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VSヤンキーくん

「っぷ!!」


俺は再び海水に飲まれ、店の外へと押し出された。鼻から口から、とめどなく海水が体内に流れ込んでくる。頭がぐるぐるして方向も分からず、ふらふらのまま俺は道路に投げ出された。


「おいおい、なんで力使わねンだよ?」


ヤンキーは、駄菓子屋から出てきながらそう言った。幸いにも店の外には通行人はおらず、この意味不明な超能力バトルを見られる心配はなかったが。


だが、そんな余計な心配をしてたら冗談抜きで死ぬ。マジで死ぬ。相手の能力がただでさえ強えってのに、こっちは能力の内容どころか、発動の仕方すら分かっていないのだ。


「なんで使わねえのかって……?」


何とか道路の脇にあったガードレールにもたれ、ぐるぐるになった頭を休ませる。いや、能力使わないんじゃなくて、使えねぇんだよボケ。

察せ。


というかそもそも、こいつの説明にはおかしな箇所がある。『海の日の能力』なんだから、手から水が放出されたら、それが海水だというくらいは分かるだろう。


だが、なぜ『日本海と掌を繋げる』なんて、能力の具体的なとこまで分かったんだ?


「お前……自分の能力をどうやって知ったんだよ……?」

「はぁ?駄菓子屋のババアに聞いたに決まってんだろ」



……おばちゃん、俺に何か恨みでもあんのか。


「俺ん時は教えてくんなかったぞ!」

「知るか。どっちにしろテメェは今、能力使えねンだろ?」


ヤンキーが、挑発するように俺を見る。ムカつく事この上ないが、今の俺にはどうすることも出来ない。


「なら、運がなかったってことでよ……死んじまえや!」


掌から吹き出す水の勢いはさっきよりも増していた。迫り来る海水を横っ飛びでかわすと、俺は頭を振り絞って考え始めた。


さっき自分から能力を喋ってくれたことといい、こいつははっきり言ってバカだ。これがバトルものの漫画なら、まず一番にやられる位のバカだ。


おまけに奴は、自分の能力に陶酔しきっている。そして、俺にはもう反撃の手だてがないと考えている。


だとしたら。


「くっそぉおお!どうやって能力発動させんだよぉおお!」


俺は水をかわしながら、そう叫んだ。


「ははは、憐れだなぁ!自分の祝日を唱える、なんて簡単なことにも気づかねんだからよぉ!!能力『海の日』、発動!!」


水流による攻撃を、転がってかわす。


しかし、能力発動の瞬間が見れればラッキーくらいに思ってたけど、まさか懇切丁寧に説明までしてくれるとは。


俺は深く息を吸った。


さあ、俺の能力は何だ?



「能力『こどもの日』、発動」






その時、頭の中にメッセージが流れた。


────────────

能力『こどもの日』が発動しました。能力使用者は『遊び』のルール設定を行って下さい。


※なお、全国共通のルールを持つ遊びは、ルール設定を行う必要はありません※

────────────


なるほどこれ、『子どもの遊びを現実世界に投影する能力』だ。


「ちっ、発動したみてぇだな」


俺が能力を発動したのに気づいて、ヤンキーが少し動揺した。「何で能力を発動できたんだ?」とでも言いたげな顔をして、しきりに首を捻っている。


「おいテメェ、それどんな能力だ?」

「フッ、さあな」


聞かれて素直に答える馬鹿はいないだろう。幸いにもさっきのメッセージはヤンキーの頭には流れてないみたいだが、こちらの能力の内容はバラさないのが当たり前である。


ヤンキーの能力はさっき教えてくれたから知ってるけど。つくづくアホだ、と思った。これじゃ、俺に勝ってくださいと言ってるようなもんじゃないか。


さっきまでの焦りはなく、頭のなかはスッキリ爽やか。どうすればいいのかも、はっきり分かる。


「『遊び設定:氷鬼』」







──『氷鬼』──


鬼ごっこ、そしてその派生の遊びの起源は古い。


始まりは、時代をさかのぼり1300年前のこと。宮中行事として五穀豊穣を願う儀式「鬼事おにごと」として行われていた祭事だという。


さらに時は移り江戸時代。鬼ごっこの原型である「ことろことろ」が生まれ、鬼ごっこはいよいよ、遊びとしての頭角を現し始める。


近代に近づくにつれ、『高鬼』『色鬼』『手繋ぎ鬼』『ケイドロ』など、様々かな派生し、子ども達の手軽な遊びとして浸透していった。


発動したのは、その派生のうちの一つ『氷鬼』である────



「おお……」


発動と同時に身体が青白く輝き、爪や耳、皮膚などが、本物の鬼のように変化していく。に゛ゅりっ、と気持ちの悪い音を立てて、角まで生えて来やがった。


んふふ、待たせたねヤンキー君。バトル再開といこうか。


「チッ、そんくらいでいい気になんな……っらぁ!」


海水が濁流となって押し寄せてくる。だが俺は小さく笑って、青白く光る両手を海水にかざした。


「は?」


かわす必要がないのだ。『氷鬼』の掌は、触れたもの全てを瞬時に凍らせることができるから。ヤンキーは起こった出来事を理解できず、暫し立ち尽くす。


「何だ、もう終わりか」


ゆっくりとヤンキーの元に歩み寄る。恐怖で顔が真っ青になったそいつは、もう逃げることすら出来なかった。


「バイバイヤンキーくん。お前がくれた情報に感謝します」


ああこの能力、かなり『当たり』かも知れん。

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