8,臨める兵闘う者
物資を積んだ馬車に乗った晴也は、手元にあるメモをずっと見つめている。先日の襲撃で埋葬機関シュヴァリエンと呼ばれる暗殺組織の幹部から問いただした情報である。もちろん、情報を聞いた幹部にはヴェレから重度の自閉症を負わされた。
しかし、フラクロードへの道は険しい。その上、太陽がジリジリと照りつけている。
「ざっけんな、暑いんですよ。はぁ、アフガンですかここの気温は」
「我慢です坊ちゃん」
「分かりましたよ。さてさて、あとどれくらいで着きますか?」
「もうすぐですね社長」
東方統合兵器廠営業部の面々は、首都フラクロードの少し手前にある駅で降りる。なぜならば、内戦の影響で汽車が首都まで入れないからである。そして、武器を積み込んだ馬車を従え、首都へと向かっていた。
「はぁ、緊張した……」
晴也は横で胸をなで下ろすエレンの頭をそっと撫でる。
「良かったですよエレンさん、見事な魔法でした」
「本当ですか!?良かったぁ……」
エレンは自分の使い魔であるサボテンのような生物を抱きかかえる。その姿はまるで、テディベアを抱きしめる幼い子どものようだった。
「可愛い……」
「ハルヤさん?」
「あっ、いや、何でもありませんよ、ハハ」
「「「(落ちたな社長……)」」」
晴也が笑いながら話を逸らそうとした時、キャラバンの先頭を進む馬車が停車する。私兵達は銃を取り出すと、先頭へと歩いていく。馬車の中で待機する晴也の横は、エレンがガッチリガードしていた。
しばらくして、祭神が馬車へと戻ってくる。
「坊っちゃん、良いニュースと悪いニュースがありますが、どっちからで?」
「良いニュースからでお願いします」
「坊っちゃんの取引相手である大公派の相談役が武具防具を倍値で買い取りたいと訪ねてきました」
「ほう……で、悪いニュースは?」
「ここに来る道中、その買取金をどこかの村民に奪われてしまったと。おそらく、女王派がよこした工作員ではないかと」
プチンと、何かが切れる音がした。エレンが恐る恐る晴也を見ると、満面の笑みの彼の額には青筋がいくつも浮かんでいた。私兵たちはこれがヤバイ晴也Level3の顔だと知っているため、余計なことは言わなかった。
ちなみに、ヤバイLevelは最大で7まであり、7を越した姿は鬼神の如くという。
「や、やってくれましたね女王派ども……」
「どうします坊ちゃん?」
「ケイネスさん、ヴェレさん、エヴァを呼んで来てください。そして、大公派の兵士を集めてください」
「何をする気ですか?」
「殴り込みです」
数分後、金をばらまいて集めた腕自慢の兵士達がケイネス達に連れられて晴也の元へとやって来た。晴也は彼らを見回すと、咳払いをして口を開いた。
「集まってくださり、ありがとうございます。皆さんにしてもらいたいのは女王派に奪われた契約金の回収です」
集まった兵士たちは口々に楽勝や、簡単なお仕事と言い喜ぶ。そんな彼らに、晴也は「それと」と言って付け加える。
「女王派はぶっちゃけ、みんな殺して構いません。痛ぶって嬲って犯して奴隷にしても構いません」
それを聞いた兵士たちは一瞬驚くが、戦場で人を奴隷にしたりすることが出来ると喜び、雄叫びをあげた。
「さぁ、殺し合いだ。ルールは奪い返し、ヘッドクォーターズだ!」
精鋭、そして士気旺盛の荒くれ者たちは、女王派に奪われた買取金を奪い返しに行く。