髪の毛の話
この世界に生まれて早十六年。地球にいた時の年齢にもうすぐ追い付く。あたしゃ一体精神年齢何歳なんだと、考えると目眩がするからやめとこう。それから、不思議なことに地球にいた頃と同じ所がいくつかあるんだよね。
いや、きっと全く違うんだけど、基本的には。
だけど、見事な黄金の髪だったお母さんの色素を全く遺伝していないこの真っ黒な黒髪は、以前を色濃く思い出す。お母さんが言うにはお父さんも黒髪だったみたいだけど。あ、遺伝しなくても良かったチリチリのくせ毛は、お母さん譲りかな。
地球でのあたしは、日本という国で育ったけれど物心ついた時には施設にいたから親の顔は知らない。
別に悲観してる訳じゃない。それが当たり前だと思わざる得ない状況だったから。
周りの子達に比べて容姿や体質が少し異なっていたという自覚はある。
身長が高くて凹凸の無い体、それに年中短い髪のせいでよく男に間違われた。いやぁよくモテましたよ、年齢問わず女性から。軽くハーレム作れるんじゃないかと。
…ぬぉ、なんか泣けてきた?
とにかく、あたしの髪が短いのには理由があった。みんないつも、『全然髪型変わらないね』なんて言ってたけど、違う。伸びなかったんだ。腕や足は伸びていくのに髪の毛だけ全く伸びなかった。
中学を卒業する頃には流石にこれは尋常じゃないと気付いたけど、美容院に行かなくて良いからオケーとプラス思考。体質なんだろ、と長い髪には憧れを抱いたままだったけど、
しかしですな、
今のあたしは手に入れたのだ!
チリチリだけど腰まであろうかという長い髪を!!
この万能温泉様のおかげなのか髪は栄養が行き届いた艶々さ!それにお肌もデトックスしましたか?並みのツルツル加減。いやぁ、流石若さ溢れるこの体!いくらお洒落に無頓着なあたしでも感激だ。
だけど、問題がひとつ、
憧れの長い髪は日に日に伸びていき、いや何度もゆうようだけど昼夜がないから、どれだけの時間を要したかは分からないけども、とりあえず、今まで伸びなかった分を取り返すぜ!みたいに伸びるわ伸びるわ。
鋭利な刃物もないから切る事も出来ないし伸ばしっぱなし。
今では、もう身長を軽く追い越している。流石にこれだけ伸びると毛根イカれてんじゃないかとか思うけど。伸びきったら最終的にファサッと全部抜け落ちて一瞬にして丸坊主になっちゃうんじゃないか、とか。うん。すごく嫌だ。
髪の毛の伸びるぜ意欲と全く成長しない幼児体型(というより幼児?)な身体つきは以前とは全く正反対だけど、顔立ちは何となく前に似ているし、何より────地球にいるころと全く変わらないこの瞳の色が、以前を思い出す一番の要因だ。
勿論、全く違う点の方が多い。
例えば、これはこの世界の常識なのか、少し微妙な所だけどあたしの視力が有り得ない。平原なら50メートル強は向こうのチビ猿君がはっきり見える。ちなみにチビ猿君は身長50センチ弱。うん、視力測って欲しいな。
他にも耳も異常に聞こえるし、この間、馬の体に鷹の顔のポスト君と暇つぶしに駆けっこした時は良い勝負だった。元々運動神経は悪くないけど、パワーアップしたのは間違いなく。
お母さんが魔女だったからなのか、それともこの世界特有なのかはよく分からない。
泉の中の食料魚探索中も、長時間潜っていられるし、もう人間超えたんじゃないかと。激しく複雑。
そして―――
ある日、小鳥に似た何匹かの小動物にいつものようにつつかれて昼寝から目覚めた時、変化は起こった。いや、起こっていたのかな?体に巻きついている長い髪の色までも変色してしまったのだ。
うぉぉ、なんじゃこりゃあぁぁ
叫んだね、流石に。
銀髪だ。銀髪。
ていうか、もう殆ど光加減で白。
真っ黒な髪は色素を抜ききってしまったのかそれともやっぱり散る前の狂い咲きなのか。ああ、無情。
自分の容姿を確認した事はないけど、何となく頭でイメージしているのは最早、ちびっこ仙人だ。頑張れ、自分。
そんな身体の変化は顕著に見え始めて、あたしはゆっくり成長していった。
時間の概念が恐ろしく分かりづらいこの場所ではあたしの年齢が今いくつに相当するのか本当は疑問な所だけど、最後に街に出た時、お母さんが『来年ルーも成人ねぇ』と仄めかしていたから多分今は十六の筈。この世界では十六が成人年齢だ。相変わらず、胸の凹凸は変化無く、ばいんばいんの乳は手に入れてない。
そういえば、リスサイズのチーター君には驚かされたな。あたしの懐に潜り込んであろうことか下半身の大事な部分を寝床にしてしまってくれて、ついに男に変化してしまったかと涙を流すとこだった。股間のモッコリは必要ありません。乙女なのです。
そんなこんなで、変化を受け入れてながら、ファンタジーな彼らと仲良く生活してます。




