実行。辺り一帯が金色の光の粒子に包まれる。エレフテリオスの右手に光の長槍が顕現する。

「そうか、そこまで言うならこの力が努力でどうにか出来るか証明してみろよ」

そう言うと、エレフテリオスの姿が眼下から消えた。アデライーダの時の比ではない。瞬時に「混沌」の力で体を覆いその長槍、恐らくゼウスの武器である雷霆(ケラウノス)ではないかと予測した物を体で受けた。瞬間紺英の体が白く光る。ケラウノスの雷の力で辺り一帯にいる者の動きを止める。しかし、紺英の体にケラウノスは貫通しているがそれだけだった。唖然とする一同。

「バ、バカな!そんなバカな!全能神ゼウスの武器を受けても平然としているだと!?」

受けた紺英は、何度か貫通した部分を擦るが、全く問題なさそうだった。そこに

「やぁ、紺英久しぶり」

と、場違いな声が響く。そこにいたのはアデライーダと全く同じ容姿の女性だった。

「よう、混沌今ごろ起きたのか?」

そう紺英が聞くと「混沌」は欠伸をし眠そうにそうだよと答えた。

そこにエレフテリオスの操るケラウノスが迫るが「混沌」は指先1つで止めてしまう。それだけならまだしも、ケラウノスがボロボロと朽ちて最後には砂になってしまった。参加者六人は流石に夢でも見ているのではないかと思い始めた。いくら番外であり例外の「混沌」でも流石にそれは無いだろう、といった感じだ。

うーんと、伸びをする「混沌」は、もう一度欠伸をして涙を拭う。

「ふぁぁ、起き抜けに面倒なもの向けないでよ。すべてが僕であり僕がすべてなんだからそんなもの効かないよ。」

ケラウノスを消されたエレフテリオスは、暫しの間硬直していたがすぐさま正気に戻り

「混沌」の顔を殴り付けた。辺り一面が雷によって照らされるが「混沌」は防いですらいない。絶句するエレフテリオスに「混沌」が目を向ける。

「しつこいぞ、お前」

そこには感情はなく、事務的な口調だった。そして死の宣言でもある。エレフテリオスの体がケラウノスと同様に朽ちていく。絶叫するエレフテリオス。

「体が朽ちていく感触はどうだ?」

その答えをエレフテリオスは返せなかった。次の瞬間には体が朽ち終わったからだ。辺りに静けさが戻り、気付けば元の町中にいた。

そして紺英はもう1つの異変に目を向ける。

「それが望んだ姿か?」

そこには見るからに好青年という感じの「混沌」がいた。

「うん、ありがとう♪これで人の姿で遊べる♪」

そう言うと「混沌」は、またねと、言い姿が徐々に消えていく。紺英も手を振り別れの挨拶をした。

「さて、俺も帰るか目的も達成したし。」

そう言い今回の与神戦争の参加者達を振り返った。

「お前達はどうしたい?」

そう聞くと、

「まず、ご飯にしない?」

と言うアデライーダの意見に賛成する参加者達がいたので夜のギリシャにレストランを探しに紺英達は向かうのだった。

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