転生前の記憶のこと
前世のあたしは、今のあたしとはまるで違っていた。
伸びない髪。凹凸のない体は縦に伸びて、まるで常に男装しているみたいだった。更に、瞳の色は異質で、感情が昂ぶると紫に変化したように見える。気持ち悪いと、よく言われたけれどその言葉は間違いじゃない。親もいなかった。成績は良かったし、少ないけれど理解し合える友達にも恵まれていたと思う。良くも悪くも目立つ環境で、あたしにあったのは変わらない己自身。何も隠す事なんてない。あたしがあたしである限りそれは何も変わらないじゃないか。強がる事で存在意義を保った。
『そんなおまえが好きだよ。とてもおまえらしくて』
そう言って認めてくれたのは、確かに大事な人だった。
伸ばされた優しい手を取る事は決して叶わないと知っていたから、
『…馬鹿。ねえ、知ってた?あたしはあなたなんか大嫌いだよ。ずっと』
あの日───突き放したのはあたし。
だって、一緒に生きていくだけの強さはなかったよ。あたしには。そして、その意味を見つめる事ができるほどの強さも。
事故に遭ったのはその直後だった。
小雪、あたしの名前。
咲矢、彼の名前。
生まれて初めての恋。
優しい彼に、期待して、勘違いした。
咲矢は、あたしをそんな対象にすら見る事はなく、これから先未来永劫それは変わらない事実だったのに。
彼に出会って知った事。
あたしの父親は世界的な規模の会社を持つ財閥の直系で《悟》と言う名前らしい。有り得ない女癖の悪さで、気まぐれに異国の女と遊んで、産まれたのがあたし。だけど《悟》は既に結婚していて、あたしを認知するはずもなく、異国の女はあたしを産み落として、捨てた。背景はよく分からない。ただ、その話にあたしが、いらない子だったという事実だけ理解できた。
それをあたしに話したのは咲矢の婚約者という人。
あたしと咲矢の距離が縮まるのが面白くなかったんだろう。
『気持ち悪いわね。汚らわしいとしか言えない。』
そこまで全否定されても実感がない。だって、親の顔すら分からない。三流のドラマの脚本のようだなと思ったくらいで。どこか他人事だった。この逞しさがあたしの唯一の誇りだったし。
ただ、そんな話をあたしにする理由が分からなかった。だって、その話の通りならあたしの父親はあたしの存在が疎ましく、認める筈はないじゃない。母親に至っては、消息さえ掴めず、生きているのかさえも分からない。大体、そんな話をしなければあたしはその事実を一生知らなかっただろう。
『で、なに?』
あたしはイチミリも表情を崩さず聞いた。あたし自体を馬鹿にしているのは分かる。だから、動揺なんてみせてやらない。
『あなたの美しいおかおが歪む位には目障りなんでしょうけど、それがどうしたの?わざわざ教えに来てくれたことにお礼を言えば満足かな?』
欲しいものを手に入れる為には手段を選ばない、真っ黒な感情に前向きな、自分が一番正しいと信じる浅はかな心意気は嫌いじゃない。うん。あたしに向かなければ。
顔を真っ赤にしたお嬢様は、勢いそのままにあたしに吐き捨てる。
『随分余裕ね?可哀相な子だと、同情してもらっている理由を教えてあげたのよ』
フンと高飛車に口を歪めた彼女は、馬鹿にしたように笑った。
『ねぇ、義理、とは言えお兄さんに恋をするってどんな気分なの?』




