7,猟犬たちの晩餐
晴也が扉を蹴破る。そして、エヴァとヴェレがその間からすり抜けるように車内に侵入する。扉の先には、何人もの殺し屋の男たちがいたが、突然の出来事で戸惑っていた。そして2人は、ナイフを逆手に、ショットガンの引き金をひく。
「ファング!」
「私のお兄ちゃんをいじめる奴なんて死んじゃえ」
低姿勢から繰り出されるヴェレのナイフさばきで首を掻き切られ、素早い動きで敵に12番ゲージの散弾を叩き込むエヴァの連携で、車内は殺し屋の死体だらけになっていった。晴也とケイネスは、何とか生きている殺し屋たちに、とどめの一撃を叩き込み、無力化していった。
「ハルヤ、こいつらの所属が分かったぞ」
「どこです?」
「なんだこりゃ?ま、埋葬機関シュヴァリエン……あほかこいつら、律儀に手帳なんて持ってやがる」
「実力もなし、情報統制もザラって、CIAも顔負けですね、「や、やめてくれ……ぎゃあ」おっと、血が付いてしまいました」
「相変わらず怖ぇなハルヤ」
そんなケイネスと晴也の少し後ろに付いているエレンは、初めて見る残酷な死体に体調を崩し、倒れそうになっていた。それを、ライフルを持った祭神が支える。
「よっと……大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます」
「死体は初めて?」
「こんな死体は……」
「だよなぁ、普通こんな死体なんて見ることないし……にしても、坊ちゃんやり過ぎだな。ケイネスのおっさんがそばにいるからあれで済んでるけど……」
それを聞いたエレンは唖然とする。目の前で殺戮を行う晴也の行動が、これでもマシだと言うからなおさらだ。あえて急所を外し、十分に苦痛を味わせてから殺すと言う残忍な行為を繰り返している。
「あ、あの人は……他にどんなことを?」
「取引相手のマフィアが金の代わりに薬を持ち出したら、ボスの首を生きたまま切り取ったり。自分をガキだとバカにしてきたライバル会社の社長の家族を、くびり殺して十字架に貼り付けて返したとかかな……でもそれらはね、相手が約束を破ったりしたからさ」
その時、二人の近くをナイフが飛び去る。
「きゃっ!?」
「おっと、頭下げなエレンお嬢ちゃん」
祭神は座席の影にエレンを隠すと、座席越しにスナイパーライフルで敵を狙撃し始めた。その狙撃は的確で、心臓部に一発、動きを止めた後に頭を撃ち抜くと言う技だ。先頭が残した敵を全て倒してしまった。
「と言うわけだ。エレンちゃんも晴也を引くのは構わないが、理解はしてやってくれ」
「分かりました」
エレンは不本意ながらも、自らの雇い主の晴也を受け入れる。一方その頃、晴也たちは最後に残った幹部級の殺し屋と相対していた。
「くっ!?貴様ら、総統を倒したのか?」
「あぁ……あのジジイの事?そうだよ、僕らが殺させてもらったよ」
「こ、このクソ野郎ども!」
幹部級の殺し屋、オルカスは二本の短剣を抜き取り、身構える。彼は、知る人ぞ知る一級暗殺者。数々の国の要人を手玉に取ってきた一線級の工作員だった。しかし、晴也はその圧倒的な殺意のプレッシャーを受けてなお、笑いながらヴェレに囁く。
「ヴェレさん、すみませんけど頼めますか?」
「余裕です」
ピースマークを作ったヴェレは、ダッチナイフとサバイバルナイフを抜き取ると、切りかかって来るオルカスの攻撃を弾く。オルカスの攻撃はとてつもなく速いが、ヴェレはその攻撃をしっかりと防ぐ。
「いいです、いいですねぇ!それくらいやってもらわないと困りますわ!」
「なぜだ、なぜ擦りもしない……ちくしょうがぁ!」
オルカスはムキになって突っ込むが、ヴェレは彼の頭を殴り、みぞおちに蹴りを入れる。そして、倒れたオルカスの胸にナイフを突き立てようとする。
「ストップ、まだ殺してはいけませんよヴェレさん」
「で、ですが」
「この方には色々聞きたいことがありましてね。そう、何もかも洗いざらい喋ってもらいましょう」
晴也はヴェレからナイフを受け取ると、不気味な笑みを見せながら拘束されているオルカスに近づく。
「質問です。殺し屋、誰に雇われた?」
「ふん、そう簡単に言うもんか」
「どの指がいいですか?」
「ゆ、指だと?」
「要望がありませんので僕が決めさせてもらいます……右手中指」
そうして振り下ろされたナイフによって、オルカスの右手中指が切断される。車内にはオルカスの悲鳴が響き渡る。
「ぎゃぁあーーー⁉︎」
「どうしてこうなっちゃったんだろ……?昔はもっと優しかったのに」
ヴェレが呆れてそう言うが、当の本人は全く気にしてないようだ。
こうして質問と言う名の拷問は続いた。