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幕間

 


 ───────

 一歳にも満たない女の赤子を優しく見つめる母親、その光景は美しい絵画のようである。

 子の母親は繊細な造りをした美しい容姿を持ち、その瞳は一度目にすれば吸い込まれそうに澄んだ青。父親は此処にはいない。

 抱かれた赤子の髪はある種族にしか現れない希少な漆黒。母親譲りのクルクルと細かいウェーブが艶やかに光る。白く赤子特有のきめ細かい肌に長い睫毛が乗る瞼をそっと指先で触れる、その下に在る稀有な瞳の色は今、誰にも見せまいと閉じられている。母親の名はエリゼ。腕の中で眠る我が子の髪を愛しそうに撫で、子守歌を口ずさんだ。

 戦乱が治まったその後に産まれたが、世はまた乱れるだろう。運命の輪のもとに。

 この子が大きくなるまでは守っていられるだけの力が残っていれば良いのだけど、とエリゼは哀しそうに微笑んだ。


 深い眠りついたルーは知らない。自身の秀でた容姿も、出生の謎も、また、その混乱する意識の理由も。






 時を同じくして、霧に包まれたシュラン最大の城、竜王宮では老いた竜王が天命を迎えようとしていた────






 ***


「レイザ、お主が次の王じゃ、余はさっさとくたばるでの。皇国はこの国が新王を迎え、混乱が起きれば目敏く戦を仕掛けるじゃろう。和を叫んだ所で、その野心は隠しきれぬ。あの国は姑息じゃて」



 王はホホと笑いながら、枯れた手をレイザの頭に乗せる。その暖かさは変わる事なく、王の人柄を察するに充分であろう。



「侵略などさせませんよ。蹴散らしてみせます」



 だから、安心してさっさと逝って下さい。レイザがその丁寧な口調に優しい、とは言い難い砕けた言葉を淡々と言う。辛辣なそれに反してその新緑の瞳に浮かぶ表情は平常では見られない程、情に溢れている。常から最も冷酷な竜族最強の戦士と名を馳せる美丈夫のその眼差しは決して他が覗くことはないだろう。 王はゆっくり頷くと、レイザに竜王剣を渡した。老いた体からは想像を絶する威圧波は未だ衰えず、死に歩く者とは思えない。



「…《鍵》が現れた。必ず手に戻すのじゃ」



 ゆっくりと紡いだ言葉にレイザは目を見開いた。しかし、それも一瞬。レイザは恭しく頭を下げ両手で剣を支える。王はそれを見届けると眠るように生を終えた。






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