魔法のこと。
そういえば、あたしは少しだけ魔法が使える。お母さんに教えて貰ったんだけど、『便利だけどぉ、あんまり使っちゃ駄目よ?結構出来る人少ないみたいだから』なんて適当に笑っていた。お、なんだなんだ、チートの匂いがするぞ。
が!!残念なことにあたしはお母さんみたいに瞬間移動の魔方陣やら、ボワッとした火やら、ズバーっと吹かす風なんて全くできなかった。どこにいった、属性とやら。
あたしに出来るのは、ちょっとした擦り傷を治すくらいだ。
それもこんな所にいれば全く使わない。
『フギャヒ?』
ぼんやり日課の考え事をしていると髪の毛をツンツンと引っ張られる。この声はミキオ君だ。やっぱりこの長い髪邪魔だな。
「なあに?あ、ていうかミキオ君、君すごく良い爪持ってるよね。うん、それそれ。え?なに、空気だって切っちまうぜ?ああ、そんな確認しずらいのは切らなくても良いよ。それより、」
褒められたのかどこか得意気に羽をパタパタとさせるミキオ君にニッコリ微笑む。
「この髪、切っちゃってよ」
それも、ばっさりとね!グゥサインとウインクまでサービスしたのに、ミキオ君は
『フニャフニャ』
ん?
「嫌なの?なんで?え?爪が割れちゃう?酷いな、意外とサラサラだよ、あたしの髪。ん?違うの?爪が溶けちゃう?いやーミキオ君益々酷いよ。」
あたしは妙に震えたようにぷるぷると頭を振るミキオ君を撫でてから、やれやれと溜め息をついた。全く、あたしの髪を何だと思ってるんだい。
まあね、精神年齢オバサン化した自称十六歳の女児がさ、昼間っから(ずっと昼間だけど)らりほーとか言いながら規格外な生物と戯れてたら、あたしだったら引くね。ドン引きだ。しかも白銀髪の超チリ毛。体型がヴィーナスなら心を奪われちゃうのかもしれないけど、どう見ても貧相だし、傍目から見れば、かなりの確率で変人じゃないかな。まあいいんだけど!だって人間みたいなのはあたし以外一人もいないし。かくゆうあたしも最近人間離れが深刻だ。
それにしても、いつまであたしは此処にいるんだろう。
お母さんのように空間移動も出来ないから街には行けないのが非常に不便だ。
後であの向こうまで散歩してみよ。なんか発見があるかもしれないし。
なんて――――
あたしはこの状況に慣れはしてもまだそんな感じで悠長に過ごしていた。
今考えたら、この時が一番平穏だったのかも。




