日常生活をお送りします。
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「ふぅむ、やっぱり塩加減が足りないなぁ」
この世界、調味料は流通しているのだけど塩は高価なのだ。
目の前の瓜を眺めながら、やっぱり漬け物は無理だなーと肩を落とす。
「ルー、それは何だ」
酔いそうな美声を耳元に無用心に落とすのはやっと見慣れた凄絶美形。
「サキ、いっつもいうけど近いよ」
シッシと手で追い払う仕草にも、「面白いな」とその手首を目線で追いながら興味を示す。駄目だ、やってらんねぇ。身長差の為か睨みつけてもサキにとったら上目遣いに甘えているように見えるらしく「ほど好い」とか訳の分からない笑みを浮かべていた。一回殴らせて。
「それは何に使うのだ?」
投げやりにサキから視線を外してまたフゥと息をつけば、サキはまた疑問を掘り返してきた。どうやらこの即席ピューラーに興味があるらしく、サキは澄み切った瞳でそれを凝視している。
ガキか。
思わず呟きそうになったけど、傍目から見ればあたしは子供でサキは立派な大人だ。矛盾した何かに悔しくなってプゥと口を膨らませた。
「これはジャガ芋の皮を剥く便利グッズだよ。あ、これがジャガ芋。こっちではイモムシっていうらしいけどそれは心が受け付けないからジャガ芋なの。」
コロコロした土付き新ジャガを手にあたしはサキに説明した。サキは理解したらしく「ルーは賢いな」と感心している。
サキは好き嫌いがないし、あたしの料理に文句も言わない。しかも並々ならぬ研究家なのかよく興味を示す。その度に教えれば、すぐ理解を示す飲み込みのよい生徒だ。
サキとの生活も早、一週間。穏やか過ぎる。一年人間と会話してなかったせいか無口で変な言葉遣いのサキとの会話でも地味に楽しい。地味だけど。
それに、あの出会った時の人間離れしたオーラや威厳の有りすぎる超音波もいくらかマシになって今では美形の無駄遣いだ。
年頃の娘が訳の分からない美男子と共同生活なんて危険過ぎるとか柄にもなく思ったけど、あたし実年齢と精神年齢はともかく見かけは十歳程度だからね。サキはぶっ飛んだ発言はするけど、隙あらば愛玩動物のように抱きしめられたりもするけど、単に過剰なスキンシップだと納得している。
サキもきっと孤独だったんじゃないかと思う。だから話相手が出来てきっと嬉しいんだ。それに、「愛し子」といってもあたしを見つめる視線は、モザイクかかる年齢制限有りの物じゃなくて、雛鳥が親鳥を見るようなものだから。この場合雛がサキで親があたしね。
「我は鳥では無いぞ」
サキが相変わらず無表情にあたしを見る。例えだよ、例え。
「心読まないでよー」
おちおち考え事もできやしないよ。
「ルーは思考が短絡で良い」
褒めてないだろ!




